018「憧憬の貴方へ」
〈二〇二五年 七月二十四日 御加実市 Dekopoモール 深海区域 地下一階〉
「────死んどけ、下衆野郎…………最後に言い残すことはあるか?聞いてやるとは言ってねぇがな」
その言葉を聞いたとき、ナギトはすでに全身の筋肉を振り絞り、回避行動を取っていた。
即座に放たれる弾丸は、ナギトの頭数センチを掠める。
煙る弾痕を横目にナギトは冷や汗をかき、状況を俯瞰する。
『──相手の銃口の位置と、弾の速度がわかる感覚。そして反射神経があれば、銃弾一発避けるくらいは簡単さ』
知り合いの元軍人で、シングルマザーの殺し屋が発した言葉を思い出す。
故に、咄嗟に身を起こしたナギトは、先ほどの銃弾を回避できた。
銃撃を行った彼女とナギトの間には、遮蔽物が多く射線は通らない。
ナギトは一発避けたのち、隠れることができたので戦闘にほんの少しの間隙が生まれる。
おそらく、こちらへ向かっている少女を想定しつつ、ナギトは空腹で回らない頭を回して説得を試みる
「──ッ!ここは戦闘禁止されてんじゃないのか!?」
〈大地区域〉の〈ショップ〉はそうだった。
これで、矛を収めてくれればいいのだが。
「ハッ、辞世の句はそれでいいのかァ!!」
必死の説得虚しく、残念ながら話を聞いてはくれないらしい。
明らかに洗練された動きでナギトの正面に回り込んだ少女は、ナギトをハチの巣にせんと銃を乱射する。
棚を貫通した銃弾が、射線を切る動きをしたナギトの寸前を通過する。
体を動かさないのが一番だが、それだとジリ貧だ。
「(クソ、このショップにある商品のナイフとかで反撃するしかないのか!?)」
咄嗟に、棚にある軽そうなナイフを取ろうとした瞬間、棚を貫通した弾丸が手を掠める。
まずい、狭すぎて身動きが取れない、とナギトはなすすべのないの状況で固まってしまう。
「動かなくていいのか?なぁ!────《機械猟犬》ッ!」
カシャリと音がした方向を見ると、普通犬ぐらいの大きさがある鉄製の機械できた犬が俺の背後に出現する。
そして、機械の犬は背に取り付けられていた銃を、ナギトへと向ける。
そして無慈悲な弾丸が彼の脳天を────
「──────キキョウさまっ!おやめくださいッ!!!」
そして、張り上げた甲高い鈴のような声が、少女の名前を呼んだ。
────声の方に視線を向けると、銃を構えた少女に立ちふさがった、シスター服の少女がいた。
◆◇◆◇◆
────私の名前はクアリ、苗字はない。
実は、私はナギト様に連れられている間も、ずっと意識があったんです。
でも、体を動かすこと……そして、目や口を開けることさえできませんでした。
私の能力で周りの状況は把握できますが、それ以外はただナギト様に背負われるだけ。
私はあの、蔓を振るってくる怪物に捕らわれ、薬を嗅がされて動けなくなっていました。
私があそこに来たのは全く偶然だったのです。
子供たちが攫われて、苛立つキキョウ様のお力にどうにかなりたくて……
まりんえりあ?と呼ばれる場所で、捜索していました。
すると、キキョウ様と離れた一瞬の隙に、私の前に突如として扉が現れたのです。
子供たちをさらったときに現れた扉、そこから出てきたのは一体の木組みの人形でした。
そのまま、現れた別の扉に帰っていった人形の男の事をキキョウ様に報告しようか迷いました。
ですが、すでに一つ目の扉が消えていたのを見て、決意しました。
私が一人で、あの軍服の男の本拠を突き止める、と。
しかし、その扉に入ったはいいものの、中にはもう一枚の扉しかありませんでした。
その扉からでると、草の生えた広場があるだけ。
帰ろうにもすぐに扉は消えてしまいました。
当時の私は怪物の存在すら分からずに、動けなくなり永遠にこのままかと恐怖しました。
────しかし、そこにナギト様が現れたのです。
私はすぐに気が付きました、何者かが私を餌にして別の餌を釣っているのだと。
すぐに逃げてと叫ぼうとしましたが、できませんでした。
ですが、ナギト様はすでに気づいていた様子で、しかも私を怪物の根城から救ってくださいました。
そして、蔓の怪物も鎖使いの御付きの人?が倒したのです。
ナギト様はまるで御伽噺の英雄のようで……
キキョウ様は私は騙されやすいから、すぐに誰でも信用するのをやめろとよく言いました。
しかし、私にはナギト様は信用できる……と会ってすぐに確信しました!
そして、道中は御付きの人が途中まで、護衛してくださいました。
その後、奇抜な格好の女の人が、ナギト様と仲睦まじくお話をされていました。
その光景を見ているとなんだか、胸がざわざわするような……いえ、どうでもいいことですね。
そして、偶然にもナギトさまも私と同じ境遇だというのです。
まるで運命です……もしナギト様に協力をしてもらえば、あの子たちも……!
ああ、いえ、でもこれはなんと卑しい考えなのでしょう……話したこともないお方に縋るなどと。
でも、ナギト様ならば……と考えてしまうのです。
そして、ナギト様の向かう先はキキョウ様のいた、まりんえりあでした。
まさに天啓です!
あのキキョウ様とナギト様が協力すれば、きっと誘拐犯を……
しかし、そう上手くことは運びませんでした。
あの女性に送り出してもらったはいいものの、ナギト様は直ぐに巨大な魚たちに囲まれてしまいました。
特にあの深海魚の姿を見た瞬間、恐怖で叫びたくなりました……
しかし、幸いに私は身動きどころか、意識がないと思われても仕方ない状況でした。
そんな状況がもどかしくて、どうにか彼の力になりたくて。
しかし、ナギト様は巨大な魚たちにどんどん追い詰められていきます。
私の力があれば少しは……そう思えど、瞼の一つ動かせない自分が悔しい。
絶対絶命と思われた時に偶然、あの時の深海魚が通りがかったのです。
その時、私はナギト様があまりにも動じていないことに気が付きました。
まさか、この状況すらナギト様が作り上げたものなのですか?
そう気づいた瞬間、私は目覚めた時に、ナギト様に何を差し出しても協力をお願いしたいと思いました。
物語の登場人物のような英雄が目の前にいる……私以上に非力でそれでも知恵だけで強者に立ち向かう姿に私は心臓が高鳴りました。
そして、深海魚から逃げおおせた後、事件が起こります。
ナギト様とキキョウ様が偶然会ったんです……最初は喜びました。
けれど、キキョウ様はナギト様を私を攫った犯人だと勘違いし、銃でナギト様を攻撃したのです。
その光景を見て、私は血の気が引きました。
私の見つけた英雄が、ほんの少しのすれ違いで死んでしまう。
そして、キキョウ様も無実の人を殺してしまう。
自らが気絶しているせいで……と思うとすべてが真っ白になる感覚が全身を襲いました。
どうしようもない自分自身に怒りが湧き、この運命が引き起こした不和は明らかに私の責です。
虚脱感は私の胸に溢れ、どうしようもない状況をただ眺めるしか……
そう思ったとき、ナギト様の活躍が脳裏に浮かびました。
無力を無力とせず、理不尽に挑むあの姿に。
私の体が熱くなる気がしました。
そして、この状況で私に出来ることを精一杯絞り出す。
今度は私がナギト様を助ける番だと心が燃えます。
私の能力はただ、周囲に結界を張ること、結界の中にいる存在を少し癒すこと。
張った結界内の物体の位置を把握できるのはあくまでおまけの能力。
結界内の治癒の対象に私は含まれます。
ですが、治癒能力自体が封じられてしまった今、私自身の回復はできないです。
今、私の脳が薬の影響で麻痺してしまっています。
だが、意識を司る部位は生きており、体を動かす部分が麻痺してしまっている。
私の能力の大半の出力は、体外に向けられています。
しかし、私は私自身の能力で自分を直したことはない────もしかすると、体内で結界を発生させられる?
そう、私は能力をこれまでの全ての状況で、体外、つまり他者を癒すことに使っています。
自分を癒すことも、結界内に自身がいるからできるとぼんやり思っていました。
そして、体外の治癒ができないからといって、体内の治癒ができないとは限らないのでは?
────むしろ敢えて、結界を狭めたことで治癒の出力をあげられるのでは?
そして、私は発動できなくなったと勘違いしていた能力を体内に発動していました。
麻痺の抜けきらない鈍い頭とふらつく体で、私は息を切らしながらキキョウ様の元へと向かいます。
そして、私はどうにか口を開きました。
「────────キキョウさまっ!?おやめくださいッ!!!」
英雄の存在を胸に抱きながら。
◆◇◆◇◆
「…………なるほどな、状況は大体理解したぜ。お前が俺たちと似たような境遇ってこともよ」
あれから、シスター少女……自己紹介によるとクアリという名前らしい少女の弁明により、俺たちは曲がりなりにも和解した。
拳銃を持った少女、彼女にも色々聞きたいことはあるが、やはり言動と会わない幼い見た目である。
白を基調とした、SFみたいな改造された学生服に近い軍服。そして、センター分けの茶髪。切れ長の目と特徴的な八重歯はその苛烈な性格を表しているようだ。
キキョウ、といったか……あの時の剣幕は子供に出せていいものではないだろう。
つまり、あの軍服男に年齢を操作されていることにも、信ぴょう性はある。
「一応、えと…………」
「クアリです、ナギト様っ」
「あー、クアリの保護者的な立場で良いんだよな?」
クアリに補足され、戸惑いつつも、キキョウに問いかけた。
なぜ様付けなのか、キキョウも様付けなので、皆に様をつけているのか。
何だろう、陽の気どころか聖の気を感じる。
「ああ、そうだぜ。っても、ボスは別にいるが」
「ボス?」
「おっと、確かにクアリを助けてもらって、感謝してはいる。だがお前を信用するってことは、別問題だ」
そう、キキョウはこちらに警戒している発言をする。
不敵にわらっているのも、おそらく舐められないためだろう。
まあ、見た目が子供なので、あんまり気迫とかはないが。
…………その手に持ってるチャカはしまってもろて。
「もう、キキョウ様!ナギト様はとても凄くていい人なんですよ?」
「チッ、それが危ういっつってんだろ?お前が意識を失っていたと勘違いされたと仮定して、お前を連れて行ったことに下心が無かったってのも証明はできないだろ。むしろ、お前を攫おうとしていたとしてもおかしくはねぇな」
俺が、戯言を言っている間に、キキョウは舌打ちをしつつ、クアリに反論する。
なんか本人の目の前で話していいやつなのかそれ。
まあ、下心が無いと言えば噓になる、レイの救出を手助けできるかもしれないと思っていたことも確かだ。
「な、ナギト様はそんなお人ではありません!…………わ、私の体が目当てなんて」
「どーだか、お前に下卑た視線を向ける奴なんていくらでもいるからな。お前はチョロそうすぎんだよ」
「いや、そういう話?本人の目の前で言う?一応、クアリとはほぼ初対面みたいなものなんだが」
まあ、確かにロリ巨……の需要は計り知れないかもしれない。
ただ、割とマジでそんなこと考えてる余裕なんてなかったんだぞ。
「おい、お前……まさかクアリの事を変な目で見てねぇか?」
「見てない見てない、俺はどノーマルだ」
まあ、このあからさまな感じは明らかに牽制を含んでいるのだろう。
先ほどの事と言い、敢えて表立って『疑っています!』と露わにし、牽制しているのだろう。
そりゃあ、騙されやすそうなシスター(普通に失礼)が連れてきた変な奴なんて、普通警戒して然りだ。
「む、むぅ。それはそれで乙女としては…………」
何か、ごにょごにょ言っている聖職者がいるが、まあ聞いてない体でいよう。
「そうだな。功績を見せびらかすつもりはないが、クアリさんをここまで連れてくる段階で、何度も死にかけた。そんな状況で、いろいろ考えてる暇ねぇからな。これじゃダメか?」
「さぁな……お前のこれからする態度次第だろ」
そう肩をすくめて言うキキョウ……その様子を見て何となく察するに、新参がデカい顔すんじゃねぇと言いたいのだと。
妥当な判断だ…………確かにこちらが正しいとはいえ、あくまで恩を押し付けられるのは嫌らしい。
そんなスタンスをキキョウは取りたいのだろう。
確かに同じ境遇だし、クアリとしては恩人かもしれない。
しかし、それで主導権を自身の仲間でもない初対面の人間に取られるのは、避けて正解だろう。
「わかった。普通そうだろうし、俺もあの軍服男を追って仲間を取り戻せればいい。その点でのみ利害が一致してればいいだろ?」
「あのな、一つ言っとくと。お前を連れていくなんて一言も言ってねぇぞ?ヒョロガリなんざ、足手まといになるだけだ」
「────キキョウ様……」
そう、クアリが少し悲しげな表情で、俺の方を見て何か言いたげな様子。
まあ、確かにちょっと気が立ってるのかもな。
「少し落ち着け。キキョウさん」
「ああ?至って冷静だ。お前の手には乗らねぇ……口が上手い奴は、大体何でもあやふやなこと言って丸めこもうとするからな。お前の手を借りるほど困ってねぇ」
そう、少しずつ、論点がズレていく。
熱くなっていく、彼女の口調は明らかに冷静ではない。
今にも、こちらに銃口を向けそうな勢いだ。
「────嘘だな、お前は明らかに困っている。んで、助けを必要としているのは俺でもわかる、明らかに冷静じゃないし。荒事厳禁のGMの店で、攻撃してきたのも明らかに周りが見えてない。子供たちを攫われたことは同情するが……」
「お前に何がわかんだ、あ?他人の事情を混ぜっ返して楽しいか!?」
そう、青筋立ちそうな勢いで、キキョウは殺気と怒気を露わにする。
正直涙目になりそうだが、それでもレイのためにキキョウを説得しなければならない。
「全く。というか、俺も仲間を攫われて茫然自失だったんだよ」
「────っ」
キキョウが一瞬言葉に詰まる。
彼女の様子は、まるでさっきの自分を見ているようであった。
「ただ、クアリを助けたことで、まあ、その……余計なことは考えずに進もうって気持ちになってな。ある意味、クアリのおかげだ」
「まあ、ナギト様ったら……」
なぜかクアリが頬に手を当て、顔を赤らめる。
別に褒めてはないが、雰囲気的に無視して、キキョウへとまっすぐ目を見て言う。
「お前が……いやキキョウが確かに慎重になるべき場面なのはわかる。だが、少し考えすぎてないか?そのせいで、クアリすら萎縮してるだろ。子供たちもそうだとは思うが、クアリも含めて守る対象じゃないのか?」
「……その言い方は卑怯だろ」
彼女からも反撃が返ってくる。
だが、弱弱しいものだった。
キキョウも心の奥底ではマズいとわかっていても、心配と焦りで自身のやるべきことを見失っていたのだろう。
「そうですよ!私から目を離してはぐれちゃったのも、普段のキキョウ様なら絶対しませんし!」
「……うぐっ、それは、なァ……」
「背後からの一撃どうも……いや、クアリがそれ言っちゃう?」
まあ、正直その件に関してはキキョウも不注意だったし、クアリも独断専行が過ぎた。
この件に関しては双方悪いだろう。
まあ、部外者が言うのもアレなので、触れないでおこう。
「ああ、それと普通に、俺は軍服男の位置というか、攫われた人質の位置がわかるから連れていったほうがいいぞ」
「それを先に言えよ!?」
キキョウからのツッコミが飛んでくる。
話の都合上後回しになっていた、仕方がない。
それに、だ。
「お前が明らかに暴走してるからな。むしろ、そんな奴についていくなんざこっちが御免だわ」
「…………なんつーか、お前がここまで来れた理由がわかった気がする」
「流石ナギト様です!」
なんだそのなろう系主人公をほめるときのテンプレみたいなやつ。
最終的に、あの人だけで良くないですか?ってなる無双系主人公にありがちのやつだ。
ともかく、俺は一人じゃ何もできないので無双は夢のまた夢だ。
「すまんが、協力してもらえると助かる。俺も余裕無いんでな」
「ハッ、初対面の相手を論破する余裕はあんのにか?」
「もう、キキョウ様……それは揚げ足取りですよ?」
そう、これまでの強張っていた何かが緩んだキキョウと、それにクアリも安心したようだ。
どうにか、落ち着いてくれたらしい。
「────キキョウ=ヒイラギ、キキョウでいい」
おもむろにキキョウが口を開き、名乗る。
その様子はあまりに突然で……少し困惑してしまう。
「んと?」
「っち、少しは空気読めよ……さっきの異様な洞察力はどうした」
ああ、そういうことか……やはりと言うべきか、俺も余裕をなくしていたらしい。
名乗ることすら勘定に入れず、先を急ぐことで頭がいっぱいだった。
「俺はナギト、間下部凪斗だ。よろしく……キキョウ、クアリ!」
「よろしく、とは言わねぇぞ?あくまで、お前とは今回限りの協力関係だ」
「キキョウ様ったら、天邪鬼ですね……はい、ナギト様っ!今後ともよろしくお願いします!」
そして、俺たちの共同戦線が決まった。
どうやら、やはり思ったよりも俺は仲間だけは恵まれているらしい。
「────あ、突然で悪いけど、腹が減って立てないんだ、何か食料を恵んでもらえない?」
格好つけといてなんだが、すでに空腹が限界に来ていた。
その言葉を聞いた少女二人は目を丸くし、ほんの少し微笑みあったのだった。
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・食料品の購入について
【ゲーム】及び〝イベント〟内において、食料品はポイントを使って、【空想現界人】が持っている端末から購入できる。
その品揃えはかなり多く、カルボナーラやラーメン、牛丼や某ハンバーガーチェーンのものまで熱いままで提供される。
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ちなみに、食料品は注文した瞬間、目の前に生成される




