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第十話 ハデスの蔑視1――同郷の友

 楼香は地方に引っ越していった友達が久しぶりに戻ってくるというので、一緒に遊ぶのを提案した。

 楼香と再会したロングヘアが美しい女性は楼香と再会し、一緒にお茶をするなり、不安そうに楼香を見つめた。


「楼香、あんた最近変わったことない?」

「うーん、たぶんない」


 事情を説明してもきっと理解出来ないだろうから、なかったことにしてるというのに友達はきっと睨み付けて掌を握りしめた。

 瞳は怒りと悲しみと焦りがまぜこぜになっていた。


「ねえ、あんた今、怪異に宿開いているってほんとう?」

「えっ、何処から知ったのそれ!」

「それは、言えないけど」


 予想外のことに楼香はぎょっとして思わず声を荒げてから辺りを見回し、口元を押さえた。

 もごもごと口ごもりながら友人はどこか必死だったので、諦めた楼香は意を決め、そっと打ち明ける。


「確かに体質上の問題から怪異専門で民宿っぽくしてるよ」

「……私も泊めてくれない?」

「どこから知ったか判らないなら無理だよ、迷惑がかかるかもしれない」

「占い師さんなの! 占い師に、言われて、あんたを頼ってきたの。占い師につきまとわれてるの……」


 楼香は占い師と聞いて脳裏に過ったのはただ一人、蒼柘榴だ。

 蒼柘榴ならば何か友人を仕向けるのも理由がありそうだと思案し、楼香は友人を宥める決意をした。


「わかった、頼ってくれて有難う。状況が判らないから何とも言えないけど、うちにおいで」

「ありがとう……もうどうしていいか判らなかったの私」


 友人はわっと泣き周囲の注目を浴びた。

 楼香は友人――千夏の背中を撫でひとまず、自宅に帰ることとした。


 楼香は少しだけ違和感を抱く。

 蒼柘榴が楼香の宿の話をしながら、蒼柘榴がつきまとっているという話に違和感を感じる。


 *


「えっ、人間だよな、この気配。どうしたんだ、楼香、このひと」

「友達の千夏ちなつ、何か訳ありでさ、宿として泊めてくれっていうの。蒼柘榴が関係するみたい」


 帰ってくれば玄関を覗き見るように台所から現れたのは、鶯宿だった。

 鶯宿は千夏が頭を下げればつられてぺこりと頭を下げ、千夏の足下を見てぎょっとした。


「いや、楼香。怪異であってる」

「どうして?」

「そいつには影がない」


 鶯宿は千夏の足下を指させば、確かに実態はあるのに、影は何も持ってないのだ。

 楼香は気付かなかった自分を迂闊だとも恥じらったが、千夏に視線を向ければ、こくりと頷いた。


「影を吸って食べる怪異に出会ったの。それから占い師につきまとわれた」

「ははあ、なるほど」


 鶯宿は目を眇めるとそのまま千夏の頭をぽんぽんと撫でて、「ようこそ宿に」と適当な挨拶をして台所に戻っていった。

 二人は階段を上り楼香の部屋に向かう。

 楼香は他の部屋を宛がおうと考えたが、不安なのだろう千夏は。一緒に来るのを許し、そのまま同じ部屋に。

 楼香と千夏はそのまま時間を過ごし、既に時刻は夜更け間際。

 順番にお風呂に入れば、雑談してから二人は眠ることとした。


「ねえ、楼香。もしあたしが人間じゃなくなっても友達でいてくれる?」

「うん、千夏はあたしが宿題で困っていたとき助けてくれていたし。何かあったときそばにいた。お返しできるなら頑張るよ」


 楼香はにっと笑いかけて、やがて二人はうとうとしはじめ眠りに入る。

 すやすやと微睡み駆けていたとき、楼香の皮膚がちり、と熱さにちりついた。

 ちりついて部屋の中を見れば、ぼわんと沢山のランプで囲まれていて、ランプの先には灯火がついている。

 何百ものランプが楼香の部屋に満ちていて、ぼうっと炎の瞬く音がした。

 その瞬間に現れたのはベールを身に纏う蒼柘榴。

 普段の飄々とした表情を消し去り、千夏を見つめて虚空に嗤った。

 楼香と目が合えば、初めてそこで人外の気迫を少しだけ消した。

 威圧感がそれまでぴりぴりと強く、名を呼ぶのでさえ許されない空気が伝わっていた。


「おや、楼香くん。この人貰っていきますね」


 千夏は起きる気配がない、楼香は千夏を身を挺して庇う形で覆って、首を振った。


「だめだよ、渡さないよこの子はきっとまだだ。何かの手違いだ」

「それこそいけません、楼香くん。君はあくまで見逃されている身。口を出せる権利など、お前にはないのですよ」


 いつもの優しい蒼柘榴ではない、蒼柘榴はにこやかな顔をしながら、低い甘めの声で楼香の頭を撫でてしゃがみこんだ。


「さあ、離れて」

「いやだ」

「見てくださいよ、楼香くん。このランプ、彼女のものです」


 蒼柘榴がギリシャランプを逆さにしても、油の残量はなく、一滴ですら垂れてこなかった。


「蒼柘榴、この宿のルールを覚えているか。この屋敷はあたしが主人で、あたしがルールだ。宿にいる間は、この子は客だ、わかるね?」

「……ふふ、なるほど、彼女を怪異扱いする行為で、助けようとしますか。確かに宿のルールは絶対です、常連としては引き下がらないといけない。確か五日後でしたっけ、期限は。最大五日間までですよね、それも貴方のルール内だ」


 蒼柘榴は楼香の唇を指先でつつー、となぞってからなぞった親指を甘く咬みはにかんだ。


「ワタクシとの食事でーとで見逃しましょウ」


 それまで感じていた熱や、まばゆいほどのランプの明るさは一瞬にして蒼柘榴の帰還とともに消えた――。










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