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「彼女を侮辱するな!」

 

 声を荒げる僕に、彼女は小さな悲鳴を上げました。

 リーゼ男爵令嬢をひっぱたかなかった僕を、褒めてください。


 僕は背に庇っていたミーヤを振り返ります。

 

「……小さなころは、そう呼ばれていましたね……」


 泣いてしまうんじゃないかと思ったミーヤは、のんびりとした口調でそんなことを言います。

 良かった、傷ついてはいないみたい。

 でも、灰かぶり姫の呼び名は、決して良い意味じゃありません。


 僕達の婚約が決まるころ、彼女はひっそりと灰かぶり姫と呼ばれて侮られていたんです。

 僕は気づかなかったけれど、灰色の髪は灰をかぶったみたいだから、って。


 彼女と初めて出会ったパーティーでも彼女は一人でいましたし、金髪碧眼が多いダーネスト公爵家でも、一人にされている事が多かったみたいで。

 この事は、当時、僕がディノールに頼み込んで調べ上げたんです。

 なんで、ヤンデレ悪役令嬢になっちゃうのかなって思って。

 ネットがあれば自分で調べれたんですけれど、無いって不便です。

 でも優秀なディノールと、ロベルト兄様のおかげで、ゲームで僕を刺すときに『貴方だけなの……』って言っていた意味も分かりました。


 ずっとずっと一人ぼっちで、ゲームの中のミーヤには、婚約者だけが心のよりどころだったんですよね。

 だから僕は、ミーヤの住む場所を公爵家から王宮に移してもらいました。

 一人にさせたくなかったので。

 もう7年も一緒に住んでます。

 あ、もちろん部屋は一緒じゃないですよ?

 

「ううっ、なんでなの? なんでまた、幸せになれないの?! 何度も何度も手術されて、それでも治んなくて! 

 ずっと苦しくて……気が付いたら健康な身体になれてたのに、ヒロインなのに、なんでなのっ」


 ぎゅっと教科書を抱きしめて、リーゼ男爵令嬢は泣き出してしまいました。

 困りました。

 僕、女の子の泣き顔は苦手なんです。

 誰が泣いてても苦手ですけれど、女の子は、お姉ちゃんを思い出します。

 今のじゃなくて、前世の。

 僕が手術しても治らなくて、麻酔がきれたら痛くて苦しくて泣いちゃって。

 そんな僕の手を握りしめて、お姉ちゃんもすっごく泣いてたんですよ。

 

 それに……。


 僕はリーゼ男爵令嬢を見ます。

 彼女、やっぱり、僕と同じ転生者ですよね?

 そして多分、僕と同じで、いっぱい手術しても治らずにそのまま……。

 言動からしても、前世は僕よりも幼くして亡くなっているような気がします。 

 

 ……だ、駄目です。

 同情は禁物です。


 どんなに可哀想でも、僕の最愛の人はミーヤです。

 ミーヤが悲しむようなことはできません。


 さらにリーゼ男爵令嬢を突き放そうと口を開きかけた僕を、ミーヤが止めました。


「リーゼさん。王子とでないと……幸せになれないのですか……?」

「えっ」


 リーゼ男爵令嬢が、涙でぐしゃぐしゃの顔を教科書から上げました。

 そんな彼女にミーヤは近づき、ハンカチで涙をぬぐってあげながら、やさしく微笑みかけます。


「わたくしは……王子でなくとも。ルペス王子が王子様でなくとも……一緒にいられれば、幸せなんです……」


 うわーーーーーーーーーーーーーーーー?!

 ミーヤ、なんてこと言うの。

 僕、いま絶対顔真っ赤ですよ。

 貴族らしいポーカーフェイスとか。

 全部まとめてどこかへぶっ飛んだよ?

 いきなりなんて爆弾落とすの。


 そして僕と同じぐらい、リーゼ男爵令嬢も真っ赤です。

 口をあうあうっとさせています。

 咄嗟に言葉が出てこないのかもしれません。

 僕だって出てきません。

 嬉しすぎて無理です。

 

「シンデーレラ、という物語をご存じでしょうか……」

「シンデーレラ? あ、あぁ、もちろん、知っているわよ。シンデレラとそっくりな物語。女の子だったら、絶対憧れるわ」

「そうですね……とても人気ですよね……でも。もしも本当にそんなことが起こったら……シンデーレラは……とても不幸になるのです……」

「えぇ、なんでよ?」

「まず……王家に嫁ぐには……それなりの知識と教養が求められます……それを彼女の場合は……結婚後に学ぶことになります……。

 徹夜してもしたりない量の勉強が待っています……」

「うぐっ!」


 リーゼ男爵令嬢、息止まりそうだね?

 学業の成績、かなり悪いよね。

 どうしてうちの学園に入学できたのか不思議になるレベル。

 運動神経は貴族令嬢とは思えないぐらいに良いから、そちら側で受かれたのかな。


「で、でも、それは王家なら、家臣のみんながやってくれるわ!」

「そうですね……でも……外国語が出来ないと……王子と共に諸外国をめぐることは到底不可能になります……。

 女性は……女性同士のオハナシアイがありますから……」


 なんだろう。

 お話し合いの部分が妙に不穏な気配がしたけれど、気のせいだよね?


 でもリーゼ男爵令嬢、思い当たる節があるのか、みるみる青ざめてる。

 そうだよね。

 彼女、確かパーティーで粗相しまくって、大抵のご令嬢から避けられてたからね。

 礼儀作法もなってなくて、会話も家臣経由でとなると、正直、下に見られちゃうと思う。

 あからさまじゃなくとも、周囲の目線が冷たいんじゃないかな。

 留守番させられて、冷たくされて、孤独にされてたら、それこそ病んでしまいそう。


「わたしは、幸せになりたいんですっ」

「それなら……どうしたら、自分が幸せになれるのか。そこから……ゆっくり考えましょう……? でも答えは……すぐそばにある気がします。

 ほら……貴方を心配して……見に来てくれた人がいるようですよ……?」

「えっ」


 微笑みながら背後を促すミーヤに、リーゼ男爵令嬢はつられたように振り向く。

 そこには、彼女と同級生らしい男の子の姿が。

 

 あの赤い髪の色は、学園で何度か見かけたことがあります。

 僕は特別室からほぼほぼ出ないから、めったに出会わないんだけど。

 確か子爵家の子で、三男だったかな。

 僕とは挨拶程度で、交流はほぼないけれど、平民にも分け隔てなかった子だから、ちょっと記憶に残ってる。


 彼は常識人らしく、王子と公爵令嬢がいる図書館には入り辛いようで、僕と目が合うとドアの外で困ったようにお辞儀した。


「リーゼ男爵令嬢は大変お疲れのようだから、きみ、送って行ってあげてもらえるかな?」

「はははっ、はいっ。大変恐縮ですっ」


 おろおろしつつ、でもリーゼ男爵令嬢を庇うように僕の前に立った彼は、彼女を送るという大義名分を得てうれしそう。

 リーゼ男爵令嬢は、言動がぶっ飛んでいたけれど、顔立ちだけで言うなら可愛いと思うんです。

 僕のミーヤのほうが無限大に可愛いですけれど、世間一般的にはリーゼ男爵令嬢だって美少女です。

 そんな子を泣きながら一人で帰したら、寝覚めの悪いことが起きちゃいそうですからね。

 僕が送ることはありえないけれど、彼女を迎えに来てくれた彼になら、任せちゃってもいいんじゃないかな。


 二人が立ち去るのを見送って、僕はミーヤに向き直ります。


「僕は、ミーヤだけが大好きです。ミーヤが公爵令嬢でなくても」

「知ってます……毎日……いわれていますから……」


 僕の告白に、ミーヤはそれでも真っ赤になってうつむきます。

 えぇ、愛の言葉は毎日言ってますよ?

 その甲斐あって、ミーヤはヤンデレのデレだけになったと思います。

 病んで無いです。

 デレデレです。


 もう絶対、彼女がヤンデレ悪役令嬢になることは無いって、断言できます。

 でも。


 僕が刺される運命の誕生日。

 刺されるはずの胸に幾重にも防御魔法をかけて、絶対にナイフが刺さらないようにしておいたことは、一生の秘密です。

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 ルペストリス王子の兄弟姉妹はものすごくいっぱいいるので、彼女彼らのお話も、また機会があったら書いてみたいと思います。

 その時は、またどうぞお付き合いいただけましたら幸いです。

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