始まり
この町には大きな鐘がある
とても、とても大きな鐘だ
この町の空にある鐘は日差しをも遮る
年に一回鳴る鐘は、良いことばかりじゃない
日差しが遮られてるせいで洗濯物はなかなか乾かないし
植物も育ちにくい
この町で育ったやつで、お日様を見たことがないやつなんてざらにいる
かくいう俺もお日様ってやつをみたことがない
見てみたくもあるが、日の光が無い暮らしにも適応していく
レンガで作られた家が並ぶこの町は住んでて悪い町じゃない
一日中街灯が付いていて何時でも夜だ、朝から酒を飲んでいてもそれほどおかしくもないしな
それに年に一度、鐘が鳴るときは観光客もいっぱい来るしな
この町は治安が良いとは言えないがとても楽しく、愉快な町だ
おっと、自己紹介が遅れたか
俺はこの日陰の町で探偵をしている
名前は九十九一二三
えっ?探偵なんてまたありきたりな…だって?
確かにな、だがそのありきたりなのが良いんじゃないか
第二のシャーロックホームズになるために頑張っているが
俺に来る仕事は観光案内ばかりだ、俺よりこの町を知ってるやつが居るのかってぐらいだ
だがこの町にも闇はある
観光客目当てのひったくりは多いし
なにより最近おかしな事件が多い
町の有毒な薬品が一気に盗まれたり行方不明な奴がやたらと多い
おかげで町の奴らはビビってるし、観光客も三割も減った
観光案内の仕事が減って嬉しいのか悲しいのか分からないぜ
そしてこの物語、最後にデカイ山が待っていた
今回はそんな物語の第一話、導入編ってやつだ
物語はある一つの事件から始まる
じゃあ楽しんでくれ
カラーンコローン
ドアの鈴が鳴る音で俺は来客を知った
俺は半分寝ていたがその寝ぼけまぶたを擦ってドアへ目をやった
女「あら、寝ていましたか?」
色黒の女だ、黒人かと思ったが、焼けているだけらしい
一二三「あぁすいません、大丈夫です」
女「それは良かった、急ぎの用事で…」
一二三「悪いけど配達なんかはしてないですよ」
女「いいえ、そんなことではないわ」
一二三「というと、なんでしょうか」
女「あの、猫が逃げてしまって」
一二三「ね、猫?」
女「ええ、明日から夫婦旅行なのに今日に限って、逃げてしまったのです」
まったく、そんな事だと思ったぜ
女「あぁ失礼、自己紹介が遅れてしまいました」
女「私は藤一子と申します」
一二三「ありがとうございます、私は九十九一二三と言います」
一子「フフ、あら、変わったお名前ね」
一子が笑う
一二三「たぶん親がふざけ半分で付けたんでしょう」
一子は更に笑う
俺の名前を聞いたやつは一度は笑うんだよな
一二三「話を本筋に戻しましょう」
一子「えぇ、お願いします」
一二三「猫が居なくなったのですね」
一子「はい」
一二三「種類は何ですか」
一子「スフィンクスです」
スフィンクスか、毛が無い種類だよな、見つけやすそうだ
これは今回は楽な仕事みたいだ
一二三「首輪などは着けてますか?」
一子「リードに繋いでいたのですが外れてしまい今はたぶん何も着けてないかと…」
一二三「分かりました、あまりいない種類なので発見は容易でしょう」
一二三「では、もうしばらくお待ちください、今が10時なので6時頃には見つけて参ります」
一子「ありがとうございます、是非お願いします」
一子は安堵の表情を見せ、事務所を出ていった
一二三「さて」
あの藤一子という女、嘘をついているな、まずあいつは離婚しているか、結婚自体していない
左手の薬指結婚指輪を付けているどころか、しっかりと焼けていた、長い間指輪をはめていない証だ
それにスフィンクスという猫、わざわざ俺に頼まなくとも珍しいもんだすぐに見つかるはずだ
俺に頼む理由はよほど心配性か
何らかの理由があって、俺に事務所を開けてほしいか
これは長年の勘だが、たぶん後者だ
居もしない猫を探させ俺に事務所を開けさせる
俺は観光案内でまぁまぁ儲けてる、その隙に事務所を荒らそうって考えだろう
だが、相手もバカだ探偵である俺を騙そうだなんてな
まぁとりあえず事務所を離れた振りをして見張らせて貰おう
だが理由が前者だった場合、それは考えたくないな
13時
真っ黒でスモークガラスが貼ってあるいかにも怪しい車が事務所の前に着いた
一二三「やはり来たか」
すべては俺の思惑通りに動いている、そう思った俺は思わず笑みがこぼれた
だがそいつらと車を降りたものを見て、俺は青ざめた
黒いごみ袋で巻かれた人、一人分のなにか…
あれは…死体だ!
この町は狂い始めた俺の気づかない所で、ゆっくりと
第一話 終了




