024「破壊するは我にあり」
本日二話目、星ブックマークよろしくお願いします。
〈二〇二五年 七月二十四日 御加実市 Dekopoモール 深海区域 三階〉
突如現れた五人組の怪しい【空想現界人】たち。
あちらさんは俺たちを少し前から、追跡していたみたいだ。
「────────っ」
身を固くするクアリは彼らをかなり警戒していた。
まあ、俺たちを覗いていた奴らだから当然の反応だ。
俺はというと、何が起きてもいいようにクアリを庇える位置取りで警戒していた。
「そんで、目的はなんだ?アタシたちに、用があんだろ?」
キキョウはどうやら話の矢面に立ってくれるみたいだ。
まあ、俺は空想現界人のことはよく知らないし、適任だろう。
単純に俺に任せられないだけかもしれないが。
「ああ、わざわざ隠密を解いたんだ…………バレちまったが、ともかくお前たちが有能なことは理解できたよ」
そう、狩人風の男は口にする。
心の中でどう思っているかはわからないが、それなりに話が通じそうなやつだ。
クアリさん、めっちゃ睨まない方が良いかも……それで気を悪くされたら面倒だ。
もしかしてクアリの嫌いなタイプなのか?
「……御託はいい、急いでんだよ。単刀直入に要件を言え。でなければ去れ、この野郎」
急いでいるのもあるが、威圧するように言うキキョウ、何なら殺気も籠っていた。
まあ、こちらも見た目的には御しやすそうだもんな。
ただ空想現界人に年齢やら見た目やらは通じなそうなことも、相手はわかっているはずだ。
「────ああ、そうだな。俺たちは、あのボスを攻略したいんだ」
そう、あっけなく狩人風の男は口にした。
「………………アタシたちが攻略したやつか?」
「たぶんそうだな。この人数で攻略するならわからなくもない」
「おめぇは意見すんな。黙ってろ」
ひどい、補足しただけなのに……まあ、キキョウもそれぐらいはわかってるか。
はいはい、黙りますよ。
お口チャック、ついつい口を出したくなるお年頃ですんで。
「どうだ、。情報と引き換えの見返りは出す。俺たちはこの〝イベント〟自体の上位入賞はねらってねぇ。けど、あのボスを倒した時のポイントは見逃せねぇだろ?」
「────────見返りは?」
そうキキョウが言う。
確か、キキョウが言うにはあのボスのポイントは百万ポイントだと言っていた。
あの銀狼の二十倍だ、まあ俺が端末を持っていないからクアリとしか山分けされないので、多く感じるのもあるが。ただ、五人でも一人、十万ポイントだ。ポイントの相場はわからないが、おそらく〝入場券〟の値段も加味すると破格のポイントであろう。
「……五万、三人それぞれにだ。ボスの情報はかなり有用だからな。問題ないか?」
「ふん、まあ命がけで集めたっつっても、こっちも急いでんだ。揉めたくはねぇ、それくらいでマケといてやる」
キキョウも吹っ掛けている時間も惜しいと思ったのか、相手に恩を売るような発言とともに了承する。
今、他者と揉めるのもマズい……おそらく、相手方もそれを俺たちの表情から読み取り、交渉を持ちかけたのではなかろうか。
この男思ったより交渉が上手い。
「わかった、んじゃあ端末を、決済はタッチでいいか?」
「おう、送金は誤魔化せる方法もあるからな。問題ねぇ」
そして、何か気になる発言をしたあと、狩人風の男とキキョウはお互い歩み寄る。
そんな電子マネーみたいな方法で送れるのか?
ん、待て、何故最初から決済を口にしたんだ?
相手の警戒を解くなら、送金の方が安心させやすいのに。
そして、端末を取り出し、ポイントのやりとりを────
「────────待った、すまんが少し聞きたいことがある」
彼らの取引をさえぎるように、俺は声をかける。
「ああ?お前、何、急に…………」
キキョウは突如口を開いた俺に眉をひそめる。
「────まず、俺たちをどこから見ていた?」
「…………この階に来てからだ」
キキョウを無視して話を進める。
目に見えて彼女は不機嫌になるが、あとで謝るので勘弁してくれ。
「なら、なぜ俺たちがボスを攻略したことがわかった?」
「お前らが話しているのを聞いたからだが?なんだ、疑いすぎなんじゃないか?」
そう、確かに筋が通っている。というか、通り過ぎている。
「────────確かに俺たちはボスの話をこの階に来てからしていた。だが、倒したという確かな発言はしてない。ちょっとした雑談をしてただけだ」
「………………ここに上がってきたんなら、倒したと思うだろ」
「そうか?この少人数で、全く強そうじゃない俺たちを見てそう思ったのか?普通は俺たちを見て、サメから逃げてきたって思うだろう。ただ、さっきお前たちは俺たちがボスを倒したといっても、同調していたよな?」
そう、彼らの言動は矛盾している。
ボスの情報をよこせとは言うが、俺たちがボスを倒したことが最初から分かっていたような口ぶりだった。
だから、少しカマをかけて俺たちがボスを倒したということを発言したら、見事引っかかったというわけだ。
「………………何が言いたい」
「そりゃ、お前たちが初めから────」
そう、彼らの狙いは、俺たちだ。
サメを討伐する場面から見ていても、誤魔化す必要はなかった。
それでも、誤魔化したということは何か後ろめたいことが…………
『────────面倒くさいやり取りとかよくね?待ってるのは性に合わんっしょ』
俺の言葉が言い終わる前に、変声機越しに話す声が聞こえる。
そして、クアリの後ろから透明化が解かれた刃物が現れた。
◆◇◆◇◆
────クアリを人質にとる、その判断は正しい。
おそらく、先走ったであろう透明化した強化外骨格のような甲冑を来た武者が、クアリの後ろに見えた。
その手には、カッターのような筋が入った刀があった。
こちらとしては、相手がボロを出すまで粘っても良かったが、焦れてくれて助かった。
証拠は無い、無いが中学の頃、散々相手してきたからわかるんだよ…………悪人の匂いはな。
『おほん、とにかく動くと────』
────この子を切るよ?と言いかけた甲冑男は驚愕する。
目の前に迫る銃弾が、あることに。
自らの背後で黙っていた青年が放ったものだと、着弾前に理解する。
だが、その軌道は頭を掠める弾道で────
「……せぇぇぇいっ!!」
『──なッ!?』
そして、人質に取っているはずのクアリは、ナギトが作り出した一瞬の隙に甲冑男を華麗な一本背負いで投げた。
少女が甲冑男を背負えるほどの膂力を持っているとは思わず、それを許してしまった甲冑男は反転する視界を眺めるしかない。
そのまま、地面へと甲冑男を叩きつけたクアリのもとにナギトが駆け寄った。
「────クアリ!」
「…………はいっ!」
ナギトの声と同時に結界が作り出される。
瞬時に状況をひっくり返した彼らに、狩人風の男は舌を巻いた。
「チッ、ヴァイス!避けろ!!」
『おっと、あぶねぇ。失敗して、初っ端離脱は勘弁』
そう狩人風の男は半透明になった甲冑男に、叫ぶ。
甲冑男は、頭上から放たれた散弾銃を避けるように、地面に体を滑らして、狩人風の男の方向へと撤退する。
「《────形態変 盾役》」
形態の変化を宣言した彼女の手に顕現せしは、軽く薄い……しかし頑丈な盾だ。
その四隅は出っ張っており、大分禍々しい印象を受ける。
散弾銃と、片手で持てる軽盾を持った少女はその切れ長の目で、切りつけるように彼らを睨む。
俺たちからしてみれば、安心感に包まれる背中であった。
「先走りやがって、まあ結果オーライだ。お前たちは厄介そうだが、人数有利はこっちにある」
そう、狩人風の男はニヤリと笑い、仲間に指示を出す。
そうすると、他の仲間たちはキキョウを囲みだした。
『そっちの嬢ちゃんらは、亀みたく籠ってていいのかよ?』
「ああ、問題ねぇぜ、アタシだけでお前らをハチの巣にするなんて余裕だ。」
円の外から見ている甲冑男の煽りをキキョウは余裕の笑みで返す。
ただ、キキョウとてこの人数差は覆しがたいものがあるとナギトは予測する。
一瞬、キキョウの視線が俺を貫き、余計な事をするなよ……視線に釘を刺されてしまう。
「────強がるなよ?ガキの分際で!」
それを隙と見た狩人風の男が、キキョウへと取り出した弓を引き絞り、矢を放つ。
しかし、あえて隙を見せて誘い込み、その矢を盾で受け止めたキキョウは矢の放ち主へと突貫する。
だが、にやりと笑った狩人風の男の目前で、キキョウの盾に刺さった矢が爆発する。
そして、囲んだ仲間の場所へキキョウは吹き飛んでしまう。
盾で受け止めた爆風だが、衝撃までは受け止められなかったようだ。
故に、そのまま、空中にいるキキョウへと忍者の鎖鎌が振り下ろされる。
さらに盾でその攻撃を受け止めたキキョウは、横から盾の隙間に滑り込んできたスパイ男のナイフに対応する。
咄嗟に、自らの懐から出したナイフを左手に応戦するキキョウ。
さらに飛んできたパペットにナイフを投げ、撃ち落とす。
もう一匹も飛んできており、それは盾で受け止める。
パペットが盾にかみつき、地面に縫い付ける。
これまで、ほんの一瞬の凄まじい連携による攻撃の嵐がキキョウを襲っていた。
左右から鎖鎌と、世紀末風男の拳が飛んでくる。
咄嗟に盾を離したキキョウは、地を蹴って宙を舞い挟み込みを回避。
さらに前後から狩人の弓矢と、スパイの投げナイフ三本が迫る。
キキョウは上にショットガンを撃ち、その衝撃で下へと急降下する。
狙いは忍者、キキョウの放つ上からの蹴りを、下ろされた脚へと鎖を絡ませて中断する。
そのまま、力を込めて振り下ろされそうになったキキョウ…………追い打ちの如く放たれた世紀末男とパペットの一撃をよけるために、地面すれすれで、横にショットガンを打ち、その衝撃で回避。
────鎖が、ピンと張られる。
キキョウが飛んだ先には、先ほど手放した盾があった。
それは地面に縫い付けられたまま、しかしキキョウにはちょうどいい。
その盾を起き上がらせ、そのまま利用して、放たれたナイフや矢をガードする。
鎖は忍者との綱引き状態だ。
「鎖鎌ってのは、手放しにくいよなァ!?」
その言葉と同時に、盾を足場にして踏ん張り、固定したキキョウは凄まじい膂力で鎖を振り上げる…………忍者は腕に絡ませた鎖を利用され、天井へと逆バンジーをやらされる。
そのまま、忍者は天井にめり込まされてしまう。
他の遠距離攻撃が彼女に迫るものの、もう片手に持ったショットガンに全てが撃ち落とされる。
咄嗟に行動したスパイと世紀末男が、キキョウを挟む、
しかし、キキョウはスパイの頭を両足でホールドし、天井に縫い付けられた鎖を引き寄せ、跳躍した後空中で頭にショットガンを叩きこむ。そのまま、鎖を離したキキョウは物陰に隠れていたパペットの主である黒子の前に降り立つ。させるか、と言わんばかりに、狩人の矢が撃ち込まれる。
しかし、矢は回避される。
キキョウの回避した先には世紀末男が拳を振りかぶっていた。
「『ギザギザな拳』ォ!」
巨大化し、棘を多数はやした拳がキキョウに迫る。
しかし、世紀末男の股を抜くようにスライディングしたキキョウはショットガンで背を撃つ。
そして、持ち主が体勢を崩したことにより巨大な拳は、黒子を引き潰してしまう。
世紀末男は、背にもう一発の射撃を打ち込まれ、巨大な拳とそれに生えた棘に穴だらけにされる。
────あと少し、そうキキョウが狩人の方向へ向いた瞬間………………
『────俺は、最後に美味しいとこ持ってくタイプなんだなぁ、これが』
狩人が、矢を温存していた理由はただ一つ……あまり強くない奴らを対処させ、相手を油断させるためだ。
背後から透明化した、刃に、キキョウの腹が貫かれた。
吹き出す鮮血、透明な刃に赤い糊がデコレートされる。
すべては、慎重な彼の作戦通り、それ以外の空想現界人は全て囮である。
「ヴァイス、離れろっ!!」
『あいよ!』
そして、その言葉とともに、キキョウの腹から異物が抜かれ、赤いしぶきが飛び散る。
キキョウの周りにはどこからか現れた、無数の矢が囲んでいた。
それらが放たれる寸前────
「────────っ」
────────視界の端に映ったのは、蹴り上げられた盾であった。
そのまま、矢が到達するギリギリに盾が、キキョウの元に届けられる。
キキョウはすんでの所で矢の雨を盾で防ぐことに成功する。
ナギトが、蹴り上げたのであろうそれはギリギリでキキョウの手元に戻った。
『っは、防ぎきれてねえぜ?それに盾ももうボロボロじゃねぇか?』
「────もう一度、掃射を………………」
もう近寄らねーぜ、という意図を込めて甲冑男は口を開いた。
そう、結局は二人が主攻あとは序攻だ
そして、キキョウを限界と見て、二撃目を放とうとする狩人は────
────────自壊する盾を見た。
その光景に戸惑い、何か対応する前に、血濡れ膝をついたキキョウが口を開く。
「────────《破盾》」
キキョウの言葉と同時に、指向性を持った手榴弾の爆撃が、煌めく吹雪のように舞う。
それは盾が自壊するときに使える、これまで盾が受けた衝撃を、爆撃として利用する技だ。
圧倒的な掃射を前に、二人はなすすべなく爆撃にさらされてしまう。
そして、その後……キキョウの前に立っている敵は誰一人としていなかった。
◆◇◆◇◆
────なんだ、以外と弱いじゃあないか……あの連中。
むしろ、なんであの感じでイキって出てきたんだよ、雑魚じゃん。
ともかく、手に汗握る戦いでしたね。
あの《機械猟犬》の形態って幾つあるんだよ。多種多様スギー。
そんなことはともかく、あのキキョウという奴はかなり脅威だな……弱ったところを襲おうと思ってたけど、あのロリきょ、少女の結界が邪魔だ。
んで、あいつらが向かおうとしている場所はよくわからんけど、多分天空区域のゲートだな。
なぜ向かってるかは、会話からもいまいち伝わってこない。
だが、とにかく期を伺ってチャンスがあれば…………その時が、お前らの命日だぜ!
遺言を考えておくんだなッ!
◆◇◆◇◆
「────キキョウ様っ!」
クアリは声を荒げて、彼女へと駆け寄る。
俺の援護も役には立ったようだが、ほとんど何もできなかったので罪悪感の方が強い。
「…………あー、痛ってぇ。それなりに、やれると思ったのに、思ったより弱体化してんじゃねぇかよ」
仰向けで寝かされたキキョウは、そう少し弱々しくぼやく。
先ほどのキキョウは、三面六臂の活躍であった。
正直、間に割って入ることもできないような、鬼神のようだった。
「……申し訳ございません。私の能力で援護できていればっ」
クアリは悔しそうに、拳を握りしめる。
今は、クアリの結界内で、キキョウを回復中である。
本当は《衛生役》で、回復するのが一番いいのだが、キキョウは電力の節約をするために傷の回復はクアリの結界に任せた。
「────大丈夫だ、あそこまでの乱戦なら、アタシの立ち回りに割って入る余地はねぇよ」
朱に染まった衣服で、寝ころんだキキョウはそう補足する。
彼女とて、クアリが戦闘に参加した場合、彼女を守る余裕などなかっただろう。
ただ、レイが居れば割り込む余地はあったとは思うが。
キキョウも、重傷ながら口を開いているのは…………気絶しないように気を保つためとクアリを安心させるためだ。
そこまでの、子供たちを助けるという覚悟をナギトはその様子から読み取っていた。
「ナギトも…………結果的には助かったが、お前が狙われたら危なかったんだ。戦闘に参加するのはできるだけやめろ」
「いや、死にかけだったんだぞ。確かにお前ならどうにかできたかもしれないが……」
キキョウの《機械猟犬》の能力は、一度形態変すると、能力がリセットする。
あそこで《破盾》を狙っていることは分かっていたが、他の形態で攻撃できたということも確かだ。
「ま、他の形態を使えばどうにかなったとは思うが」
「でも、その状態で単独で戦うのは無理だろ?」
そう、素直な感想を述べる。
他の形態でも、《砲撃役》以外に火力を出せる能力はない。
彼女が一人で戦うには限界がある、つくづく自身の無力を実感してしまう。
「…………問題ねぇ、お前は戦闘できねぇんだから、策を出すことに徹しろ」
「────クアリの能力で、援護もできたはずだ」
「お前以外の力を勝手に天秤に入れてんじゃねぇ。それは駄目だろ?」
そう俺を呼ぶ彼女は、極まった目をしていた。
確かに、その通りだ。
しかし、そうでもしないと、キキョウは一人で……
「────私も、キキョウ様から助けを求められればいうとおりにします。助けられる状況なら、私の意思で助けます。これでどうでしょうか?」
クアリが折衷案と言った風に、提案する。
自身よりも一回り小さな子供に、仲裁されてしまった。
「…………俺はそれでもいい。ある程度自由にやらせてもらう。籠の鳥は勘弁だ」
「………………納得できねぇが、ごねても仕方ねぇか」
キキョウは明らかに納得していない顔で、そう言った。
そういえば、キキョウの過去は……いや、今はそんなことを考えてる暇はない。
「ところで、この襲ってきた奴らはどうするんだ?」
キキョウが倒した連中は全員怪我を負っていたが、誰も死んではいなかった。
流石空想現界人、体も強いらしい。
正直、二度と襲ってきてほしくはないが。
「そうだな、やっぱヤるしかないな」
その選択を軍人であるキキョウが取るのも当たり前だ。
捕虜なんてとっている余裕はないし、殺さなかったらこいつらが起きたあとに追ってくるかもしれない。
「キキョウ様、それはちょっと……」
「なんだ、遺恨は残さねぇ方が良いに決まってるだろ?」
渋るクアリに、キキョウが声をかける。
「あえていうなら、生かしとくべきだと思う」
「……なぜだ?」
キキョウは、そう問いかける。
「報復が怖い、こいつらの仲間が他にいて、敵討に来たらどうする?」
「確かに、敵作ってる余裕はねぇな。と言っても、仲間がいたら、の話だが」
ここまで、徒党を組んでそこまで強くない連中なら、仲間がいない可能性もありうるだろう。
「────ふむ、儂もその小僧の言葉に賛成じゃのぉ」
ふと、背後で声がした。
そして振り返ると、そこには老齢の狩人が立っていた。
先ほどの羽片をつけた帽子を被っていた狩人風の男とは違う、どちらかと言えばマタギに近い格好。
キャップにオレンジのベスト、山中で極力目立たぬように意図された服装は田舎の人にはなじみがあるのではないだろうか。
そして、何より手に持つシンプルなデザインの猟銃は、研ぎ澄まされた殺意を内包していた。
「────誰だ、てめぇ……こいつらの仲間かよ?」
突如現れたお爺さんにキキョウは銃口を向けていた。
明らかに、意図されたタイミング……いや、仲間ならキキョウの回復は待たないだろう。
しかし、その圧倒的な殺気と、異様な雰囲気にキキョウが気圧されてしまっている。
「……良い反応じゃな、自尊心が満たされる。老いぼれというだけで侮る者もおるでな?」
まともな答えじゃない……茶化そうとしているわけではないと思うが、意図が見えない。
「ハッ、空想現界人の老いぼれってのは、生き残りの猛者だぜ?少なくともアタシの上司はそうだな」
「ほう、貴様の上司は良い教育をなされておる。で、あればここで矛を突き合わせるのはいささか、無謀ではあると思うがの?」
ただ、相手にこちらを害する意図はない。
あの六人組の仲間であろうが、それでもここは引き下がる方が賢明だ。
しかし、キキョウはただの老人が放っていい殺気ではないと感じ、脅威と見たのか、全く警戒を解く様子はない。
むしろ、警戒を強めていく。
「おいおい、こいつらの上司か何か知らねぇが……教育はキチンとしとけよ」
無理くり吐き出したような啖呵に、老人は毛ほども反応しない。
ただ……一歩だけ、足を進める。
「…………それについては、儂ら〈狩人衆〉の不徳じゃ……無論、こ奴らには相応しき罰を受けてもらう。巻き込まれたお前たちには本当に申し訳なく思っている」
そうして、自然な動作で老人は頭を下げる。
すると、先ほどまでの殺意はまるで感じられなくなってしまう。
あれ?本当にただのいいお爺さんなのでは?
「────おい、いくらなんでも老人を脅してるヤバい奴にしか見えんぞキキョウ」
「そ、そうです。ちょっとあんまりでは?」
「う、うるせぇなオマエら!どう弁明しても、こいつは襲ってきた奴らのボス!なら、ここは退いちゃなんねぇばめんだろ!────てか、名前もバラすな黙ってろッ!」
そうは言うが、頭を下げられ殺意もひっこめられたのなら、話くらいは聞くべきだ。
そういうと顔を紅くして怒りだすキキョウ、まあ彼女の言い分も分からんくもない。
「良き仲間じゃ、キキョウとやらもそう意固地になってはいけんぞ?」
「なんでてめぇに説教されなきゃなんねぇんだよ!?まあ、ちょっと殺気立ちすぎたのはそうだな」
そう、多方面にツッコミを浴びせるキキョウ…………ただ、それでキキョウの溜飲は少し下がったようだ。
「こちらも少し警戒しすぎたようじゃな。さて、本当にすまぬがあの者らを回収させてもらおうかな」
そう、もう一度陳謝し、老人はこちらから視線を外して、六人組の元へと向かう。
まるで、眼中にないように視線を外し、油断した様に見える老人。
しかし、まるで隙が無い。
「────一つだけ聞いていいかよ?」
すると、おもむろにキキョウが口を開く。
「無論良いぞ、こちらに非があるでな。この老骨で良ければなんでも答えよう」
老人はキキョウの質問に視線を六人組に向けたまま、答える。
「────お前、ランキング上位の〈狩人衆〉だよな?」
唐突なキキョウの問いに、老人は少し押し黙ってしまう。
俺としてはよくわからない用語に、頭の上に?を浮かべるしかない。
「流石にこ奴らの身に着けている紋章で分かってしまったか……そうじゃ、儂が所属しとるのは〝ランキング〟八位の〈狩人衆〉じゃよ」
「へぇ、この〝イベント〟は〝ランキング〟上位は参加不可だってのにか?」
キキョウは少しニヒルな笑みで、そう問いかける。
マジか、確かにそうならこの老人がどうして参加できているかは分からない。
〝ランキング〟が何かはわからないが。
「…………まあ、教えて良いかの。こ奴らが迷惑をかけた礼じゃ、この〝イベント〟には色々抜け穴が多い。一度〝クラン〟を抜ければただの一介の空想現界人じゃ、参加は可能……とかのう」
その言葉にキキョウは息を呑んだ。
なるほど、〝クラン〟てのが多分空想現界人が立ち上げた何らかの【ゲーム】内での共同体ってわけか。
んで、〝クラン〟の【ゲーム】内での序列が〝ランキング〟というわけか。
「マジか、どんだけポイント貯めこんでんだよ?上位〝クラン〟を抜けるだけで凄まじいポイントを消費すんだろ」
「ほほ、これに関しては儂には分からんでな?別の者が管理しとるゆえの」
少し笑うと、こちらに向き直った老人はキキョウの目を視線で射抜く。
おそらく海千山千の老獪なお爺さんなのだろう、これ以上情報は引き出せなさそうだ。
「…………ここらでお暇しとくかの。これ以上情報を言うのも少々面倒じゃし。さて、自分の孫くらいの現界人を手にかけるのは少し心が痛むが……次あったときは、容赦はせんぞ?キキョウ」
そういった瞬間、老人と六人組はまるで消失するように透け始める。
甲冑男の透明化のような、けれどその存在ごと消滅したと見紛う能力で、老人はすぐに消えてしまった。
「チッ、〝ランキング〟上位勢に名前を覚えられちまった」
「普通に俺のせいだ、すまんな」
「わ、私もいい人そうでつい油断してしまいました」
そう、慰め合い、気持ちを切り替えて、俺たちはレイへと近づくために歩み出すのだった。
────勝利、しかし重いものが腹に残ったような後味が確かに残っていた。
〈Tips!〉
・ランキングについて
【ゲーム】内における〝クラン〟の格付け。
十位から上のみを表示しており、〝ランキング〟内の〝クラン〟が一番優勝に近いと言われている。
その実力も抜きんでており、恐れられている。
ちなみに〈狩人衆〉はモンスター討伐を得意とする〝クラン〟であり、出てきた五人組は〝クラン〟内でも実力は低めである。




