40. ギルドマスターの苦悩と報告(一部極秘を含む)
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ギルドマスター(アルフレッド・ヴァルハイト)は、
夜の静寂の中、ギルドマスター室の中、デスクチェアに凭れて
昼間の出来事を思い出し、その重大さに肩を落としていた。
黒いオーラに取り付かれた魔物が、とうとう森の外へもやってきたか……。
今までは、森の奥の方で見られる事はごくまれにあったくらいだったが、
とうとう浸食の拡大の兆しが見えてきたか。
この街は、魔の森に近い。
別名『魔の森砦』と呼ばれる街。
魔物との戦闘もそれなりに多く、
たまに進化し、より凶悪になった変異個体との戦闘もある。
そんな魔物の素材は特に高く売れる。
その為、高ランクの冒険者も多くいる。
今まではそれで対処ができていた。
そう。今までは。
だが、これからは、黒いオーラに取り付かれた魔物も森から出てくる恐れが出てきた。
その場合、誰も触れることが出来ない為、どうしてもヒナの協力が必要不可欠になる。
ヒナがいなければ、あっという間にここは黒オーラに浸食され、人々が住める土地ではなくなるだろう。
それに、戦いが深刻化するということは、
負傷者が今よりも多くなるということ。
クロムやアレクのように、欠損を修復できる回復師はより貴重な人材となるだろう。
それに、アレクの魔法は他の者とは違うようだし。
神の愛し子だから、それ以外にも何かあるのだろう。
「……頭が痛い」
最重要はヒナとアレクのこと。
――黒いオーラを払った“子ども”の存在は、世界規模の重要な情報だ。
「……まさか……黒いオーラを払える者が現れるとはな……。
それ自体は嬉しい事だが……、なにもあの子でなくても……よかったじゃないか……」
魔の森に面しているのは、大部分はこの国だが、
リシュネーゼ帝国の一部も魔の森に面しているところがある。
この国だけで秘匿していい情報ではないということだ。
その上、世界の愛し子というおまけつき。
しかし、これは慎重に行動しなければ、
黒いオーラと戦う前に、国同士でヒナの取り合いになりかねない……。
アレクだってそうだ。
あんな小さいのに、すでに欠損が修復できる力。
その上、金の光を放つ神の愛し子。
こちらは神殿に狙われかねない。
兄妹バラバラにはしたくない。
出来ればこの国で、今まで通りの生活をさせてやりたい。
まだあの2人はあんなに小さいんだから、大人の事情に振り回されてほしくない。
これはもう、一支部で抱えられる問題ではなくなった。
信頼できるものに協力を仰ぐしかない。
まず、今回の報告を上げなければならないのは2人。
一人目は、王都冒険者ギルド グランドマスター グランツ・ヴォルネア。
俺がこのこのフォレットの冒険者ギルドのギルドマスターになったのも、
辺境伯のシルヴァラントが推薦し、グランドマスターが了承した為だ。
その際、面談やら模擬戦やら行った。
この時期にいろいろ話をする機会もあった。
結論、このグランドマスターは、侯爵ではあるが、もともと冒険者だったこともあり、
冒険者の気持ちを優先してくれる根っからの冒険者だった。
それからというもの、何かあると相談していた。
最近はフォレットでいろいろ忙しくなり、なかなか相談の時間も取れないでいた。
もう一人は、このフォレットの街を含むほぼ魔の森に隣接する領地を持つ
辺境伯レオンハルト・シルヴァラント。
こいつは元同じ冒険者パーティー仲間だった。
S級冒険者パーティ『獅子の咆哮』のリーダーをやっていた。
あの頃は楽しかった。
いろいろ冒険に行った。討伐もした。死にかけたことも何度もあった。
無事帰還した時は酒場で人一倍盛り上がってぶっ倒れたのもリーダーのレオ(レオンハルト)だった。
俺はそのたびにレオを抱えて帰ったものだ。懐かしい。
おっと、そんな話は今はいい。
ここ最近いろいろありすぎて現実逃避しちまったぜ。
そんなわけで、辺境伯のレオが協力してくれたら心強い。
まあ、あいつは断らないだろうけど。
面倒をかける。許せ。
……さて、手紙を書くか。
***
――”黒いオーラの浄化に関わる情報”
書き方によってはアレクとヒナの今後が決まってしまう……。
アルフレッドは気を引き締めて慎重に、しかし迷いなく書き始めた。
【今回の魔物大量発生についての報告(一部極秘を含む)】
某時刻、辺境の砦より、緊急指名依頼が届く。
指名により、A級冒険者パーティー『銀翼のフェンリル』を至急派遣。
辺境の砦に到着した時、既に大量の魔物が森より出現しており、戦闘中。
戦闘により、多くの冒険者が大小関わらず負傷するも、
回復師により回復、または修復により、継続的な戦闘を続行。
変異個体になりたての魔物も確認。銀翼のフェンリルで対処し、これを討伐。
その後、残りの大量の魔物も、砦の者と冒険者達の活躍により、殲滅完了。
その数日後、フォレットの街近くの魔の森より、同じく大量の魔物が発生。
高ランクパーティーは、辺境の砦への派遣中で不在の為、
冒険者ギルドにて緊急依頼を行い、戦闘開始。
戦闘により、多くの冒険者が大小関わらず負傷するも、
金色の光を放つ回復師により回復、または修復により、継続的な戦闘を続行し、
一般魔物の殲滅を完了。
その後、黒いオーラに取り付かれている変異個体が出現。
ある者により、黒いオーラを浄化完了後、帰還した銀翼が参戦し、討伐完了。
前回と今回の森の外への魔物の大量発生は、
この黒いオーラが動き出したことが原因と思われる。
【極秘の相談について】
今回、フォレットの街の近くの森で殲滅作戦が開始した時、
フォレット支部のギルド内には回復師が派遣済で不在であった。
しかし、金色の光を放つ回復師が出現。
また、共に、黒いオーラを浄化する者が出現した。
この2名に関してはまだ2歳と3歳の幼児であり、
心から信頼できる保護者が必要不可欠である。
これは、すでにフォレットで抱えるにしては多すぎる出来事であり、
この2名は、A級冒険者パーティー『銀翼のフェンリル』の身内であり、
これまた極秘であるが、銀翼と戦闘を共にしていた神獣フェンリルが
2人の保護者として神から依頼でついているとのこと。
今後の黒いオーラとの闘いではなくてはならない人材であるが、
悪意ある者や、他国の者からも目をつけられる恐れがある為、
今後のこの2人の保護と方針について相談させていただきたい。
――冒険者ギルド フォレット支部 アルフレッド・ヴァルハイト
***
ギルドにはギルド同士の連絡手段がある。
ギルド専用の伝達用魔法陣が刻まれた円形の石板だ。
ちなみにこれは特殊な細工がしてあり、
魔法陣を真似ただけでは使用することができない仕様になっている。
冒険者も転送用の石板を使用でき、ギルドの受付で申請すると、
石板が置いてあるカウンターから手紙や小さめの荷物なら転送することができる。
ギルドマスターの部屋にも、専用の石板が2つある。
1台は一般と同じもの。そして、もう1台は緊急連絡専用だ。
このギルドマスター専用の石板は、ギルド同士以外にも、
登録した貴族へも転送が行える仕様になっている。
ギルド業務では、その土地の領主への連絡もすることがある為である。
今回は重要な緊急連絡用の為、
そちらの石板の上に手紙を置き、魔力を込める。
ギルド専用の“緊急用伝達魔法陣”が静かに光り出す。
「……グランドマスター。レオン。
どうか、アレクとヒナを守ってやってくれ……」
祈るように石板へ手をかざす。
「――《伝達》」
ふわぁーっと黄緑色の光に変わり、
手紙が一瞬のうちに消えた。
魔法陣の光が消え、部屋に静寂が戻る。
(あとは、本部ギルド長とシルに任せよう)
デスクチェアに凭れかかり、
何の気なしに天井を見上げる。
「……アレクも、ヒナも……
あの子たちは……世界の希望だ
俺たちが必ず守ってやるからな。」
拳を握りしめるギルドマスター(アルフレッド)だった。




