森の奥には……
倒したデスウルフを集めて全員で解体していく。
上位種と変異種を含めて六十体以上あるので、ものすごい重労働だ。
冒険者たる者、命を奪ったからにはきちんと礼を尽くして素材を取って有効活用しないとね。
「マグノリア嬢、前から解体は上手かったがもっと上達したな」
「ありがとうございます。解体を教えてくださったトレランツさんに褒めて貰えるのは、すごく嬉しいですね」
私がそう答えるとトレランツさんは照れくさそうに笑った。
トレランツさんはとても丁寧に解体や剣術を教えてくれたんだよね。
レルスさんのパーティーの方達には沢山のことを教えて貰ったから、すごく感謝している。
ずっと尊敬し続ける師匠達だ。
解体が終わり、デスウルフの素材として使えない部位などを集めて燃やす。
もちろん、森の中なので周りに火が燃え移らないように注意しながら。
後始末まで終わった所で今後の方針を決める。
「この後はこの森の奥の確認ですよね?」
「ええ、森の浅い所にデスウルフ達がここまで来ているということは、森の中で何か起きている可能性がありますからね」
「変異種もいたしな」
「気をつけて進むっス」
「そうだな」
方針が決まったので装備品の不備などが無いか確認してから進む。
レルスさん達はAランク冒険者だからこそこういう風に一つ一つ丁寧に確認しているんだろうな。
私も見習おう。
「マグノリアちゃん、このまま進んでも大丈夫そうかな?」
「はい、大丈夫です」
「何があるか分からないから気をつけてね」
レルスさんの注意に頷く。
全員で周囲を警戒しながら、森の中を進んで行く。
森の中を進むにつれて肌寒くなってきた。
春の終わり、夏が近づく季節には有り得ない現象だ。
天候を操れる、または周囲の気温に影響を及ぼす何かがいるってことか。
「これは異常事態ですね」
「いざとなったらマグノリアちゃん達はすぐに逃げてね」
「レルスさん達はどうするんですか?」
「戦うのが難しい相手でも逃げるのならどうにかなるから大丈夫だよ」
そうは言っても心配だ。
私の魔力量ならここにいる全員で転移しても平気だし、もしそうなったら全員で転移しよう。
慎重に進むと周りの木々に霜が付き始めた。
霜まであるなんて何がいるんだろう?
この森の奥には湖があってそこは開けた場所になっている。
私達がそこに近づくととある場所を境に、空気が揺れて周りの状態が変わった。
「結界か」
「結構な範囲に結界をかけていたようですね」
「とても大きい魔力の反応が湖の傍にあります」
「これはすごいな」
結界を通り抜けた途端にとても大きな魔力の塊がマップに表示された。
アイコンは不明。
魔物なのか何なのか分からない。
ゆっくり慎重に近づいて行く。
すると、水色の鱗をしたとても大きい龍が湖の傍に寝そべっていた。
「ドラゴン!?」
「……これは古代龍ですね。まさか、こんなところに古代龍がいるとは……」
「流石に前からいたのならミルキュアの者が気づくだろう。デスウルフの件もあるし最近来たんじゃないのか?」
「そうですね。その可能性が高そうです」
全員、呆気に取られている。
まさか、古代龍がいるなんて誰も思ってなかったから。
古代龍は普通の竜とは別物だ。
移動手段などに使われている飛竜や火山に住まう火竜、そのほかの竜達とは格が違う。
古代龍は古からこの世界で生きている世界の調和を司る一つの存在。
精霊王等と同格で一部では信仰の対象にもなっている。
ゲームではそこまでの描写が無かったけど、この世界に転生してから当たり前に学ぶ事だった。
「ここで少し様子を見よう」
「はい」
近づかずその場で古代龍の様子を見る。
よく見ると古代龍は傷を負っているようだ。
だから、ここで休んでいるのかな?
「何かしらで怪我をしたのか」
「そういえばここの湖には魔力が多く、魔物が回復する為に来る事があると聞いたことがあるな」
「あそこにこの古代龍の鱗みたいな物が落ちていますね」
私が指さす方向をレルスさん達が見る。
そこにはキラキラと輝く鱗が落ちていた。
もしかして、この魔力をたっぷり含んだ古代龍の鱗を食べたからデスウルフが変異したのかもしれない。
この古代龍は氷属性が強いみたいだし、アイスグレートデスウルフの属性とも一致する。
私達があれこれと遠くで話していると、古代龍がこちらを向いた。
そして、咆哮した。
ビリビリと鼓膜が破れそうなぐらいの音が駆け抜ける。
《何用だ》
念話で問い掛けられた。
圧がすごい。
レルスさん達と顔を見合わせる。
「永き時を生きる古代龍様にお会い出来て光栄です。近くで魔物が繁殖していたので、それを倒し調査する為に参りました」
《そうか。我はここから離れた場所で怪我をしたためここに来ておる》
レルスさんと古代龍様のやり取りを聞く。
やっぱり、古代龍様は怪我をしているんだ。
治したいけど近づくのは嫌がられそうだ。
どうしようと考えた結果、マジックドロワーの中にダンジョンの宝箱から手に入れた癒しのハープがある事を思い出した。
私はそれを手に取り魔力を込めて奏でる。
優しい音色が周囲に流れていく。
「マグノリアちゃん!?」
「癒しのハープですか。それならば古代龍様を癒せるかもしれませんね」
レルスさんを驚かせてしまった。
あちゃー、ちゃんと聞いてからするべきだったな。
怪我がとても痛そうで早く治してさしあげたいという気持ちが強すぎて、即行動していた。
サージュさんはハープを見て直ぐにどういう魔道具か気づいたみたい。
私は音に癒しの、光属性の魔力を乗せて、古代龍様の傷が癒えるように願いながら弾いていく。
《それは癒しのハープか。そなたは我の傷を治そうとしておるのだな》
「はい。少しでも古代龍様の傷が癒えればと思いまして」
《礼を言う。ここで休むだけよりも早く治っておるぞ》
「良かったです」
三十分ほど弾くと古代龍様に止められた。
《もうよいぞ。傷は全て治った。そなたが工夫して弾いたお陰でその道具本来の力以上の回復となったようだ。それでだ、そなたは名をなんという?》
「マグノリアと申します。今はリアと名乗っていることも多くございますが」
《マグノリアか。そなたは数奇な運命の持ち主のようだ。我の名はジェラード。それにしてもその腕輪は素晴らしい出来だな》
ジェラード様には私の辿ってきた人生とかが分かるんだろうか?
腕輪はアーテル達が作ってくれた物だから褒められるとすごく嬉しい。
「弟達が作ってくれた大切な物なんです」
《そこにいる者(精霊)が弟か?》
精霊の部分だけ配慮してくださったのか念話で副音声のように聞こえた。
ここにいる人達は全員、アーテルが精霊であることを知っているから聞かれても大丈夫なんだけれどその気遣いがすごく嬉しい。
「はい。もう一人、弟がいますが二人とも自慢の弟です。そして大切な家族たちと協力してこの腕輪を作ってくれました」
《そうか。そなたの優しさに感謝する。礼としてその腕輪とそなたら姉弟に加護をつけてやろう。腕輪に魔力を込めれば我を呼び出す事が出来るぞ。また、その加護を我の同族、同胞に見せれば、手を貸して貰う事も可能であろう》
「あ、ありがとうございます」
ジェラード様は私の言葉を聞くとそのまま起き上がり、飛び立って行った。
「姉さま! 古代龍様すごかったね」
「そうだね。お会い出来て加護まで頂いてしまったよ」
「リアの行動が良かったから貰ったのよ。流石、リアね」
ネーロが私を褒めるとアーテルやリリー、ルーセントにも口々に褒められた。
レルスさん達にも褒められる。
「マグノリアちゃんらしいと言うかなんと言うか。何はともあれ古代龍様の傷も癒えてこの森の異常も解決できたから良かったね」
「はい!」
「本当に良かったですね。念の為、周辺の調査をもう少しだけして帰りましょうか」
そんなに褒められると照れてしまう。
こうして、私達は今回の依頼を達成した。




