訓練①
恐怖の人体実験の翌日。
早速魔法の基礎練習をするとのことで、今はラボの外にいます。
「それじゃ、始めるぞ」
「よろしくお願いします………」
姉にいつもの元気がありません。
………まあ、無理もないでしょう。大人二人にあんな痴態を晒してしまったのですから。
当然、私もそれを引きずっています。
そんな私達の様子に気付いていないのか、それとも気を遣っていつも通りに接してくれているのか、淡々とミヒロさんが説明を続けます。
「───と、いうわけだが、まあ、説明より実際にやってみた方が早いだろ。見てろよ。」
そう言うなり、すっと右腕を上げ掌を上に向けるミヒロさん。
すると、掌に粒子が集まり、ソフトボールくらいの光の球体が出来上がりました。
「綺麗……」
太陽に勝るとも劣らないその輝きに思わず溜息が漏れます。
そんな私達の様子を意に介さず、ミヒロさんは掌を私達から向かって左側のガラクタの山に向けて───
───発射しました。
ヒュッと風を切る音がして、次の瞬間には光球はガラクタの山に炸裂し、轟音と共に山は崩れ去ってしまいました。
濃い土埃が私達を包み込みます。
「ゴホッゴホッ……、凄い威力……」
私達もいずれはこんなことができるようになれるのでしょうか。
「と、まあ、基本の攻撃魔法はこんな感じだ。魔素の操作は感覚的なもので、それは各々で掴んでもらうしかない。とりあえず見様見真似でやってみろ。」
「見様見真似って………」
「一つアドバイスするなら、頭の中で自分が攻撃魔法を撃つ様子を強くイメージすることだ。魔法は脳内イメージの具現化だ。より具体的なイメージであるほど上手く魔素を操作できるはずだ」
「な、なるほど、イメージ、イメージ……………」
アドバイスを聞いて姉が目を閉じ、先程のミヒロさんと同じ構えをとります。
すると、同じように粒子が掌に集まっていき………、
「何これ、ちっちゃ!!」
ビー玉くらいの光の玉が出来上がりました。
「マジか……」
その様子を見て、ミヒロさんがポツリと呟くのを私は聞き逃しませんでした。
しかし、本人はその呟きが聞こえてないのか、それとも、光球の出来に満足いかなかったのか、
「うーん……。これ以上大きくならない………」
再び目を閉じたり、腕に力を込めたりしますが、光球に変化はありません。
「まあ、せっかく出来たんだ。撃ってみろ」
ミヒロさんに促され、気を取り直して発射態勢に移ります。
「よーし、それっ!」
発射された光球は、ヘロヘロと低空飛行し、姉の足元から一メートル程先の地面に墜落して弾けて消えてしまいました。
その後、一瞬の静寂が訪れ…………
「………フッ」
「あー!!ミヒロさん笑った!!人の失敗を笑うなんてサイテー!!」
こちらから顔を背けているミヒロさんですが、肩がふるふると震えています。
この人、笑うんだ……。
初めて出会った頃から、いつも神経を張り詰めた様子のミヒロさんしか見てこなかったので、こういう一面も見られてなんだか嬉しいです。
「いや、悪い悪い。初見でスフィアの生成までできるなら大したもんだ。お前、才能あるよ」
「えっ、ほんと!?」
「ああ、この調子なら一ヶ月も掛からず現場に出られるかもな。さてと、妹の方はどうだ?」
「私は………」
さっきから同じようにしようと頑張ってはいますが、掌からは何も出てきません。
「一卵性の双子でも結構差が出るもんなんだな」
「うっ……」
ミヒロさんの何気ない一言がぐさりと刺さります。
昔からそうです。姉は勉強以外は何でも器用にこなしますが、私は……。
たった今練習を始めたばかりだというのに、既に姉とは差が開いてしまっているという事実に、どうしても気分が沈んでしまいます。
そんな私を見かねてか、
「まあ、そう落ち込むな。最初は何も出ないのが普通だ」
と、慰めてくれましたが、
「はい……」
私は力なく返事することしかできませんでした。
「ほら、必要なら何回でも手本は見せてやるから、もうちょっと頑張ってみろ」
その日は日没まで練習を続けましたが、結局私には何の変化もありませんでした。
【キャラクタ―、作中用語、設定解説】
・スフィア
掌から放出した魔素を圧縮して生成する球状の高エネルギー体。魔獣への主な攻撃手段となる。




