離れ離れ
───夕方。
「それくらいにしとけ。もうすぐ日が暮れる」
「………はい」
ミヒロさんに止められ、構えを崩します。
結局、私にはスフィアの生成はできませんでした。
なんだかとても疲れました。
とは言っても、手を構えてひたすら念じていただけなのですが。
傍から見たら、変なポーズで固まっているシュールな絵面になっていそうです。
一方で姉はこの短時間で既に攻撃魔法を習得したようで、試し撃ちで周囲をめちゃくちゃに散らかしていました。
………いや、元からここはめちゃくちゃに散らかっていましたね。散らかり方が少し変わっただけです。
「それじゃ、帰るか。……じゃあな。北条によろしく言っといてくれ」
座っていたガラクタから腰を上げて、ミヒロさんが言います。
なぜか、その言葉は私に向けられていました。
「……?あ、はい………?」
「ばいばい、ソラ!またね!」
姉もミヒロさんの傍に駆け寄り、私に手を振っています。
「え?……え?」
状況を飲み込めず硬直しているうちに、二人の姿は徐々に遠のいていき、曲がり角の先へ消えていきました。
もしかして……、見捨てられた?
何分間そのまま固まっていたのでしょうか。
「何をぼーっと突っ立ってるんだ。早く中へ入りたまえ」
「わっ、びっくりした」
ラボの玄関が開き、サヤさんから声がかかります。
「えーっと……、あの、私………、なんで置いていかれたんです?」
当然の疑問を口にします。
「………?……これからはミヒロとヒナタ君、僕と君との二組に分かれて訓練を続けると決めただろう。聞いてなかったのか?」
「初耳です」
ですが、確かに私が必死に練習してる間にサヤさんがラボから出てきてミヒロさんと何か話してたような………?
「集中し過ぎだ。そんなに力んだところで出ないものは出ないぞ。姉との差で焦る気持ちは分からんでもないが、魔法は別に他人と競うものでもない。それに、焦りは自身の命を危険に晒す。人それぞれに合ったやり方で着実に学んでいくのが良いだろう」
「それは……、分かってはいるんですけどね………」
「まあ、今日はもう休むといい。明日からは僕が指導しよう」
ラボからの帰り道。
「ねぇ、ミヒロさん?ソラ置いてきてよかったの?」
しばらくお互い無言で歩いていたが、ヒナタから声を掛けられた。
「いいも何も北条の提案だ。」
ヒナタには素質がある。多少の障害はあるだろうが、恐らく短期間で一人前になれるだろう。
しかし、それではソラと足並みを揃えて指導することは難しい。
そこで、二人の指導を自分と北条で分担して行うことで、それぞれのペースに合った効率の良い方法で訓練を進めよう、というのが北条からの提案だった。
……しかし、あまり他人と関わりたがらないアイツが自ら指導役を買って出るとは、どういう風の吹き回しなんだろうか。
しかし、理に適った提案だったとはいえ、双子の姉妹を引き離してしまうのは、少し気が引ける。
「お前こそ良かったのか?妹とはしばらく離れ離れになるが」
ヒナタにそう聞いてみた。
「私は〜、ちょっと寂しいかも?」
おどけたような口調で返事が返ってきた。
この調子なら大丈夫そうか。
「そうか。悪いな」
「えっ、別に謝らなくてもいいのに」
「こういう時は形だけでも謝るんだよ」
「ふーん」
ここで会話が途切れたが、しばらくして再びヒナタが口を開いた。
「その、ミヒロさん、色々ありがとう」
「何だよ急に」
「そういえば最初に助けてもらったときのお礼、言えてなかったなって。それに、ルンパのときも助けてもらってるし、今もこうして面倒見てくれてるから」
「そうか」
「私、この恩は絶対返すから!これからもよろしくね!」
「あぁ……、よろしく」




