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027「まったく、今時の小学生ってやつは……」

星ブックマークよろしくお願いします。

〈二〇二五年 七月二十四日 御加実市 Dekopoモール 深海区域(マリンエリア) ???〉


「────これで、仕切り直し(イーブン)……」


 レイは静かに息を整える。

 そうは言ったものの、レイの体は幼いままだ。

 リティアの加勢があろうと、この軍服男とケルベロスに勝る理由にはならない。

 とはいえ、それでも状況が幾分かマシにはなった。


「おやおや、また小さきものが増えたとは……嬉しい限りで。では、こちらも遠慮せず──全力でいきたいですねぇ!」

 そう、高らかに宣伝した軍服男は、今度はこちらからと言うようにレイへと肉薄する。

 彼我の距離を無にされたレイは、後方に飛び軍服男の組付きを回避する。


 そのまま、最小限の足運びで、反転し飛び蹴りを軍服男に、喰らわすが────


「……ん、やっぱり反射される」

 手に伝わってきたのはあまりに硬い衝撃だった。

 相手にダメージはなく、逆に反動の二倍はこちらが喰らうとい結果がそこにはあった。


『厄介だ、というより専用の対策でもなければこれを突破できそうになさそうだ』

 リティアは、この《反射》自体が超えようのないものと判断する。

 能力者、この〝ゲーム〟では、空想現界人と呼ぶ…………現界人同士の戦いは、能力との相性が密接に関係している。

 反射、と言う能力に対して、対反射の能力をもつ空想現界人が偶然この場にいるという確率は限りなく低い。


「んん、鬼ごっこですか。たまには身体を動かす事も良いですねぇ」

 レイは自身を掴もうとした腕を身を退け反らせて回避する。

 そして、そのまま地面に手をついて足払いをする。

 蹴りを脚で受け止める軍服男は、そのままレイを軸足を入れ替え、打ち出すように蹴撃をくり出す。



────反射の次に厄介なことが一つある。


 リティアは分析する、軍服男自体の戦闘能力を。

 今、レイと渡し合っている軍服男は全く本気を出していない…………否、本領を発揮していない。

 軍服男は全力を出しているのだろうが、ケルベロスを使っていない時点で本気ではないのだろう。


 そして、その身体能力は年齢操作前のレイに相当する。

 ケルベロスを戦力に含めなければだ。

 いや、年齢操作前のレイの方が少し劣るかもしれない……それほどの戦闘能力を軍服男単体で有しているのだ。

 そう、ケルベロスの反射だけでも厄介極まりないのに、軍服男の年齢操作と身体能力がそれに拍車をかけている。


『ならば、色々試すしかないだろう』

 そして、妖精はレイに幻影の魔術をかける。

 魔術は虚像を映し出し、レイの姿を隠す。


 虚像自体はうごかせず、姿を隠しても音やらは隠せない。

 しかし、幻影は強力であり、今の身軽なレイならば、無音で軍服男に近寄ることなど造作もない。

 反射は、意識外の攻撃も反応できるか否か、妖精が試したいのはそれであった。


 一瞬、動きが止まったレイに軍服男は戸惑いを見せた。

 だが、幻影までは悟られていない……ならばレイの速さに敵うものは────



「────っ」

 瞬時に、透明な何者かに殴られたと悟った軍服男は、しかし笑みを深めた。

 反射を覚悟し、振り抜かれたレイの拳は、反射の効果を受けかなりのダメージを負ってしまう。


「無駄です………しかしお見事な無音高速の暗殺術ですね。すでに()()()()()()

 瞬時に逃げようとしたレイは、上から迫る()()を視界にとらえた。

 ズン、と押し潰さないギリギリの踏みつけ…………まるでボールで遊ぶように、レイを足の裏で蹴ったケルベロスがその鋭い目つきでレイを威嚇していた。


「使わないんじゃなかったの?」

「駄目ですよぉ?敵の言葉を間に受けては」

 レイはそのまま、地面に叩きつけられる。

 そして、反動で跳ね狙ったように出した軍服男の腕に掴まれる。

 首を掴まれたレイは、拘束を解こうとするが、できない。


 レイの誤算はただ一つ、目の前の狂人がすでに想定以上に狂っていたことだけ。

 軍服男は、目の前の敵を狩ることへと思考を変え……か弱きものを守るという制限を取っ払ったとはいえ、殺すことまではしないとレイなりに踏んでいた。

 リティアも同じであったので、レイの試したいという意を汲んだまでのこと。

 

「────ッ!」

 ぐぐぐ、と喉を掴む手に力が込められる。

 頭への酸素が途絶え、四肢の筋肉が少しずつ弛緩していく。


「あなたは、すでに私の娘ではない。守るべき対象を通り越してしまっている」

 軍服男の漆黒の目がレイを貫く。

 苦しそうに、だがその小さな肺では呼吸すら長くはもたない。


 目の前の狂人は言葉を話しているだけの、獣なのだ。


 静かに、力が込められていき、首の骨すら危うく折れそうになる。


 軍服男はあくまで、か弱きものの守護者……相手が自身に油断しているという予想は大きな間違いだった。

 ガリガリと首を掻くことしかできない。

 リティアとて…………掴まれた状態であり、かなり弱っている出力では、軍服男に対処できない。


 この場にナギトがいたのならば、彼の魔力を借りて魔術を発動できたのかもしれない。

 だが、彼はいない…………すなわち、私の再生も発動しない。


────死ぬのか。



 いつも隣にあったはずの死を今更、実感する。

 それは本来生に執着しないレイには、無かったものだ。

 地雷の魔術師と戦った時も、銀狼と戦った時も、彼女の中には生にしがみつく理由はなかった。



──────ノワ子も、ナギトも、私が死ねばどうなるだろう。


 ほぼ、確実に彼らは死に至るだろう。

 あの助けようと決めた子供達も攫われ、全ては水の泡だ。

 いや、そもそも私の人生で、何かを積み上げたことなどない。

 ならば、何のために────



「…………今だッ!聖なる乙女よ!!」


────そして、辺りは謎の蒸気に包まれた。



◆◇◆◇◆



 なぜ、自分はここにいるのだろう。

 それが最初に降って湧いた疑問だった。


 この世界に来てから、ゴミを漁る生活をしていた。

 前の世界の家族も、生活もすべては夢だったのではないかとすら思える最悪の環境だった。

 ただどうやら、俺の魔力は低すぎてまじゅつし?とやらには見つからなかったらしい。


 突如として迷い込んだ異世界、誰もが知らん顔して歩いていく冷たい街に俺は居た。

 ここに来て、いくあてもなく彷徨い、そして野垂れ死んでいく。俺の人生などそんなもの……そう思っていた。


 ただ、俺の人生に一つの幸運が訪れた。

 そう、あの目つきの悪いキキョウに拾われたんだ。


 警察に見つからなかったのは偶然だった。

 キキョウ姉の話では警察に見つかると最終的に魔術師の元に向かうらしい。

 運が良かったと、キキョウ姉は言っていた。


 そして、俺と同じ境遇の子達がいる孤児院で、生活することになった。

 怒ると怖い、お婆さんのシスター……可愛く明るいみんなの人気者クアリ……そして、ちょっと生意気だけど、気配り上手なカルネ……そして、年下の子らとともに、孤児院で過ごすのも悪くなかった。

 しかし、それでも狭い孤児院では、さすがに限界がきた……だから、俺が言い出したんだ。俺が、外に行ったらどうだって。

 キキョウ姉は俺の意見を汲んで、お婆さんのシスターに掛け合ってくれた。

 最初は楽しかった、俺の発案でみんなが楽しそうで俺も嬉しかった。

 けれど、皆の為にした発案が裏目になっちゃったんだ。


 ずっと、無理してるキキョウ姉が少し怖くて、この場から立ち去りたいってちょっとだけ、願ってしまった。だからだ、俺たちは何もできずにあの怖い軍服の人にさらわれたのは、俺のせいだ。


 攫われてからも、何かできるはずと思っていた……年長だから。

 皆の中で一番の年上が俺なんだ……だから皆のことも、カルネのことも守る。

 そう息巻いていたはずの俺は、レイが来て連れ出してくれても……何もできなかった。


 空想現界人には、何かしら能力がある……俺にだって、カルネにだって。

 でも、力を持っていることと、それを行使できることはまるで違った。

 あの時も、あの時も……今だって、ただの弱い子供に甘んじている。


 正直、あの軍服の人が俺たちのことを弱き者だと言ったとき、ほっとしたのだ。

 彼にとっても俺たちは敵ではないのだと、ノワ子が軍服男に従おうとしたときも、そう思った。


 けれど、その後にノワ子があの軍服に言っていた。

 とてもスカッとしたし、雷に打たれたような衝撃があった。

 ノワ子は、俺たちと同じか弱い……周りに流されてきて、守られてきた女の子だと思ったからだ。


 でも、それは違った。いや、俺だって……俺たちだって、違うんだッ!!


 弱くても、強く()()ことはできる。

 俺たちは、ただ自分を弱いと決めつけていただけなんだ。

 キキョウ姉もクアリちゃんも、俺が弱いなんて思っていない。


 誰よりも俺を弱いと決めつけ、実際に弱くしていたのは……俺自身なんだ。

 確かに、心の奥から火が燃え上がる感覚がする。

 静かに、周りを見て…………目の前の誰よりも弱く、それでも俺たちの戦闘を走る彼女を見て……そう思えたのだ。



──────だから、俺は意を決して口を開いた。



「──────────俺、やっぱりレイだけを置いていけない。ノワ子、力を貸してくれないか?」

 初めて踏み出した一歩は、進んでみればなんてことのない前進だった。

 それでも、確かな一歩を俺は踏み出せた。



 そう、気づいたとき…………前より少し、世界が広く見えた。



◆◇◆◇◆



「────────しかし、のぅ……」

 

 突如、そう言いだした何やら決意を固めたルートの言葉に私は迷っていた。

 レイが生み出してくれた僅かな隙。

 それをふいにすることへの忌避感が彼女の表情を曇らせる。


 だが、私とてルートの言葉には賛成したい。

 その気持ちはあるが、そもそも私たちに何ができるか──────



「──────頼むよ」


 その目は、よく見たことのある目だった。

 よく、己のアホたれ盟友がよくやる……こちらに無茶ぶりをかまし、自分はさらに危険な役回りをするときの目にそっくりだった。

 そして、盟友の純粋で、まっすぐで、格好つけた(格好良い)視線。

 いつも、信念を貫いたような視線が私を突き刺し……目を逸らすことを封じるのだ。


「あんた、バカぁ?みんなに迷惑かけてやることじゃないわよ!」

「……ううむ、そのセリフには非常にツッコミたいが、それはともかく……勝算がある目をしているの、妾の慧眼は誤魔化せぬぞ?」

 非常に既視感のある台詞を無視し、決意を固めた少年の眼を私は真っ直ぐに見た。

 カルネの言い分も正しいが、姫としては勇者には応えなければならないのだ。


「お、俺の能力なんだけどさ。カルネの能力も合わせて足止めに使えない?具体的な方法は思いつかないけど……」

 上ずった声で、ルートは早口で話した。。

 そして、私は彼はその能力を口にした。


「それは───思ったより使えるかものぅ」

「私の能力を勝手に話すのは最悪だけど、それなら何か出来るかも。」


 私たちは思いついた策を一か八かの本番で試す。

 それがどれだけ無謀でも、レイを見捨てるなんてできない……そんなルートの熱意に動かされて。



◆◇◆◇◆




「────今だッ!聖なる乙女よ!!」



 辺りに立ち込める煙幕、それは水蒸気であった。

 ルートの能力は水を沸騰させる能力、本人は温度変化の影響を受けない。

 ルートはその能力を『恩寵(ギフト)』と呼んでいた。

 ただ、水に直接触れていないといけないのと、蒸発させたとして辺りを覆う程の水蒸気はでない。


 ただ、ここにきて子供たちの何人かが、遠足にいく要領で何本かの水筒を持っていた。

 油断からか軍服男も取り上げていなかったようだ。


 そして直接触れるというのも、頭から水をかぶることで、肌に対する水の触れる面積を増やすことでより水蒸気を量産する。

 あとは、ルートがどれほど一度に水蒸気にできるほどの温度変化ができるかどうかの賭けだったが、どうにか勝ったようだ。



「────っ」

 一瞬、軍服男の手が緩んだことにより、レイの身体と脳に酸素が廻る。

 軍服男の腕を掴んで、軍服男の顎を蹴り上げるレイ。

 驚きで体勢を崩し、軍服男をの手が緩み、レイは無理矢理に拘束を抜け出すことに成功した。



「…………ぐ、この程度のことでッ!!」

 軍服男をレイの軽い一撃では、吹き飛ばすことができない。

 すぐさま、レイを追おうとする軍服男だったが。

 しかし、自身の足がピクリとも動かないことを察知する。


「────あれは、」

 噴き出た水蒸気を逃走している時に、レイはあるものを見た。

 それは軍服男の()()()()()()()()である。




「よし、どうにか発動した!」

 カルネの能力は縫合、触れたものもしくはその延長線上にあるものを魔力糸で縫う能力だ。

 その特性故、効果者にダメージはない。


 ノワ子は知る由もないが、偶然ケルベロスが反射できるのは、ダメージの通る攻撃のみである。

 故に、地面を延長線上として、軍服男の靴を足ごと地に縫い付けることに成功した。



「手早く逃げるぞッ!!」


────上手く言ったとノワ子はルートの方を見る。


 そして、満身創痍の様子で、カルネに抱えられながらこちらに親指を立てる彼が目に入る。

 魔力が少ないながら、文字通り血を吐く勢いで水蒸気を出したのだ、むしろ歩けるくらいには無事でよかった。

 一番の功労者にして、彼の雄姿にノワ子は熱いものを感じる

 故に、ノワ子は彼ら…………あの場に残るという決断をした子供たち変わりに、口を開いた。


「────どうだ、これがか弱き者の力だ!!わかったか!?全く小学生は最高だぜ!!」


 ハイテンションに、ちょっと危ないことを口走るノワ子は、拳を上げて勇者を称えた。

 目いっぱい、そのことを叫んだノワ子は、レイへと視線を向けて笑った。


 そして、レイとともに……ついに私は駅空間から脱出したのだった。


〈Tips!〉

・ノワ子の才能について

 彼女自身、本人のキャラ以外目立った特徴はないが、ナギトとオカルト部で活動を通して修羅場を潜り抜けたりしている。

 そのため、ナギト程ではないが、状況に即して策を練ることができる。

 そして、何より弱き者の心に寄り添う慈愛の心を持つ。

 正直、ナギトには勿体ない良い女の子。

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