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「きゃぁああ!」
悲鳴と共に飛び起きた。
全身が汗でぐっしょりと湿っている。
私の、く、くび、首が!
思わず首を押さえればそこには当然自分の首が、無傷であった。
包帯も巻かれてないし、痛みもない。
まって、どういうこと?
上がる息を整えながらあたりを見回してみるとなんだか見覚えのある場所のような気がした。
しかも寝かされているベッドも、牢屋にあった薄い綿布団じゃなくてふかふかなクッションと羽毛のベッドだった。
…一体どういうことなの?
私はたしかに死んだはずなのに。
わけが分からなくて、恐る恐るベッドを出る。
今は夜中のようで、部屋の中が真っ暗でここがどこなのかわからない。
辛うじて明るい窓際まで行くと、ぼんやりとした月明かりに照らされて、自分が着ている服が見えた。
上質なシルクのネグリジェを着ている。
この部屋の広さといいベッドやネグリジェといい、囚人に与えられる物じゃない。
どういうことなの。
私は無罪になったということ??
訳が分からずウロウロと部屋を彷徨っていると、部屋の扉がノックされた。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
この声!
「アン? アンなの?!」
優しくかけられた声には覚えがあった。
実家の公爵家で私専属だったメイドだ。
まるで姉の様に唯一なんでも話せた優しいメイドだった。
私が皇妃として王宮に上がる際にお嫁に出したはずなのに…
一瞬疑問に思ったけど、また声が聞けたことが嬉しくて思わず駆け出した。
扉を勢いよく開ければ、記憶よりもだいぶ若いアンの顔が見えた。
「アン!会いたかった!」
抱き付けば、当然のように優しく受け止めてくれる。
「お嬢様ったら。一体どうしたんですか?」
呆れたような声も、やっぱり優しい。
冷たい視線しか向けられなかった後宮生活を思い出して泣きたくなった。
「アン、どうしてここにいるの?戻ってきたの?
それに、ここはどこなの?」
涙ぐみながら尋ねると、アンは不思議そうに顔を傾けた。
「お嬢様、本当にどうしたんですか?
わたしはお嬢様専属のメイドなんですから、ここにいるのは当然ですよ!それにここは公爵家のお嬢様のお部屋じゃないですか!」
アンにケラケラと笑いながら言われた言葉に、固まった。
公爵家?
私の部屋??
それって
「アン…
私、いま何歳だっけ?」
記憶よりも若いアンの姿に、懐かしい公爵家の部屋。
傷一つない自分の手や体を見て、もしかしてと思った。
「嫌だ、お嬢様ったら。今年15歳になるお年じゃないですか!」