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第十一話 姫と庶民の差4――食事をともに

 鶯宿が作っておいてあった料理は量を調整できなかったのか、かなり多めの肉じゃがだ。

 鍋の中身を見てから、市松を手当てしている輝夜に楼香は声をかけた。


「あんたも夕食まだなら食べていく?」

「ああ、有難い。助かるよ。市松、お前は少し寝てからだ」

「いやよ、久しぶりの先生と一緒のご飯なら、僕も起きます、いてて…」


 冷やしたタオルを腹に、服を捲りながら当てていた市松は身を起こし、席へとついた。

 今日の支度は輝夜に食器を並べて貰うのを手伝って貰おうと、楼香と鶯宿はてきぱきと指示し、運んで貰う。

 食卓には肉じゃがと、青椒肉絲、梅クラゲに、大根サラダ。お味噌汁は油揚げに玉葱。

 ほかほかと湯気が昇っている、席に着いてから皆で「いただきます」と手を合わせる。向かい合わせになる鶯宿の瞳を見て、輝夜は笑った。


「鬼はみんなその目の色なのか」

「ああ、いや、俺は元々は違う色だ。青かったんだけど、鬼になってから赤くなり。今の色だ。今変化したんだ」

「綺麗な色をしている、金色は神様になるものの色だと聞いた。きっと君にも何か起こるんだろうね」

「それは無理だろう、俺は地獄の獄卒だったやつだ、つい最近まで平社員だったやつがいきなり社長になるくらい無理がある」

「……判らないよ人生は。まあ一度よく考えてみ給え、いつか誘いがあったときのために悪くない」


 鶯宿は輝夜の言葉に不安そうな表情を見せ、梅クラゲをこりこりと食べている。

 市松は味噌汁を啜ると、は~~~~と安堵させて、肩を落とした。


「先生ずっと見ていたんですか」

「粗方検討付けることができたからね、君が姿を現すのを待っていた」

「先生のいけず。駄目よ僕まだかえらない! 先生が涙でむせび悲しんでよなよな僕の名前喚ぶまでまだ」

「なら一生こないことになる。意地を張るな、手紙を残したのは探して欲しかったからだろう?」

「御想像にお任せしますけど、出来れば美しい顔の僕で御想像お願いしますね、あ、出来ればイケメンの顔の」

「そんな顔見た覚えがないな、君はいつだってイケメンではなかった」

「先生のいけず!」


 輝夜と市松はぎゃあぎゃあ騒いで、少しだけ二人は笑い合ってはにかんでいる。

 楼香は折角の鶯宿が初めて作った美味しい料理に何も反応できない。

 鶯宿に美味しいよ、と伝えたいのに心が凍っていく。

 市松を何故そこまで気にするのか判らない。

 でも、楼香はなんとなく。市松の一番の友達は自分がよかったのだ。

 ましてや相手は輝夜だ。美しさに負けたのかと心は拗ねていく。


「ご馳走様、風呂はいる」

 楼香は立ち上がり風呂支度しはじめる。食事の席を早めに立つなど珍しく、鶯宿もつられてご馳走様をして、廊下に出た楼香を追いかけた。

 楼香の腕を掴み、鶯宿は眉を下げて声を掛けた。


「楼香、どうした」

「……なんでもない、鶯宿ありがと、ご飯美味しかった」

「……うん。なあ、楼香。俺は、綺麗で誰もがひれ伏す奴より、ちょっとくらい間抜けで愛嬌あるやつのが嫌いじゃないな」

「なあに突然」

「……なんかあったら、言えよ」


 心配の混じった声に楼香は茶化す意味を見いだせず、真剣さに負ける。

 楼香は強ばっていた体から力が抜け、鶯宿にふと笑いかけた。


「有難う」


 楼香自身何故こうなるかわからなかった。

 美しい景色だ、あの市松が人を信じて気易い人がいるなんて。

 それでも認められない気持ちは、何処へ飛ぶのだろう。


 楼香はおろおろとしたままの鶯宿を撫でれば、湯を沸かしにむかった。

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