はじまりの日
ーーー雨の降る、寒い日だった。
乱れた長い髪が雨を吸ってズルズルと体に纏わりつく。
灰色の囚人服は薄く、気温の低さにガタガタと奥歯が鳴り体が震えたけど寒さは感じなかった。
もう長いこと何も食べていないけど、空腹もどう言う訳か感じなかった。
処刑台まで引き摺られていく自分をどこか他人事のように感じながら、ぼんやりと眺めていた。
「ーーアリアドネ・ゼタ公爵令嬢。
何か言い残すことはあるか。」
清潔に磨かれた革靴が目に入り、ゆっくりと顔を上げれば、この国の若き皇帝が目に入った。
夜空を閉じ込めたような深い藍色の髪に、サファイアのような瞳。
蔑むような表情を浮かべていても、やっぱり美しい人だった。
そして彼の隣に当然のように、あの少女が立っている。
輝くピンクブロンドに、愛らしいエメラルドの瞳。
いつも優しげな笑顔を浮かべている彼女は、悲しそうに瞳を潤ませていた。
もう何度も見た、見慣れた光景だった。
わたしに向けられるのはいつも、蔑みか憐れみの視線ばかりだった。
「なにも。」
掠れて老婆のような声が出た。自分の声じゃないみたいで、今見えていることが全て他人事のように感じられる。
「ーーーそうか。」
興味のなさそうな皇帝の一言が返ってきて、それからわたしは処刑台の上に放り投げられる。
自分の首が刎ねられる瞬間がひどくゆっくりに感じられた。
ーーどうしてこんなことになってしまったのだろう。
ただ、私も愛されたかっただけなのに。
今まで皇妃となるべく育てられて、物心ついた時から一度も泣いたことはなかったけど、何故だか視界がぼやけて、やがて真っ暗になった。
そうして、私は死んだ。




