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フォルトゥナ・エクスプローラ・オンライン  作者: 須藤 晴人
第九章: どきどき帝国潜入!

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009_12_脱獄手順は古典的

「う……ここは……?」


「あ、よかった、ミライ、無事だったんだ」


 さっきの兵士たちに気絶させられていたミライがようやく目を覚ました。よかった。もし目を覚まさなかったら、って気が気じゃ無かった。一つ心配事が片付いたところで、もう一つ、だ。


 わたしは立ち上がり、狭い牢の中で、わたし達から離れた壁にもたれ掛かっているカンの方に向き直る。


「っていうかカン、ミライを皇女に売ろうとするなんてヒドイよ! 一体どういう――」


「どういうつもりよ淀んだ黒雲(カン)! やる気がないにも程があるわ!

 折角あれだけ皇女に近づけたのよ? 捕らえる好機だったのに、どうして何もしなかったのよ!

 黒雲の力ならあの女を倒せたでしょう!? そうすれば宝剣を奪い返せたのに!!」


 腕を組んで目を閉じて、何か考えている風なカンに抗議するわたしを追い越し、ミライが凄い剣幕で詰め寄った。彼女は自分が売られそうになったことではなく、皇女から宝剣を取り返せなかったことのを責めていた。え、そっち?


「おい、うるさいぞお前ら! 騒ぐな、静かにしろ!」


 少し離れたところから、看守らしき男の声が響いた。でも直接見に来る気はないみたい。


「ま、看守もああ言ってるし、二人とも少し落ち着いて」


 彼は壁にもたれるのをやめて、両手を小さく上げてこちらに近づきつつ、宥めるように言った。あれ? 捕まってるし結局皇女には敵と思われてたはずなのに、何でカンだけ縛られてないんだろう? まさか皇女との裏取引……牢屋の中でわたし達を……とか? と、身構えるわたしの後ろに彼は回り込んだ。


「ミライさんの言ってた通り、皇女様は処刑するならもっといいタイミング――例えば帝国を攻めに行くときとか、皇位につくときとか――にする筈さ。一緒に脱出するか、後で助けに行くか、まあその方が安全かな、と思って」


 そう言いながら、彼はわたしの手を縛る縄をほどいた。あれ? 助けてくれるの?


「で、さっきの話からすると多分、皇女様は宝剣を持っていない。彼女も探しているんじゃないか?」


 彼はミライの縄をほどきながら、声を落として言った。ミライははっとしていた。ん? どういうこと?


「あ……宝剣を持ってるツバサが帰ってきてないんなら、そりゃ持ってないか。

 でもあの皇女、ツバサがいないのにぜんっぜん心配してない……ってか心配するフリだけしてみんなの同情集めてさ、なんかホント嫌な女、って感じ。夫婦関係、悪いのかなあ?」


「皇女はあの男の事なんて、これっぽっちも愛してはいないはずよ。占領したこの地域の統治のため、という前皇帝の命で仕方なく結婚したんだもの。

 それなのに、あんな女に健気に尽くして馬鹿な男よね」


 ミライはふん、と鼻で笑った。そんな関係だったんだ。自分の恋人がそんな女と結婚して、しかもそれに一生懸命尽くしていたら……? うわあ、絶対ヤダ。ミライが怒るのも、ムリないね。


「ええ? 何そのお昼の奥様ドラマ的な展開。勘弁してほしいな……」


 カンは引き攣った顔でうんざりしたように言った。相変わらず、人間関係には興味ないみたい。


「あ、じゃあそれで皇女じゃなくて弟の方に持っていったとか? 弟ってきっと、皇位争いの相手なんだよね?

 んー、でもツバサ、そういう個人的な恨みを晴らそうってタイプじゃない気がするな。っていうか、争いを起こしたくない感じだった。

 あ、そういえば宝物が帝国の安定に必要、とか言ってたけど、それってどういう事?」


 謁見の間にはいなかったツバサの事を思い出しながら、わたしはミライに問いかけた。


「三つの宝物は三人の英雄が築いたそれぞれの国の支配者の証よ。帝国のは宝剣ね。

 今の皇帝――皇女の弟――はそれを持っていないから、正統な皇帝とは言えないのよ。

 だから皇女は宝剣を手に入れ、帝都を攻めて弟を倒し、自分こそが正当な皇帝だと言い張ろうとしている。でも、女が皇帝になることなんてできやしないわ! 馬鹿なあの男を祭り上げて、自分が実権を握るつもりなのかしら?」


 ミライは吐き捨てるように言った。皇女がどうするつもりかは分からないけど、ツバサは皇帝になんてなる気はないと思う。それに、皇女もツバサを皇帝にする気はないんじゃないかな。なんとしても自分が皇位につきたそう。


「じゃあやっぱり、宝剣を今の皇帝に渡して、正統な皇帝にして帝国を安定させたい、ってことじゃないの?」


「ハッ、皇帝に、ですって? 保身が全ての側近に宝剣を奪われ殺されて、それを手にした皇帝が反逆者の皇女を討伐に行くわね。どのみち戦争よ。しかももっと面倒なことになるでしょうね。皇女は黒雲(あなたたち)と組んで、戦力強化してるみたいだもの。

 あの男がそこまで馬鹿じゃないことを祈るわ」


 わたしの推測をミライは笑い飛ばした。そっか。皇帝としての地位が固まったら、そりゃ邪魔な反逆者を片付けに行く、か。でも正統だけど、戦力的には劣るかもしれない……。ううん……。


「でも、そうしたらツバサは一体どこに行っちゃったのかな……?」


「案外、近くにいるんじゃないか? 皇女様が心配していないのは、居場所を知っているからでは?

 皇女様だって宝剣は必要なんだろ? 将軍が帰ってきたけど、それを持っていない。だとしたらどこにあるのか吐かせるために、どこかに捕らえておくんじゃないか?」


 あー、なるほど。そういえば一瞬怪訝な顔してたのって、ミライが来た理由が宝剣を取り戻しに来たからだったんだ。ツバサが取り返していない、ってことだったら、そりゃあ変だ、ってなるよね。


「じゃあ、ツバサもこの地下牢のどこかにいるかもしれない……? よし! 探そうよ!

 ……ってその前にどうやって出よう? 脱獄方法、考えなきゃ」


 木でできた格子を揺すってみたり、叩いてみたりするがびくともしなかった。木だし壊せるかと思ったらそんなことはなかった。意外と丈夫みたい。幸い武器の入ったカバンは無事だったんだけど、刃物とか壊すのに使えそうなものは一切入ってないからなあ。


「突き当たりにいる看守が鍵を持ってるようだから、ここまで来てくれれば奪えるかもしれないけど」


 カンがちらりと外を見た。


「看守をここに来させる……そうね……何か良い手……。昔の物語に何か……」


 ミライがぶつぶつと呟きながら考え込んでいた。そして彼女は頭を抱え、仕方ない、というように大きくため息を吐くと、


「うるさい黒雲、これ、脱がせてくれないかしら?」


 声を落として言いながら、コートの袖をつまんだ。


「え? 何、突然。ダメだよ。身を守るために絶対着てて、っていったじゃん」


「暑いのよ。それに締め付けられて気分が悪いわ! もう、わからず屋。いいわ、なら淀んだ黒雲(カン)に頼むから」


 彼女はつんと、カンの方を見た。彼はああ、と一言呟いてこっちに来ようとしたけれど、わたしは慌ててそれを止めた。


「ちょっと待って。それはダメ。何かダメ。絶対ダメ。っていうかカン、そういうのは断ってよド変態!

 ……もう、しょうがないなあ、分かったよ」


 壁際に立つ彼女に近寄り、ベルトを外し、ボタンに手を掛けたところで、


「いやぁああ!  助けて!  黒雲に犯されるっ!」


 彼女は突然大声を上げた。え? えええ? 何それどういう事? 何言ってるの? カンならともかくわたしがそんなことするなんておかしいでしょ!


「どうした!?」


 わたしが混乱している間に看守が槍を手に走ってきた。なんだかとてもいやらしい笑みを浮かべているような気がする。何だかんだ言いつつ、助けようって気はなさそうだ。


 あー、そういう事かあ。なんかちょっと納得いかないけど、仕方ない。わたしは彼女のコートのボタンをゆっくり、もったいつけて一つずつ外す。


「何をしている! 大人しく離れろッ!!」


 ホント何やってんだろうな、わたし。


 威勢よく叫んで走ってきた看守は、格子越しにこちらを覗き込んでいるだけだった。やっぱり何だかんだ言いながら、槍で突くとかわたしを止めるようなことは全くする気配がない。心の中ではいいぞもっとやれ、なんだろうな。ド変態め。


「さもな――ぐっ」


 短い呻き声と、ガン、と格子にぶつかる音が聞こえた。カンが気絶させたみたいだ。わたしはひとまず、ミライのコートのボタンを閉じ直す。


「グッジョブ、ミライさん」


 カンは言いながら倒れて痙攣している看守から、腰に結わえられた鍵束を外した。そして牢屋の扉を開けた。わたし達が出た後、彼は看守を牢に入れると鍵を掛けた。


「よし、これでロリコン変態看守に追われることもないね。じゃ、ツバサを探しに行こう!」


 追いかけられても困るし、まあきっとそのうち交代の人とかが気づいて助けてくれるだろうから、とりあえずはこれでいいかなと思いながらわたしは言った。すると、


「ちょっと、一つ言っておきたいことがあるわ」


 と、ミライがふるふる震えながら言った。何? ツバサ、助けに行きたくないとか言わないよね?


「悠久の時を生きる破壊神の(しもべ)から見ればそうかもしれないけれど、私は子供じゃないわ」


 ミライはこちらをじっと睨んでいた。


「え?」


「あの男の事はそうではないのに、何で私だけ子供扱いするのかしら? 年は同じなのに!」


 彼女は眉間にしわを寄せて抗議した。ちょっと意味が分からない。わたしはしばらく固まった後、ようやく言葉を絞り出す。


「えええ??? 背だってツバサよりずっと小さいし、体も平坦だからてっきり子供だと……」


「どういう意味なのよ? 竜人の成人女性はこんなものよ! 皇女だって似たようなものじゃない!」


 ミライが唇をきゅっと結んで、薄い胸を張った。だから、その辺が……とは言えなかった。


「これが合法ロ……じゃなくて、そうか、竜人だから……。似ているようだけど俺達とは違うわけ……か?

 おっと、衝撃的だけどそんなこと言ってる場合じゃない。早く行こう!」


 混乱するわたしに、カンがわたしよりは落ち着いて、でも動揺を隠しきれない様子で言った。そうだった、そんな事でショックを受けてる場合じゃない。


 早くツバサを助けに行かなくっちゃ!

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