愛と決戦の夜
◆◆◆◆◆
「そんな不細工な顔して泣くなよぉ」
宗太郎は困り果てたように私を見た。
「不細工とか言わないでよぉっ。だっ、て、白鷺がっ……うわあああん!」
私の涙を手拭いで拭きながら、宗太郎は私をヨシヨシと撫でた。
「しかし、雅が生き霊だったとはな……」
「白鷺は知ってたみたいなの。生き霊の正体が雅さんだって」
宗太郎は部屋の真ん中で胡座をかき、ガシガシと髪をかきあげた。
「アイツの事だ。そうせざるを得ない何かを抱えてるんだろう」
宗太郎はそう言うと立ち上がり、水瓶から柄杓で水をすくうと土間に撒いた。真夏の日中は暑く、打ち水もすぐに乾く。
……わかってる。白鷺はたった独りで何かに耐えようとしているんだ。
「それに、お前を守ったんだろう。雅がお前に妙な感情を抱かないように」
私は鼻をすすりながら頷いた。
「分かってる。だけど嫌なの」
「そりゃ、好きな男が他の女抱いてりゃ辛いわな」
「はっきり言わないでよっ、宗太郎なんか嫌い!」
「こらこら」
宗太郎はどうしようもないといったように頭を振りながら、私に少し微笑んだ。
「白鷺は絶対にお前を迎えに来るから、早く涙を拭いて待ってろ」
「来ないよ絶対。今頃は」
……雅さんと抱き合ってるに決まってる。私は以前見た、白鷺と雅さんのラブシーンを思い出して胸に手を当てた。ダメだ、死にそうだ。
嗚咽を洩らしてしまいそうになったその時、宗太郎がしっかりとした口調で私を諭した。
「白鷺を好きなら、アイツを信じてやれよ」
顔をあげた私を見て宗太郎は続けた。
「お前は白鷺を好きなんだろ?なら、アイツの抱えているものをしっかり見ろ。アイツのために精一杯頑張れよ。精一杯頑張ってダメならその時考えればいい。覚悟決めろよ。お前が好きになった男は、覚悟を決めなきゃならない相手なんだ。その価値がある男だよ、西山白鷺は」
宗太郎……。
泣けて泣けて仕方なかった。宗太郎の優しい眼差しと、私を勇気づけてくれる言葉に涙が溢れた。そうだ。報われなくてもいいと思ったのは嘘じゃないもの。たとえ先のない恋でも、白鷺を苦しみから救い出したい思いに代わりはない。
私はくじけた心を振るい立たせるように深呼吸をすると、真っ直ぐに宗太郎を見つめた。
「ありがとう……宗太郎。私、今度こそ負けないわ。白鷺を守る。命を懸けて」
宗太郎は心配そうな表情で私を見るとこう言った。
「雅の生き霊に打ち勝てるのは、心底アイツを愛してるお前しかいないと思ってる。だがお前がまた危ない目に遭うのには反対だ」
宗太郎は言いながら立ち上がると、部屋の隅に置いていた一刀の日本刀を手に取った。
「これを持っていけ」
そう言いながら宗太郎は布をほどき、刀を鞘から抜いて私に見せた。
これは………!
私はハッとして宗太郎を見上げた。これは、あの時の脇差だ。元の世界で……お祖父ちゃんの刀部屋で見た脇差だ。あの時のお祖父ちゃんとの会話が脳裏に蘇った。
『……この脇差はいつの頃のやつ?』
『六さんに見てもらわなまだはっきり分からんけど、お祖父ちゃんは幕末やと思とるんや』
呆然と宗太郎を見つめる私に、彼は優しい眼差しを向けた。
「これはな、お前が白鷺の前から消えた時、アイツが一振りしたものだ。今は俺が預かってる」
私が元の世界に帰った時に……?
「アイツはな、再びお前に会いたい思いを押さえきれずにこの脇差を作り始めたんだ」
ジワジワと胸が熱くなる。宗太郎は続けた。
「そして再びお前に会えて、アイツはこの脇差に掛けた願が成就したと思ったんだろうな。会えた後はきっと、それを感謝しながら最後まで作り続けたんだと思うぜ。……アイツにしたら、成就したからにはこの脇差を犠牲にするべきだと考え、完成した途端にこれを折ると言い出したんだ。お前との再会と引き換えに」
私との再会を願って作ったものだったなんて……。
再び涙が頬を伝った。
ああ、お祖父ちゃん、お祖父ちゃんの読みは正しかったよ。
あの日お祖父ちゃんと刀部屋で見た脇差は、正真正銘、白鷺流十代目・西山白鷺の一振りだったよ。
宗太郎が私の手に脇差を握らせながら頷いた。
「この脇差の名を聞きたいか?」
「……名前?」
宗太郎がニヤリと笑った。
「柚姫」
ユウヒメ……。
「お前の事だよ、柚菜」
ああ、白鷺。本当に白鷺は私を大切に思ってくれていたんだ。
私は涙を拭くと立ち上がった。
「宗太郎、私行かなきゃ!」
「危なくなったらそれを使え」
私はしっかりと頷くと身を翻して部屋を飛び出した。
少しでも早く走りたくて、長い着物の裾をまくり上げて砂利道を駆け出すと、白鷺の顔を思い浮かべた。
その時、遥か前方の木々の間に見知った着物が見えた。
「柚菜!!!」
……白鷺!
「白鷺!」
一心にこちらに走ってくる白鷺に、私は思いきり名を呼ぶと走り寄った。
「白鷺!」
「柚菜!」
ああ。やっぱり離れられない。離れたくない!こちらに伸ばされた白鷺の両腕の中に、私は思いきり飛び込んだ。
ギュッと抱き付くと、白鷺もまた私の背中に回した手に力を込めた。
私はそれを嬉しく思いながら、身を起こして白鷺を見上げた。
涼やかな眼も通った鼻筋も綺麗な口元も、みんなみんな大好き。
「白鷺、返事なんか要らないよ。だけど大好き。私、白鷺が大好き」
思いきり背伸びをして白鷺の頬に唇を寄せると、私は笑った。
白鷺はそんな私の頬に残る涙を指で拭いながら、優しく言った。
「帰るぞ」
「うん」
私達は少しだけ見つめ合ってから手を繋いで、長く緩やかな坂道を歩き始めた。
◆◆◆◆◆
その夜。
白鷺は何も言わなかったから、私もその事について何も言わなかった。ただ私達は並んで、他愛もない話をして夕食を食べた。
でも私は確信していた。雅さんは今夜、必ず来る。生き霊となって、私に会いに。きっと彼女は私の想いに気付いた筈だ。部屋に入ろうとする二人の後ろから、白鷺を呼んだ私の声で。
あの夜、薄暗い部屋から私めがけて飛んできた懐剣と、それが頬をかすめた冷たい感覚を思い出して唇を噛んだ。
今夜私は、あれよりひどい目に遭わされるかもしれない。
私が脇差『柚姫』を抱き締めたその時、低く静かな白鷺の声がした。
「雅は……俺がひどい目に遭わせてしまった男の娘なんだ」
身体がヒヤリとして、私は白鷺を見つめた。白鷺は一瞬私を見たけど、直ぐに床に視線を落とした。
「俺は償わなきゃならない」
……だから、白鷺は雅さんの望みなら叶えようとするんだ。自分に対する彼女の好意も、白鷺は撥ね付けるわけにはいかないと思ってるんだ。
私は白鷺を見つめた。オレンジ色の炎が白鷺の精悍な頬を照らしいて、更に凛々しく見える。
私は少し息をついてから、ゆっくりと口を開いた。
「白鷺。あなたは間違ってるし、雅さんも間違ってる」
その時部屋に風が吹いて、行灯以外の蝋燭の炎が全て消えた。反射的にビクリと身体が跳ねる。
来たんだ、雅さんが。
私は大きく息を吸い込むと、素早く立ち上がって白鷺を見た。
「白鷺、下がってて」
「柚菜!うっ……うわぁ…!」
「白鷺っ」
急に白鷺が苦しみだしたかと思うと床に倒れ込んだ。
「白鷺っ!」
意識はあるのに白鷺は喋ることが出来ず、身体の自由が奪われているようだった。きっと雅さんの仕業だ。
私は帯に脇差『柚姫』を差すと、白鷺の身体を引きずって部屋の隅の壁にもたれさせた。
「待ってて白鷺。あなたを絶対に助けるから!」
私は白鷺にそう言うと部屋の真ん中へ戻り、腰の柚姫を抜き放った。
「雅さん!姿を現して!」
「私に立ち向かう気なの、小癪な!」
地の底を這うような恐ろしい声がしたかと思うと、神棚の白鷺一翔がフワリと浮き上がった。それから抜けた鞘が床に落ち、カランと音を立てて転がる。
「柚菜、気をつけろ」
弥一さんの声だ。
「お前達は引っ込んでなさい!」
雅さんの声が弥一さん達の魂を一喝したかと思うと、白鷺一翔が青白い光を放った。
「雅さん!」
その光が大きな塊のように丸く膨らんだかと思うと徐々に人型になり、そこから雅さんが姿を現した。その姿は今朝見た雅さんとそっくりなのに、どこか違って見える。
「あなたになど、白鷺は渡さない」
雅さんは、私を憎くてしょうがないといったように睨み付けた。白鷺一翔は、そんな彼女の前で横一文字になってフワリと浮いている。
私は雅さんを見据えた。
「それはこっちの台詞よ。白鷺を苦しめるあなたを私は許さない!あなたに白鷺は渡さないわ!」
私の言葉に、雅さんがギリッと歯軋りした。けれど直ぐにニヤリと笑い、私を一瞥すると彼女はゆっくりと口を開いた。
「……白鷺は私を拒めないわよ」
その言葉に怒りを覚えて、私は敢然と言い返した。
「弱味を握って白鷺を意のままにするなんて、卑怯よ!彼の良心を逆手にとるなんて酷いわ」
「酷いのはどっち?!知った風な口をきかないで!」
視線を私から白鷺に移した雅さんの表情は、憎しみと愛情が入り混じっていて、私はドキンと鼓動が跳ねた。もしかして、雅さんは……きっとそうだ。そうに違いない。
私は雅さんに問い掛けた。
「雅さん、あなたは……もしかして藤堂宗光さんの娘さんじゃないの?剣術道場、愛刀一心流の藤堂宗光さんの」
雅さんがギクリとして私を見た。けれど直ぐに唇を引き上げて笑った。
「へぇ……ただのバカっぽい女の子だと思ってたけど……以外と鋭いのね。褒めてあげるわ。そう。いかにも私は藤堂宗光の娘、藤堂雅よ」
やっぱり……!私が息を飲む中、雅さんは静かな声で話し始めた。
「あの日……日暮れ前に帰った私は、朝と様子が全く変わってしまった家の状態に愕然としたわ。何があったのか両親に訊いても答えてはくれず、父と母が苦労してお金の工面をしてやっとの思いで開いた剣術道場は取り潰しになってしまった。直ぐに道場は人手に渡り、私たち一家は播磨を追われた。どんな気分か分かるかしら?!」
雅さんは私を、大きな眼で射るように見つめた。
「備前へ移った父はそこで何とか道場を再建したけど、私は播磨の国で何があったかどうしても知りたかった。そんな時、昔弟子だった人が父に会いに来たの。帰ろうとした彼を捕まえて、あの日起こった真実をやっと知ることが出来たわ」
雅さんはそこで言葉を切ると深いため息を漏らして白鷺を見つめた。
「せっかく道場を再建したのに、父は苦労が祟ったのか翌年死んだわ」
眼の端で、白鷺の苦しげな瞳が見える。
「私は母の元を離れてこっそり播磨に戻ったわ。許せなかったの。無責任な刀匠、西山白鷺をね」
雅さんは、大きな瞳を私に向けてグッと眉を寄せた。
「だってそうでしょう?!業物を生み出すような天才的な刀匠が、誰彼構わず刀を売るから私の家族は苦しむことになったのよ!刀は人殺しの道具なのよ!?人を選んで売るべきよ!!」
私は何も言えずにただ雅さんを見つめた。
確かに、白鷺一翔を手にした弥一さんは罪深い行いをした。一方雅さん一家は、非のない被害者だ。
けれど。
「白鷺は苦しんでる。分からないの?!」
雅さんは私を睨んだ。
「私だって苦しんでる!!」
彼女の大声のせいか、白鷺一翔が小刻みに震えた。
「一言怨みごとを言ってやろうと思った相手を好きになってしまったのよ?!家族の夢を潰し、父を死なせた憎い刀工を愛してしまった!この辛さがあなたに分かる?!」
雅さんの苦しみに満ちた眼差しに、私は胸を突かれてただ立ち尽くした。
「会いに行った白鷺を初めて見て、凄く驚いたわ。こんなに若い青年だったなんて。見目麗しい姿。男らしく潔い心。何度か会ううちに、たちまち心を奪われた。白鷺の全てが私の心を捕らえて離さないの。なのに、白鷺は私を愛してくれない。いつも憐れみの対象としてみるだけ」
雅さんは自分を抱き締めるように両腕を交差させ、ギュッと眉を寄せた。
「私たちを不幸に追いやった相手なのに、好きでたまらない!こんな私は親不孝なひどい娘よ!なのに白鷺を愛してやまないの。憎い相手の筈なのに、白鷺と一緒にいたい。でもそれは許されない。母に顔向けできないもの。……そのうち、心の隅で母の死を夢見る自分に気付いた。母がいなくなれば、私と白鷺の関係を反対する人間はいなくなるって。自分を鬼だと思わない日はないわ。もう気が狂いそうよっ!」
雅さんの悲痛な声が部屋中に響いて、私は震えそうになる身体を抑えるために必死で脇差を握り締めて口を開いた。
「あなたのご家族は確かにお気の毒だと思うわ。でもそれをダシに白鷺に付け込むなんて、とてもじゃないけど彼を愛しているようには見えない!」
瞬間、雅さんの瞳がギラッと光った。
「……白鷺には償う義務があるでしょう?私を愛して償えばいいのよ。なのに、笑いかけてもくれない。手を繋いでもくれない」
そこまで言った雅さんの目から涙がこぼれ落ち、頬に一筋の線を描いた。
「だからこう言ったのよ。一生私を抱き続けて償ってって。他の女を抱くのは絶対に許さない」
私はかぶりを振った。
「あなたは甘えてるだけよ。白鷺の優しさに。そんなの愛じゃない。愛してるなら許せるはずよ!彼を無理矢理縛り付けているあなたに、愛なんて語る資格はないわ」
途端に雅さんから風が巻き起こった。それと同時にゆっくりと浮かんでいた白鷺一翔が回転し、その切っ先が私を捉える。
「お前などに白鷺は渡さない。妖刀と化した白鷺一翔を身に受けて死ね」
私は脇差・柚姫を構えて敢然と言葉を返した。
「受けて立つわ!白鷺は私が守る!白鷺一翔だって元に戻すわ!宿る魂も私が解き放つ!皆もう刀から離れて自由になりたいのよ!」
その時、
「柚菜、脇差を絶対に離すな」
弥一さんの声だ。
「罪人風情が、小癪な!」
雅さんが鼻にシワを寄せて嫌悪感を顕にした。
「死ね!小娘!」
「くっ!!」
矢のように一直線に飛んできた白鷺一翔を、私は柚姫で弾き飛ばした。
キイン!と鋭い高音が部屋中に響く。
その直後、白鷺一翔から、無数の青白い光の玉が弾けて辺りに飛び散った。
「オオ、カタナカラデラレタゾ」
「ミガカルクナルオモイダ」
私はその声に眼を見張った。もしかしてこの柚姫が、白鷺一翔に宿り続けた魂を解放しているんじゃないだろうか。
わからない。分からないけど、私はそれに懸けたかった。
「弥一さん!今自由にしてあげるから待ってて!」
私はそう言い放つと、飛んでくる白鷺一翔と再び斬り結んだ。
剣術なんか習ったことがなかったけど、白鷺の脇差・柚姫は私の手に凄く馴染んでいて、私は不思議と自信がみなぎっていた。
幾度となく二本の刀がぶつかり合った後、とうとう白鷺一翔から光の玉が出なくなり、それを見た雅さんが悔しそうに歯軋りした。
「憎い女よ。遊びはもう終わりだ」
ハアハアと肩で息をする私とは対照的に、雅さんは実に静かで、眼の動きだけで自由自在に白鷺一翔を操っている。
何度も何度も飛んでくる白鷺一翔を私は弾き返した。ダメだ、息がくるしい。
もう私はフラフラで、腕が鉛のように重かった。体力なんか残っていない。
私はチラリと白鷺に眼を向けた。
白鷺は相変わらず自由を奪われていたけど、その眼差しは真っ直ぐ私を見ていたから、私はそれに答えたくて少し笑った。
白鷺、見ていて。雅さんの生き霊は、どんなことをしても私が退けるわ。白鷺を自由にしてあげる。
私は大きく息を吸い込むと、最後の力を振り絞って柚姫を構えた。
「しぶとい小娘めが」
白鷺一翔が私に刃を向け飛んでくる僅かその前に、私は雅さんに斬りかかった。
「白鷺と白鷺一翔を返してもらうわ」
「ぐわあっ!」
「っ!!」
雅さんが苦しそうに悲鳴を上げるのと、私の頬を白鷺一翔がかすったのが同時だった。
「くそっ!!」
どうやら床に転がって落ちた白鷺一翔を、意のままに操れなくなったみたいで、雅さんは私を真正面から睨み据えた。
「役に立たぬ刀め」
「白鷺一翔から出ていって!!そして白鷺を自由にして!」
「死ね!」
雅さんが私に飛びかかってきた。手にあの時の懐剣を握り締めて。
「きゃあああっ!」
「ぐあああ!」
激烈な痛みが胸に走って、私は眼を見開いた。
ああ、刺された。
「柚菜!」
「柚菜さん!」
ガクッと膝をついたその時、戸口からこちらに走り寄る宗太郎と慈慶さんが見えた。慈慶さんは、素早く部屋を見回すと数珠を片手にお経を唱え始めた。
ああ私、刺されちゃった。雅さんの生き霊に勝てなかった。
……いや、まだ諦めない。
このまま死ぬなら、私が白鷺一翔に宿って、いつまでも白鷺を雅さんの生き霊から守ってあげる。
「柚菜!柚菜!」
ダダッと床を駆け寄る音がしたかと思うと、白鷺が私の名を叫んだ。
慈慶さんのお経で雅さんのかけた術が解けたのかもしれない。
「白鷺……ごめん、刺されちゃった」
白鷺は私を膝に抱き上げて顔を覗き込むと、眉を寄せて首を振った。
「ダメだ、柚菜、死ぬんじゃない!」
私は少し笑った。
「ごめん、だけど安心して。だけど私が白鷺一翔の中に入って……雅さんの生き霊を封じ込めるから……」
雅さんの苦しむ声と力強い慈慶さんのお経が部屋に響く中、青白い光の玉が飛び交い、私たちを包んでいた。そんな幻想的な光景の中で、白鷺が再び口を開いた。
「一目惚れだったんだ」
……え?
意識が無くなりそうになる中で、白鷺が私を見つめて切な気にそう言った。
「初めてお前を見た時から、俺は惚れてた、お前に」
白鷺の涙がポトリポトリと私の頬に落ちて、私はそんな白鷺を呆然と見つめた。
一目惚れ?……私に?
「一目惚れだった、お前に。けれど他人の人生をめちゃくちゃにした俺には誰かに愛を告げる資格などないから、言えなかった」
胸の痛みが全身に広がっていき、やがて私は眼を閉じた。
「夢みたい……凄く嬉しい……」
「ダメだ、眼を閉じるな!!柚菜、柚菜、死ぬなっ!」
ああ、もうダメだ。
氷の中に沈み込むような冷たい感覚。私はありったけの力を振り絞って白鷺の手を握った。
「白鷺、死んでもあなたを守るから。だから私の分まで幸せに生きて」
白鷺が幸せならそれでいい。たとえこの身が滅びても。
私は全身の力が抜けていくのを感じつつも、白鷺を思いながら意識を手放した。




