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かなり遅れてすみません〜
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夏帆の体を土に埋めた。花束を沢山添えて夏帆の好きだったひまわりは生えた無かったけど、マリーゴールドを代わりに添えておいた。
私の大好きだったお姉ちゃんは死んでしまった。
涙が止まらなかった。頭が真っ白になって、よくわからない真っ白な感情……きっとこれが怒りって事なんだろう…………歯を強く噛み締め、泥だらけになった手を裾で拭った。
「私が隠れていたところに行こう。そして、街の隔離センターまで行こ……」
「うん」
夜見は満身創痍……今にも死んでもおかしくない状況……人手を探し治療をしないと危険な状態だ。病院はあの有様、医者など生きているはずもない。
そして、ここに長居することもあまり得策ではない。美穂はさらに考える。
私たちがここに居たと言う事も知られてはならない。あいつら鬼は非常に鼻が聞く。
取り敢えず服をいくつか見繕って着なければならない。
あ、あぁ……そう言えば私たちショッピンかモールに行く予定でこっちにきて居たんだっけ……なんだか悲しいな……はぁ……。
美穂は心の中で大きくため息をついた。
今だに放心状態の夜見を墓の前で蹲る少女にあまり酷な事はしてやりたくはない。それよか服とか色々なものを与えて気分転換をしてもらわなければならない。
「その前に少しだけ服を選ばない?」
私はそう夜見ちゃんに提案した。
◇
私と夜見ちゃんは先程来ていたショッピングモールへと来た。
中には人っ子一人としていない。床は少し焦げチラホラと傷も見える。一階のホールでは何かが焼かれている少しだけ美味しそうな匂いがした。
なんだろうと足を運べは、ウインナーの袋が燃えていた。いい感じに焦げたウインナーは少しだけ空腹のお腹を刺激した。
「お腹すいた……」
傷だらけの体を歯を食いしばり歩く夜見ちゃんはヨダレを垂らしてそれを見ていた。
あぁ……この子は何も食べていないんだなーー。
「誰もいないし食べてもいいんじゃないかな? ほら、彼処にはお弁当も置いてるよ! そっちの方が美味しいんじゃないかな?」
苦し紛れの言葉、私もお腹が空いた。
いつもの強気の言葉なんて出て来やしなかった。
あのバカな私が恋しい……そんな事まで考えてしまう……。
夜見は頭を少しだけ振る。
塞がりつつある傷口を少しばかり気にしながら、お弁当の置かれているブースまで歩いた。
いい香りがする。カニや海老、唐揚げなんかも置いてある。どれも高級品だ……私にはどれも手のつけられないものばかり並ぶ……そういえばここ、セレブも来るんだったけ?
夜見はよだれと鼻水を垂らした。
体からは常に汗が垂れ、死に物狂いでそれらを食べる。
「はは、なんて言うか野獣見たいな食べ方だね……」
箸なんて使わず、両手を広げ彼方此方と手を伸ばす。伸ばす手の先には何かしらの食べ物が置いてある。天ぷら、煮付け、漬物、生もの、パン……などなど、あげたらきりがない。
口周りをすっかり汚し、血に染まっていた服はもう何色か分からぬほどに汚れ破け腐っていた。
鼻や舌などの味覚を感じる部位はあまり機能しない。
胃に食べ物が詰め込まれる苦しさだけが唯一感じられる感覚。それ以外は何も感じない……。
美穂はその様子を横目で見ながら自身も口に食べ物を詰め込んでいた。
◇
二人が手を止めたのはあれから二時間ほど経った頃だった。
服と口周りがあらゆる食べ物によって汚れていた。特に赤と緑が目立つ。酸っぱい匂いと辛い匂いが鼻をつく。
大口を開け、いびきをかきながら夜見は久方ぶりの熟睡をしている。
その反対側に寝そべっている美穂は、タバコを一本取り出し口にくわえた。
別にタバコが好きなわけでは無い……吸って見たかったと言うのが本音だろう。
先端にライター手を火をつけ息を吸う。
もくもくと白い煙が上がり独特なあの匂いが広がる。
癒されるような、何かが吹っ切れるような感じがする。実際はそんな事ないのだけど今だけはこうしていたかった。
私も……寝ようかな?
美穂はその硬い瞼をゆっくりと閉じていった。
◇
あれから半日が立ったであろう頃に二人は目覚めた。
別に陽の光や蛍光灯が付いているからではなく、なんとなく二人ともほぼ同じ時間に目を覚ました。
「起きた?」
「うん……」
寝起きは弱いのかなと夜見の顔を覗き込む美穂、口に手を当てあくびを殺した。
「夜見ちゃん……服見に行こうか」
「うん」
私と夜見ちゃんはショッピングモールの二階部分にあたる子供服の所へと向かった。
立ち並ぶ衣類は半分ほどがなぎ倒され、その中の半分ほどが破られ、その中の半分ほどが燃えていた。
残っている衣類はそこそこあるといった感じではあるが、バラエティに富んでいるわけではなさそうだ。
少し目線を外せば着物も目に入る。どうやら夜見ちゃんは身長が足りなくて奥に置いてある着物が目に入らないらしい……。
クスリと私は笑い、それを不思議そうに夜見ちゃんは私の顔を覗き込むのだった。
一通り選んであげていると、ひとりの女性が私たちの前に現れた。
「あの……すみません……」
「ひぁや! ごめんなさいごめんなさい服勝手に持って帰ろうとしてすみませーん」
悪い事は見つかるもんなんだなと私が心の中で懺悔していると、その女性は口を開いた。
「え、えっと……そうではなくてですね……私ーこう言う者なんですよ……ね!」
黒いスーツ姿の女性、短めのスカートにはシワが一つもなく、ピシッと決まっている上着のポッケには可愛らしいウサギのマークが、髪は少し長めで肩よりも少し長めだ。
黒髪ロングは今時流行らないとは思うがこう言う人がファッションとして受け入れているのはまたこれいかに……。
手渡された名刺を舐め回すように見る。
「えーと、なになに……南警察署、鬼部、特殊第一装警部補。佐久間 小百合……さん?」
にこりと彼女は微笑む、怪しさ倍増と言ったところだろう……。
「えぇ、そうです。えっと、いいニュースか悪いニュースどちらが先に聞きたいですか?」
満面の笑みで彼女は問いかけて来る。
「え、じゃあいいニュースからお願いします」
「はいわかりました。……いいニュースはこの街に侵入して来た鬼は駆逐されました」
「はぁ、じゃあ悪いニュースは……?」
美穂は生唾を飲んだ。覚悟を決め、彼女の目を睨みつけるかのごとく、目を目で刺した。
「貴方達以外この街、この街付近の住宅マンションアパートその他諸々を含む娯楽施設に至るまで誰一人生きてはいません。無論、私たちはここの街以外から来た人間です。ここにいた鬼殺の人たちは死んでしまってますからね〜大変でしたね。そこの子供」
美穂は眉をひそめた……この女、何かが欠けている。
女はそれだけを言うと、スタスタとどこかへと歩いて言ってしまった。
なんの言葉もなく、感情が欠落でもしているのだろうか? ああ言う人がネジが一本外れていると言うことなのだろう……。
美穂は鬼以外に恐ろしいものを初めて見た気がした。
夜見へと目を移せば、白目を剥き口をパクパクさせている。
目からは大量の涙、鼻水は滝のように流れ足腰には力が入らず生まれたての子鹿の様な足取りだ。
「そんな、そんな……」
私は夜見ちゃんの背中に回り込み、背をさすった。ゴツゴツとした傷跡、時折ねっとりと当たる血の跡、血の生臭い臭いが香る。
「夜見ちゃん…………」
「………………」
「服、選ばない?」
私は逃げた、彼女に現実逃避をさせる道を選んでしまった。きっと、彼女は後悔するかもしれないけど、今だけは今だけは今だけは逃げさせてあげなきゃいけない。
私は自身にそう言い聞かせ、夜見ちゃんを服売り場へと無理やり連れていくのだった。
◇
結局選んだ服は和服……赤と白を基調とした花柄の着物、どうやらこちらの方が着慣れているようだ。
買ったらきっと高いんだろうな〜と心の中でつぶやいた。
今の私の顔は笑っているのだろうか? 泣いているのだろうか?
分からないけど、今は笑っていなければならないと言うことは知っている。
美穂と夜見はその場を後にした。
◇
私たちはあれから車に乗り込んだ。
「夜見ちゃん……そう落ち込むことはないよ。死んじゃったのは仕方のない事だし、そうなる運命だったってだけ……」
ハンドルを握る手に力が入る。
アクセルは少しうねりをあげる。
歯軋りをし、遣る瀬無い思いなのだろう。
けれど、それを見せまいと舌を噛み自身を戒めていた。
「……うん」
私はそんなお姉ちゃんの姿を見て上手い言葉が出てこなかった。
車を出してから二日ほど経った日のこと……。
二人とも憔悴し焦りと葛藤か渦巻く中、新たな街を見つけた。
人口はそこまでおらず、街といってもビルや商店街は寂れあまり人通りのない街だ。
人々の顔は遠目でもわかるほどにやつれ、生気がないようにも感じられた。
「ここでガソリンを入れてこの街をすぐに出て行くよ」
「うん……」
それ以上それ以下は二人もと何も話そうとしなかった。
夜見は悔いているのだ。
夏帆お姉ちゃんをしっかりと埋葬してあげられなかったこと、助けられる人を助けられなかったこと、何よりこんな顔をした美穂お姉ちゃんに何もしてあげられないことに……悔いているのだ。
唇を噛み、瞼を強く閉じる。瞼の裏に映るのはあの笑顔……思い出しただけで幸せな気分になれるはずなのに今は涙しか出てきやしない……。
泣いてはいけないと、心を落ち着かせ静かに座ることしか出来なかった。
きっと最近良くないことが起こったのだろう……大切な人を亡くしたのだろう……。
美穂はそう口にすることはなかったがどうやら夜見ちゃんは感じ取ったらしい。泣きそうな顔をしていたから。
はぁ、夏帆、優しいあなたが死ぬことはなかったのに死ぬならせめて私が死ぬべきだったのに……どうして、どうしてなの?
ハンドルを握る手に力が入ってしまう。
この二日間夜見ちゃんとは殆ど話していない……と言うか話せない……。
夜見ちゃんの事だ、きっと夏帆を救えなかった事を後悔しているのだろう……そんなに気負わなくて良いのに。あの時止められなかった私が悪いだけなのに……こんなに深くて大きい傷を負わせたのは他でもない私なのだろうから。
悔やむとかそんなんじゃない……二人とも救ってあげられなかった私の罪なんじゃないだろうか?
隣に乗っている夜見ちゃんの顔を見るだけで胸が痛む。遣る瀬無くて、行き場のない怒り、憤りが頭の中をグルグルと回って結局何も生まない。
突き上げてくる胃酸を唾を飲み込み下げる。幾度となくやったこの作業も達人の領域に達しそうだ。
続きは今度の水曜日に!




