008_08_ミライが語る建国記
「かつてこの島には【超越者】が住んでいた。彼らは破壊神を操り、その力でこの世界を支配していた。
でもある日突然、破壊神は暴走を始めた。もはや操れなくなった破壊神を封印しようという意見もあったけれど、その大いなる力を諦められない超越者達は結局封印に反対し、いつか鎮まると信じて神の暴走に見て見ぬ振りをした。
そんな彼らを見かねて三人の竜人の若者が立ち上がった。彼らは仲間を引き連れ超越者を倒し、超越者の三つの宝物を使い破壊神を封印した。
三人の若者はそれぞれ宝物を携えて戻り、やがて三つの国を作った」
ミライは淡々とこの島――って、島だったらしいんだけど――の伝説を語った。
そういえばそんな話が研究所の帝国の展示のところにあったような気がするけどぜんぜん覚えてない。そんなミライの話に、レイさんは露骨にがっかりした様子だった。
「それなら知っているよ。僕達は一応【破壊神の尖兵たる黒雲】なんだからねえ。でもまさか、そんな皆が知ってる伝説だけでここまで来たっていうのかい? 宝物をここで使えば、また破壊神が復活するって?
ただの伝説だろ? いくらかは史実も含むんだろうけどさ、そんなあやふやなもので、こんな危険を冒しただなんて!」
そう吐き捨てる彼を、ミライはふん、と鼻で笑った。そして話を続ける。
「ある日皇帝が得意気に見せてくれたわ。初代皇帝の、伝説よりもずっと詳しく、生々しく書かれた超越者との戦いの記録を。
それによればこの島の神殿にあった三つの宝玉が破壊神の力の源だったらしいわ。それを奪うことで、破壊神を封印したの。そして奪った宝玉を嵌め込んで作ったのが伝説にある三つの宝物。三人がそれぞれ保管し、決して戻さないこと、と決めたのよ。
……ひとつでも戻れば破壊神は少しずつ力を取り戻すから」
レイさんと、そしてカンも目を輝かせて聞き入っていた。そういえば、一つでも解けたらだめだってツバサも言ってたっけ。破壊神とかとたんにRPGぽくなったなあ。まあホントの異世界なんだし、そういうのもいるんだろうな、きっと。でもゲームだと思ってた頃の方が世知辛くて現実っぽかった気がするのは変な感じ。
「彼らが作った三つの王国がそれぞれ宝物を保管していた。滅ぼされた私の国もその一つよ。
私が殺したあの男は全てを自分で握って、この世界を思うままにしたかった。
……いいえ、違うわ。単に自分以外の誰かが世界を滅ぼし得る鍵を握っているのが怖かっただけね。皇帝のくせに小心者だから。
それで他の国を滅ぼし、すべての宝物をひとつに集めた。私が奪い取ってやったけれど!」
彼女は得意げに語り、高笑いした。そして一呼吸置くと、
「それを元の遺跡に戻せば、再び破壊神は力を取り戻す。
こんな世界、早く壊してしまえばいい」
彼女は紫の瞳に暗い炎を灯し、いやに響く低い声で言った。その言葉に思わずぞっとした。
どうして、こんなふうになっちゃったんだろう? 帝国の奴隷だったってことは色々辛い目にあったのだろうし、過去にツバサとも何かあったみたいだけど。
平和な現代でぬくぬく暮らして、ショックなことと言えばせいぜい仲の良かった友達に無視されてるとか彼氏に浮気されたとかくらいのわたしには、彼女がどれほど辛かったのか想像もできない。すこしでも分かったらいいのにな。
「その初代皇帝が書いたって記録はどこに? 遺跡――じゃなくて神殿だったか――もそれに書いてあるのかい? それ、今持って――るわけないか。あったら解析に回されてるな」
タン、と応接机に手をつき立ち上がり、カンは机越しに座るミライの方へ身を乗り出して早口に問いかけた。でも話している間に自己解決したらしくがっくりと再び椅子に腰を下ろした。
「そうね。神殿の場所や必要な部分はわたしの頭の中にあるだけよ。皇帝の日記なら燃えてしまったんじゃないかしら。あの時の騒動で」
ミライはそんなカンを冷ややかな笑いを浮かべて見つめ、そう答えた。
「ちっ……読みたかったな、初代皇帝の記録。読めないなんて残念だ、本当に、全く」
カンは額に手を当て、ぐったりとソファの背に体を預けてため息をついた。いつもの無気力な感じではなかったし、皮肉でなくてホントに残念そうだ。
「……で、三つ目の神殿はどこに?」
彼は少し気を取り直すと、ミライに尋ねた。
「知っていたとしても教えないわ。宝剣を取り戻してからよ。
そういえばその声。そっちが淀んだ黒雲だと思ってたけど、違ったのね。こっちが淀んだ黒雲だったのね」
ミライは薄笑いを浮かべて答ると、少しだけ驚いた顔でカンとわたしを順番に見てそう言った。淀んだ黒雲って何だろう?
「淀んだ、っていうのは……ひょっとして俺のことだろうか?」
カンが少し困った顔で尋ねると、ミライはこくこくと頷いた。彼は酷いなーと呟いていたけれど、ミライの言う通り確かに淀んでるっていうか負のオーラが出てると思う。ちょっと笑ってしまった。
でも、それをわたしと間違えるってどういうことだ!
「淀んだ黒雲と、底意地の悪い黒雲と、やたらうるさい黒雲がわたしをここに連れてきたから今日もそうかと思っていたけれど、今日はうるさい黒雲はいないのかしら?」
ミライはカンと、レイさんと、わたしを順番に見た。前二つはそれ以外に考えようがないからいいとして。
「うるさい黒雲って……わたし?」
「あら、その声。うるさい黒雲じゃない。なんだ、ちゃんといたのね。どうかしたのかしら?
今日のあなた、そうね、淀んだ黒雲よりずっと淀んでる。どんよりしているわ。何かあったのかしらね?」
ミライがクスリと笑いながら、こちらを探るようにのぞき込んできた。ミライから見たらただの黒い塊で表情は見えないはずなのに、どうしてそう思ったんだろう。
「なんでわかったの……? あ、竜人の超能力?」
「何を言っているのかしら? この間はやたらうるさく他の黒雲に突っかかっていたのに、まったく何も言わずにぐったりしているんだもの。おかしいと思わない方がどうかしているわ」
彼女はそんなことはさも当然とばかりにツンとしていた。確かに、話を聞いてはいるんだけどなんだかぼんやりしているし、レイさんやカンに何かいう気力もなかったんだよね。
「全く失礼ねぇ。話を聞きたいって言っておいて、全く聞いちゃいないんだもの。
……ああ、許す気はないから謝らなくていいわ。悪いと思っているのなら、何が起きたのか話すべきよ。聞いてあげるわ」
薄い胸を反らしわたしに高圧的な視線を向けて、彼女はそう続けた。
「うれしそうだねぇ、彼女。破壊神の尖兵にもつけ入る隙がありそうだってことで、そこを必死に探しているんだねぇ」
「こちらの弱味を握りたい、と」
ヒソヒソと、底意地の悪いのと淀んだのが彼女を分析していた。
レイさん――というか運営が、かな――は彼女や竜人達が勘違いしているままに、わたし達イコール破壊神の尖兵たる黒雲で通して、畏れされておきたいのだろうけど、わたしはそんなのじゃないし。別に弱味を握られて困るわけじゃないし。聞いてくれるなら、聞いてもらおうかな。誰かに話したいって、思ってたんだし。
そうだ、彼女の事を聞くにも、まずは自分からオープンにしていった方がいいよね。
「じゃ、俺は聞きたいことも聞きましたし、そろそろお暇させて頂きたく。
ああ、貴重な情報有難う」
カンがそう言うとすっと立ち上がった。
「ええ? 何、カン君帰っちゃうの? つまんないなぁ。女子トーク聞かなくていいの?」
部屋から出ようとするカンをレイさんが呼び止めた。
「聞きたいんですか、そんなもの。業務を中断してまで?」
カンがあきれ顔で振り返り、冷たく聞き返すと、レイさんは少し気まずそうな顔をした。
「うっ……痛いところを突くなぁ。と言っても別に僕は裁量労働だからさぁ、問題はないんだけど。
しっかしその態度はどうかなぁ。君、絶対モテないよ」
ぶつぶつ言いながら、レイさんも扉の方に向かう。彼は扉を開けながら、ふと思い出したように振り返った。
「あ、そうだ、白騎士団の拠点、復旧が無理っぽいから暫く研究所内の一室を使って貰うことになったから宜しく」
そう言うと、レイさんは出て行った。
「あの二人、所々意味不明の言葉を言っていたけれど、どこかおかしくなったのかしらね。
まあいいわ、どっちかって言うとあいつら邪魔だもの」
ぱたん、と閉まる扉を見ながらさらっとミライが言った。聞こえなかったわけじゃなくて、分からないってことは、翻訳機能が上手く働かなかったのかな。ミライ達の世界にない言葉は翻訳されないのかも。
それにしても邪魔って。やっぱりちょっと相性悪いっていうか、やりづらいんだろうなあ。
「で、何があったのかしら。早く言いなさい」
彼女はやっぱりどこか威圧的に聞いてきた。ま、邪魔者もいなくなったし、何にしてもこっちに興味を持ってくれたのは良い事だと思うんだ。
よし、話そう。わたしは大きく息を吸い込んだ。
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