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第十五話。だいまおうさま喜怒哀楽。 パート4。

「ずるっ。ごめんなさい、わたしのせいで

帰るのが遅くなっちゃいましたね」

 鼻をすする大魔王。シュールだ。激しくシュールだ。

 人型だからかなりましだけど、大魔王って存在から受けるイメージとしては

 フレンドリーすぎる。流石の掌大魔王である。

 

「遅くなったって言うけど、いったい今何時なんだ?」

 クルミチャンの言葉、たしかにその通りだ。

 俺達はここに入って以後、一度も時計を見ていない。

 見られない、って言う方が正しいけど。

 

『少なくとも、既に夜の空ですわ。

星明りはかなりぼやけてしまっていますけれど』

 俺も同じようなこと思ったっけな、昨日。

 同じ世界でも思うんなら、異世界 特にファンタジーな世界なら、

 よりぼやけて見えるかもしんないな。

 

 俺のイメージではあるんだけど、ファンタジー

 それも異世界ファンタジー、ハイファンタジーって言われる奴は、

 空気が綺麗って言う印象だからな。

 

「ってことは、早くても七時はすぎてるな。

あっべー、連絡入れてねー!」

 入れてねーから裏返るような、声の慌てっぷりだけど、

 ダッシュと言うより小走り……よりは、ちょっと早いな。

 

 中走りぐらいの速度で、エレベータのある部屋に

 一足先のクルミチャン。

 

 

「三時間ぐらいこもってたってこと?

思った以上に、時間かかったのね」

 ひかりは、余裕たっぷりに通常歩行。

 

「むしろ、俺が二回にわけて攻略したのを、

俺が四階分クリアするぐらいの時間で、

攻略したお前はなんなんだよ」

 照と同じく、俺も通常歩行速度で進む。

 ディバイナは、まだ照の肩の上だ。

 

「スペックの違いかしらね。しかもあたし、まだ本気じゃない」

 勝ち誇った感じで、本気じゃないを軽く強調して言いやがった。

「化け物かよ」

 あまりに、も身体能力スペックが高すぎて、

 吐き捨てるように言ってしまった。

 

 エレベータルームに入ると、ソワソワした様子で

 クルミチャンが待っていた。

「もたもたすんな、早くしてくれ!」

「そこまで焦るところか?」

 

「家族に心配かけたくねえだろ。

って、ピカリンはえらく落ち着いてんな?」

 上昇し始めたエレベータに、合わせたようなタイミングで、

 照は「いいのいいの、特に心配してないし」とさらり。

 

「それは、その化け物スペックが理由か?」

「かもねー」

「しれっとまあよう言うわ」

 クルミチャンは呆れるばかりだ。俺もそうではあるんだけどな。

 

「っと、ついたな」

 エレベータが止まった、だから俺達は外へ出る。

「へー、武器取ったとこの逆側に出るのかー。

で、武器は返すんだよな?」

 

『その方がありがたいですわね』

「おっし、和也。パス」

「ったく。武器をボール感覚で扱うなよ。ほい」

「って言いながら投げるんじゃないわよ」

 

「っと」

「ヒロシが受け取れたからよかったものの、その投げ方。

失敗したら、居合みたいな感じで刃出るわよ」

 俺、今鞘を照の言う通り、居合で刃を抜くように投げた。

 

 なもんで、クルミチャンは、横向きの鞘を掴むことになった。

 たしかに、勢いが付きすぎれば横一閃だ。

 だから、怒られた。

 

「じゃ、収めて来るわ」

 言うとクルミチャンは、小走りして武器庫へ向かった。

 武器庫のドアが閉まった直後、ガチャンガチャンと、

 聞くからに焦ったような音が聞こえてきた。

 

「慌てる乞食はなんとやら、って言うのにねぇ」

 クスクス、と微笑してる照だけど、そこに悪意はない雰囲気を感じる。

「おっしゃー帰るぞー!」

「やかましいんだよ、静かにドア閉めろ」

 武器庫のドアを、勢いよすぎに閉めたので、だるっと突っ込んだ。

 

「しょうがねえだろ慌ててんだから。ちゃっちゃといくぞ」

 慌ただしいクルミチャンの先導で、俺達は掘っ立て小屋から外に出た。

 

「お? おお! 装備が戻ってるぞ!」

「体が軽いぜ」

 

「嘘言わないでくださいだんなさま。

あの鎧は身体能力強化の魔法も、付与されてるんですよ。

普段着とかわんないはずです」

 軽い調子で突っ込まれてしまった。

 

 が、なんともなく、そうだなっと相槌してから言葉を返す。

「たしかに。重みは普段着と、そうかわんなかった。

ただ、鎧に慣れてないからこう、あの体が曲げにくい感じが

重たいような感覚になったんだよ」

 

「なるほど、そういうことですか。冗談めかしたとはいえ、

だんなさまに嘘吐きーだなんて、ごめんなさい」

「気にすんなって、そんな程度」

「許して、くださるんですか?」

「おお」

 

 さらっと言うと、

「あぁ~、よっかた~」

 と安堵の嬉しそうな声。

「今、なんか変だったよな?」

 

「うん。今朝から感じてたけどさ。

やっぱりあんたたち、面白いわね」

 満足気に頷きながら言った照。

「ずいぶん今更だなピカリン。

俺達が面白そうだから、付いて来たんだろ?」

 

「いや、照が俺達についてきたのは

だんじょんを調べるためだぞ」

「あれ、そうだったのか?」

 

「そ。魔力持ちの大魔王ちゃんに興味示してたでしょ、今朝のあたし。

その話の派生でダンジョンに来たのは、

あんただってわかってたじゃない」

 ちょっとかったるそうに返してるな。

 それが疲労からなのか、それともクルミチャンの理解度の低さからなのか。

 

「勢いで喋ること、わりとあるからなぁクルミチャン」

「お前ら、二人してマシンガン突っ込みすんなよなぁ」

 クルミチャンがうんざりと言ってるんだが、これは自業自得だろ。

「今回は、あたしの同行理由をわかってなかった、ヒロシのせいでしょ」

 

「って言うか俺は突っ込んでないだろ」

 疲労感が乗っちまった、声にも表情にも。

 俺達のグダグダトークを見てた、まだ照の肩のディバイナ。

 よっぽどツボに入ったのか、大笑いし始めた。

 

 そんなこんなと雑談しながら、俺達はゴーレママのいる場所、

 公演を出たところで別れた。また明日の挨拶を、お互いにして。

 勿論ディバイナは、挨拶の後で俺の方に戻って来た。

 

「家に帰るまでが、だんじょん攻略ですよ、だんなさま」

 語尾に、音符だの星マークだのついてそうな、

 ご機嫌満点な声色で言われて、

「遠足かよ」

 と吹き出さざるをえなかった。

 

「遠足ですよ。それこそが、わたしの理想ですから」

 シリアスに返されたディバイナの言葉を、俺はどう返していいのかわからずに、

 聞こえない振りでごまかした。

 

 

 

 こうして、俺のだんじょん攻略アトラクションは、

 ソロプラスお助けキャラのテストプレイから、

 パーティプレイへの編成変化を経て、

 正式版初のクリアとなったのだった。

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