38一息
今回は箸休め程度に思ってくださって構わないです
38
街の中心街にある少し高めのガソリンスタンド……どうやらセルフらしい。
私は車から降りて、給油口をあげた。
プシュっという空気が漏れる音がして、プ〜ンとガソリンの匂いがした。
少しだけ聞こえるエンジンの音、鍵は刺してないのに……少し古い型だから仕方がないけど。
お札五千円程入れて、ボタンを押した。
ヌメヌメとしたハンドルを嫌々掴み、ノズルを給油口に差し込む。
ドバドバと液体が流れるような気がした。
しばらくハンドルを握っていると、ピーと言う音が聞こえた。
メモリを見ると、どうやら終わったらしい。
ノズルを給油口から遠ざけ、レシートを手に取った。
「はぁ、五千で三十五リットルしか入らないなんて中々ケチな商売してるなー」
そんなことをボヤきつつ車に乗り込んだ。
そこからの旅は長かった。
ある日は溶けてしまいそうなくらいの熱射にあてられ、翌る日は雷雲蔓延る森を抜け、その翌日は風の強い日だった。
あの街を抜けてから二週間が経った。
途中寄り道して寄ったレストランは最高に美味しかった。それだけを記憶している。
他は何も覚えてはいない。記憶に残らない旅だった。
帰る家もなく、親しい人もいない美穂にとって夜見ちゃんと言う存在は今の美穂にとっては掛け替えのない守りたい対象であると共に、唯一の家族となった。
「今日もまた雨が降りそうだね」
「うん」
灰色をした雲が空を覆う。
少し先の道路には霧が見えた。
まるで私の心でも写しているかのようだった。
どんよりとした気持ちと何かを為さねばならないと言う使命感。
それに後先真っ暗と言う点まで似ている。
いっそのこと死んだ方がマシなのではないだろうかとまで考えてしまう始末……私はなんなのだろうか? なんのために生まれ何を為さねばならないのだろうか?
決まり文句も思い浮かばず、ここ最近アニメすら手をつけていない。
私の唯一の娯楽……それを取り上げられた私はこれほどまでにつまらない大人になってしまうのか……。
つまらない幻想ばかりを口にして現実的なことは何一つやって来なかった私への戒めなのだろうか?
「……美穂お姉ちゃん、お願いがあるのーー」
「どうしたの……」
夜見は顔を下に向けて両手を固く握り締めていた。何か覚悟を決めたのだろうか?
「私を見捨てて下さい……」
「…………はっ?」
「お姉ちゃんは私がいるからそんな顔をしてしまうんですよね……私がいなければお姉ちゃんはいつもみたいに笑ってくれていたもん。私が私が夏帆お姉ちゃんを救えなかったからお姉ちゃんは私の事が嫌いになって、不機嫌なんでしょ……だから、だから…………」
「んっ…………」
私は何も言う事が出来なかった……。
私が夜見ちゃんに辛い思いをさせていたなんて、守ってあげなきゃいけない子にこんな事を言われるなんて……ははっ、はぁ〜ダメだな私、夏帆がいないと私ダメかもしれない。
「夜見ちゃん……違うよ……」
「…………えっ!」
夜見は驚いたように顔を上げた。
その顔は悲壮感漂うかわいそうな目をしたヤギのような顔だ。
今にも逃げ出しそうな、全てを犠牲にして誰かを助けたいと願う顔だ。
でも、私はそれを許してあげる事は出来ない。
「ふぅ……私はね夏帆に頼まれたの私が死んだら後のことよろしくって……でもね、そんなこと関係ない。私は私の意思でここにいる。夜見ちゃんを嫌いになることなんてあるわけない」
「……でも」
「でもじゃない! 私はね夜見ちゃん。貴方を逃がさないよ。何処にも行かせない。私が貴方を守るんだから」
そして、私は夜見ちゃんを強く強く抱きしめた。
「ん、んぅ〜苦しいよ〜」
私を押し退けようと必死に抵抗する夜見ちゃんの手には力が入っていませんでした。
次第に目には涙が浮かび、ポロポロと頬を伝い私の肩は少しだけ暖かかった。
◇
「次は何処に行きたい?」
「お姉ちゃんと一緒ならどこでも良いよ!」
すっかり元気になった夜見は甘えるように美穂に接する様になった。まだ傷は全て癒えた訳ではないのだけど、心の傷だけは少しだけ塞がった気がした。
峠を一つ超えるあたりまで来るとすっかり晴天になっていた。
眩しい日差しに手を当てて、ケラケラと夜見と美穂は笑うのであった。
途中、アスレチック的なものを見つけては降りて遊んだり、ゲームセンターがあれば寄って日が暮れるまで遊んだりした。
あれからひと月が立った。
美穂の財布はすっかり空っぽになり、とうとう車まで手放してしまった。その代わりに小さな小屋を手に入れた夜見と美穂はそこで新しい生活をすることになった。
木造1階建ての平屋、部屋は四部屋あり、それ程大きくはない。
家具は少しボロいのがいくつか揃って降り、ガスコンロや洗濯機などと言う最新のものは無かった。
さながら昭和初期にでも戻ったような感覚だろうか?
庭にはトマトやナス、キュウリなどの夏野菜が植えられており、とてもみずみずしくて美味しそうだ。
真っ赤な太陽に照らされて街外れの小さな小屋に二人は少しの間居座ることにしたのだ。
「ふぅ〜このクソ暑い日にはやっぱり川が一番だよねー」
「うん! 最高に気持ちがいいよ」
都会の喧騒などすっかり忘れで夜見と美穂は水着姿で川に浸かる。
さほど深くはないこの川の浅瀬では丸々と太ったスイカが浮かんでいる。
少し潜って見れば、可愛らしい魚がちらほらと見受けられる。
手で取ってみようと手を伸ばすがすぐに気付かれて逃げられてしまった。
その様子を美穂はくすくすと笑い、夜見は少しだけ悔しがっていた。
だいたい今は二時前後だろうか?
さっき昼休憩とか言って庭でとれた野菜をふんだんに使って作られたサンドイッチをお腹いっぱい食べたところなのだから。
「夜見ちゃんまだお腹空いてるの?」
「うんんーそこにお魚がいたからだよ」
なんとなく私に似てきたかな? と危機感を感じる美穂であったが、一先ず保留しておくことにした。
次の次の次くらいから新しい展開へ




