014_04_カフェで楽しいオフ会を
「お待ちしておりました。祖父江 凛様と龍堂 聖子様ですね。では、中へどうぞ。中で飲み物をお配りしております。後程乾杯のご挨拶を差し上げますので、それまでは暫しご歓談下さい」
いよいよ週末、土曜日の夕方。セイとわたしは一緒にカフェ・フォルトゥナに向かった。カフェの受付でどこかで見たような美人さんが、笑顔で迎えてくれた。多分チュートリアルの人だと思う。
カフェは前と同じ場所に変わらない様子であったけれど、もう閉店しているんだよね。実はゲームが終わってから様子を見に行こうとしたんだけど、カフェのあるフロアに来ることすら出来なくなっていた。だから、中に入れてかなりテンション上がる。
で、中に入ると、いつものカフェ・フォルトゥナのレイアウトじゃなくて、立食パーティ向けになっていた。
奥の方にはマイクスタンドとスクリーンが見える。さっき挨拶がどうとか言ってたし、運営から何か説明があるんだろうな。その手前にはテーブルがいくつか並んでいて、その周りにまばらに人がいた。いつもの注文カウンターには飲み物が並んでいて、人が群がっている。取りに行くなはちょっと人が多いな、と思っていたら、タイミングよくウェイターさんが色々飲み物をお盆に乗せてやってきたので、シャンパンを受け取った。
「あ、あれ、ヴァルキリーじゃね? 近くにカン、いたりして。ファンクラブ会員だし」
セイがわたしを小突いた。彼女の視線の先にはシンプルなブルーのニットワンピースを着て、長い黒髪を束ねた清楚な美人が多くの取り巻き――ひときわ体格の良い、ショートカットの女性を含む――を連れて立っていた。ほんとだ、アマネさんだ。カレンさんもいる。でもカンらしき姿は見たところその中にはなかった。
「……ってか、リンはファンクラブとか入ってるの許す派? けど好みがあれだったら、ちょっとリンとタイプ違くね?」
「あ、あれ、実は別にファンじゃなかったみたいだし」
眉根を寄せるセイに、ちょっと苦笑いで返す。彼女はすこし戸惑ったあと、ニヤニヤと笑って、「よかったじゃん!」とバシバシわたしの背中を叩いた。そうそう、カンはファンクラブ会員じゃなかったし、アマネさんはマドカさん大好きだしね、気にすることじゃない。
また人が入ってきた。リカと親衛隊だ。ジョーは……見当たらない。ちらっとセイの方を窺うと、見ないようにしているっぽかった。どんどん人が来るけど、白騎士団の団長と副団長(?)は見つからない。来ないのかな。来なさそうな人たちではあるけど……。
きょろきょろしていたら、どうやら時間が来たようで、奥のマイクのところに受付にいたスーツの美人さんが現れた。
「本日はお忙しい中、お集まり頂き誠に有難うございます。まずは弊社社長の小金井 融より、一言ご挨拶と、サービス終了についてのお詫び、ならびに新サービスのご説明を申し上げます」
そんな紹介の後現れたのは、なんというかできる男っぽい感じのする細身の五十前後くらいの男性だった。この人はどっち派だったのかなあ。侵略したい側だったら、心中穏やかじゃないんだろうな。
「この度は突然のサービス終了、皆様には大変なご迷惑をおかけし誠に申し訳ありません。既にメール等でお知らせしました通り、VR設備の欠陥によるサーバー負荷の急な増大が原因でした。欠陥の根本的解決及び今後のサービス地域拡大等を検討した結果、VR設備によるサービスの停止を――」
とは言えそんな様子は微塵も見せずに社長さんは滔々と語っていた。設備の欠陥、ということになったらしい。プレイヤーの健康には影響がないことを確認しているけど、気になる人には専門機関を紹介する、とのことだった。絶対関係ないんだけど、体調が悪くなる人もきっといるんだろうな。
後は新サービスの説明――どういうことか分からないけど、家庭用のVRゲーム機版が発売になって、今日の招待客は優先的に、割引価格で購入できるらしい――が続いた。
「Fortuna eXplorerでご活躍されたトッププレイヤーの皆様に、ささやかな祝宴の場を設けましたので、今宵は存分にお楽しみ下さい。なお、弊社運営スタッフも巡回しておりますので、ご質問等ありましたらお気軽にお声がけ下さい」
彼はそこで一度言葉を区切った。さっきの美人さんが、ワイングラスをお盆に載せてやってきた。
「大変長らくお待たせいたしました。では、乾杯」
社長さんの声に、あちこちで「乾杯」という声と、グラスを合わせる音がした。
「かんぱーい!」
わたしもセイと、あと同じテーブルにいた知らない人々と乾杯する。
いつの間にか出て行った社長さんと入れ替わりに、食欲を揺さぶるいい匂いがやってきた。ささやか、どころではなく豪華なカフェ・フォルトゥナのパーティ料理がカウンターの近くに並べられていく。ああ、おいしそう。
「立食形式ですので、ご自由に中央のブッフェボードからお好きなものをお取りください。カウンターではローストビーフをカットしてご提供しておりますので、こちらもどうぞ」
そんなアナウンスが終わるより早く、ダッと中央に駆け出す人々。完全に出遅れた。うう、みんな浅ましいよ。
「セイさん! どうぞ! 前菜のフォアグラのテリーヌ、あとキッシュ・ロレーヌです!」
「生春巻きとカリフォルニアロールもどうぞ!」
と、ガッカリしていたら目の前に突然ごちそうが並んだ。目をキラキラと輝かせた知らない男たちが、次から次へと料理を運んでくる。一体この人達はどこの誰なんだろう。わたしが抜けた後から入ったリスクオンの人なのか、それとも別のギルドの人なのか。
「え、まぢ? いいの? ありがと!! ウチら乗り遅れちゃったから助かる! ヤバイ、めっちゃウマそう!!」
セイが胸の前で軽く手を組み、あふれんばかりの笑顔で小首をかしげ、上目遣いにお礼を言った。やっぱりセイはこうやってかしずかれている方がいいんじゃないかって思うんだけど、違うのかなあ。これならいつも自分が最優先でいられると思うんだけどな。
でも、それはそれでつまらないのかもしれないね。どっちにしても、わたしにはたどり着けない境地だからわからないんだけどさ。
「うわ、やっぱフォアグラまぢヤバい! リンも食べなよ。人生変わるし!」
一応、セイの分だけ、というわけではなくそこそこ量があったので、私もおこぼれにあずかることができた。フォアグラってそういえば前にカフェのメニューにあったけど、結局あの時は諦めたんだったなあ。
口に入れるととろっとふわっと広がる上質な脂肪の味に、添えられたいちじくのコンポートの甘味が良くマッチして確かにすごくおいしい。人生は変わらないけどね。
「おいしいねー! どれもこれもおいしい! やっぱカフェ・フォルトゥナ最高。もう食べられないのがほんと残念!」
「だよねー。フツーにカフェやっててくれたら、ゲームの話じゃなくてもぜってー来るし! ってか家庭用VRゲーム機版よりそっちのが嬉しくね? 家庭用で報酬ナシとか意味わからんし」
セイが軽く笑った。確かに彼女の言う通り、カフェ続けてくれた方が嬉しい。そんな風に話しながら前菜に舌鼓を打っていたら、いつの間にかローストビーフが運ばれてきていた。何も言わなくても絶妙なタイミングでメインが運ばれてくるなんて、セイの人気はほんとにすごい。
お姫様とそれにかしずく従卒たちを横目で見ながらメインのローストビーフを数枚、しれっともしゃもしゃ食べたところで、空気がさっと変わった。従卒たちが何かにはじかれたように、セイの周りから一歩引いていく。
「セイ、ちょっといい?」
そうやってできた通路の奥で、見覚えのあるイケメンが有無を言わさぬ真剣な眼差しでセイを見つめている。カットソーにグレーのスタンドカラーのケーブルニットと、今日はちょっとキレイ目な感じだ。その手に目を向けると、ちゃんと指輪――もちろんセイとペアの――が輝いていた。
「いま、ウチいそがしーんだけど」
セイはぷいっとジョーから視線を背け、わたしの方を見た。
「挑んできた相手から逃げるのは、セイらしくないんじゃない?」
わたしはにっこり笑って、彼女の肩をトントンと叩きながら耳打ちする。
「……でも、ちょっとだけなら聞いてやるし」
セイはふっとわたしからジョーに視線を移すと、そのまま彼の後について外に出て行った。従卒達は顔を見合わせてしばらく戸惑っていたけれど、すぐに皆散り散りに去っていった。まあ、そうだよね。わたしもせっかくだから立食パーティを楽しもうっと。
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