60. ホームにただいまとアレクの考察
銀翼のパーティーホームに戻った瞬間、全員の肩から一気に力が抜けた。
「……やっと帰ってきたな」
ジークはソファに沈み込み、背もたれに頭を預けて深く息を吐く。
オルガも隣でぐったりと座り込んだ。
「今回は……長かったぜ……」
エルミーは珍しくソファに身体を埋め、ふわりと微笑む。
「このソファ……やっぱり最高です……」
フリードはソファで既に夢の中。
クロムもソファに凭れて気持ちよさそうにしている。
「今回は立て続けに疲れたね……」
暖炉の前では、リオンが大きな身体を横たえ、
その毛並みにアレクが寄りかかり、
さらにその上にヒナが覆いかぶさるように眠っていた。
そのヒナの肩から、もっちーがひょこっと顔を出す。
「きゅっ!」
ジークが笑う。
「お、もっちー。ここは初めてだな」
オルガも続ける。
「ようこそ、銀翼ホームへ。今日からお前の家でもあるぞ。
……ただし、ゴーレムにはちょっかい出すなよ?」
もっちは元気よく「きゅいっ!」と一鳴きしてどこかへ飛んで行った。
(さっそく探検にいったのだろう。好奇心旺盛みたいだからな)
ジークはそう思い、目を閉じた。
***
どれほど時間が経っただろう。
アレクのお腹が「ぐぅ」と鳴り、目が覚めた。
「……おなかすいた……」
周囲を見ると、みんなぐっすり眠っている。
窓の外は夕方から夜へと移り変わる途中だった。
アレクはぼんやりと天井を見つめながら、
自分の“記憶”について考え始めた。
――記憶が半分ほど失われている、と聞いている。
たしかに、思い出せないことが多い。
例えば、昔の家族、友人、職場や同僚。
彼女がいた気もするが、それが現実だったか願望なのかも曖昧だ。
ただ、生活の知識は残っているようだ。
昔作った料理やスイーツ、家電、車、自転車。
仕事のスキルも覚えている。
PC操作、資料作成、社会人としての振る舞いも覚えている。
だが――
人に関する記憶だけが、ぽっかり抜け落ちている。
(……なんだ、この偏りは)
あと、創造神と会ったこと、話したことも覚えている。
ん~。この記憶の采配は誰が決めたんだ?
あの創造神がそこまで考えているとは思えない。残念神だったからな。くっくっく。
(じゃあ……この世界が”消す記憶”を選んだのか?)
この世界に転生するにあたり、
もう帰ることは出来ないから、覚えていると辛いだろう人間関連の記憶を中心に、
優先してエネルギーに変換したのかもしれない。
少し寂しい気はするが、覚えてないし、
俺の場合、中身は大人だから、まだ大丈夫だが、
ヒナの事を思うと少し切なくなる。
ヒナの前世は、欲望が暴走した人によって、自由のない労働を課せられていた。
それをまるっと忘れられたのは、本当に救いだと思う。
だが、ヒナは幼い頃の家族の記憶まで消えてしまったのは、
とても切ない気持ちになってしまう。
兄のことが大好きだったようで、その影響で、今世、兄になった俺に執着している。
まあ、まだ2歳だから、単に兄のそばが安心するという気持ちもあるのだろうけどね。
ちらっとヒナをみる。
ヒナの寝顔を見ると、胸の奥がじんわり温かくなる。
(ヒナ、今は幸せそうによく笑う。それが嬉しい)
まだ謎はある。
転生前、世界が自我を覚醒したって言ってたし。
その世界がヒナを呼んだ。
そのヒナは、黒いオーラを払うことができる力を持っていた。
この世界は、ヒナがその力を持っていることを、はじめから知っていたのかな?
(考えれば考えるほどわからない……)
なんにせよ、ないものはない。
あるもので、これから生活していかなきゃならない。
幸せなことに、俺とヒナだけではない。
リオンがいる、銀翼のみんながいる、ギルマスがいる、気のいい冒険者たちがいる。
今はぜんぜん寂しくない。
(……ただ、俺は今、3歳なんだよな)
精神が身体に引きずられる感覚がよくわかる。
ヒナと遊ぶと楽しくて仕方ないし、構ってもらえないと涙が出てくる。
でも、もうそれもあきらめた。
だって、俺、実際体は3歳だもん。仕方ないと思うことにした。
だからアレクは決めた。
俺はこの不思議な世界で生きなおせる『ボーナスステージ』だと思って、
我慢せず、子供らしく、全部楽しんで吸収しよう!と。
その第一歩が、アイスクリームだった。
食べたいものを食べる。なければ、作り方を知っていたら、作ってでも食べる!
やりたいことをやる。ダメと言われたら、ぐずってみる。
楽しみたいことを楽しむ。誰かの楽しみに触れてみるのもいいかもしれない。
ちょっとくらい失敗しても、許される年齢だ!
そして――
周りには、教えてくれる大人がたくさんいる。
教えてもらい放題じゃないか。
今後、何をやりたいか考えてみる。
う~ん。ゴーレムを作れるようになってみたいな。
家にいるゴーレムは有能すぎる!あれが作れちゃうなんてすごい!
あ、そうだ!昔の○○レンジャーみたいに、ゴーレムが合体とかしたら……絶対楽しい!
今度オルガに話してみようかな。
それに、フリードを呼んだら絶対喜ぶだろうな!
あと、みんなと一緒に冒険者やるのも楽しいだろうな。
たしか冒険者は12歳からだって言っていたから、まだまだ先だけど。
魔導具も作ってみて面白かったな。
今回は冷凍庫を作ったけど、魔石を使うもので、結構簡単だった。
この世界には、リシュネーゼ帝国という、あらゆる研究が盛んな国があるらしい。
もちろん、生活に役立つ魔道具の研究もされているらしい。
きっといろんな便利な魔導具が発明されているんだろうな。
そういう国にも行ってみたい。なんかワクワクする!
ただ、俺の正体がばれると、研究対象にされそうで怖いなー。
この大陸にあるもう一つの国、商人の国と言われる”セイナ王国”。
ここにも行ってみたいな。どんな物があるのか、見てみたい。
この世界が、どんな世界のなのかが、豊富な商品をみたらよくわかりそうだ。
あと、魔法な!魔法は使えるようになりたいな。
たしか、いろいろ創造神にスキルを貰ったと思うから、少しずつ思い出せるだろう。
何を貰ったか思い出せないけど、思い出すのが楽しみだ。
フリードとクロムが魔法研究をしているって言ったな。
それものぞいてみたい。
ボーッとまわりを見ていると、精霊がふわふわ飛んでいる。
あーエルミーのお友達かな。
妖精も興味深そうにまわりを見ながら飛んでいる。
人のいるところで妖精なんて珍しいな。
そんなことを考えていると、妖精は、フリードの髪の中にずぼっと入って行った。
家事ゴーレムが夕食の支度を始めた。
ゴーレムの頭に、もっちーが乗っている。乗ったままキッチンの方に消えていった。
(……面白い世界だな)
夕食がテーブルに置かれていき、良い匂いが漂い、みんなが次々と目を覚ます。
「あーよく寝たな。美味しそうな匂いだ、食事にしようか」
「よくねたー。腹減ったな」
「……あーお腹がすきましたね」
「めし!!お腹すいた!!」
「ごはん……じゅるっ」
「ヒナ、ごはんだよ」
アレクがヒナをゆすって起こす。
「ごはん?」
リオンもむくりと起きる。
「久しぶりにゆっくり寝れたな」
そしてみんなテーブルにつく。
誰も食事を作らなくても、勝手にゴーレムが作ってくれる。
……なんて素敵なゴーレムだ。
そして今日はオムライス。
ケチャップライスに半熟卵、俺のにはチーズが入っている。
上からかけるのも、もちろんケチャップ!
(ゴーレム……わかってるな……!)
そして、みんなで囲む夕食。
みんなの笑い声が重なって、家の中があたたかく満ちていくこの時間が大好きだ。
(さて……最初は誰に何を教わろうかな)




