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幸福な時間  作者: 悠木 泉
9/18

失望

 理央のピアニストであるが為の悩みやからだのコンプレックスを聞かされ、少し彼女が理解出来た。今度、演奏旅行から帰って来たら、夫として優しくしてやろうと思っていた。

 12月に入ると、街はクリスマス一色に染まり、気分もウキウキしてくる。わが営業7課もクリスマスパーティーや忘年会、少し先だが正月、新年会向けの華やかで光沢のある、タフタやオーガンジー、レースなどの高級な生地がよく売れる。一年で最も売上高が伸びる時期でもある。今年も社内でトップの売り上げを誇り、部長としてのオレも面目躍如と云うところ。いつも、トップを競う婦人もの、紳士ものの製品を扱う3課の部長になっている、入社以来のライバルであり唯一の親友でもある香川は33才だが、いまだ独身。父親の会社に戻れば社長に成れるのに、現場の方が性に合っていると、生真面目な彼らしく我が社で頑張っている。

 ピアニストにとってもこのシーズンは国外、国内を問わず特に忙しい。正月もウィーンに行っていて、オレは社長ご夫妻と社長のご兄弟たちと近くの温泉に行き、リフレッシュした。オレにとっては義理の中でも両親だが、理央と結婚して3年経っても、社長ご夫妻だった。

 理央が我が家の「ガラスの城」に戻ったのは、1月半ばのことだった。理央を少しは分かったから、夫として、優しくしようとオレなりに、歩み寄ったが、理央は相変わらず。オレの手を振り払い、無愛想に新年の挨拶をして、土産のグッチの鞄を置くと、疲れたと言って自室に入ってしまう。やはり、上手く行きそうにない。

 恋愛はキャッチボールだと思う。自分の投げたボールを相手が投げ返して来る。相手が取れないような、高いボールや明らかに逸れたボールはマナー違犯。なるべく相手が取りやすいボールを心掛ける。それが思いやり、やさしさ、誠実さだと思う。

 もっと大事なことは、こちらがいくら良いボールを投げても、投げ続けても返球されなくては、悲しいし空しい。それは最早、キャッチボールとは呼べない。唯の一人遊び。キャッチボールは本来楽しいもので、悲しかったり淋しかったりするのならする意味はない。自分の投じたボールが、上手くなくても返ってくるから、愉しくて、嬉しくて、また、投げよう、投げ続けたいと思うのだ。理央ともっと話し合うことが大事と分かっているが、オレにはいつも負い目が付きまとう。恥ずかしくない学歴も、頭脳も人より優れて、大抵のひとには負けない自信もあるし、容姿も20代の時の格好良さをキープしている。

 それなのに、貧しい家庭で育ったことと香川のような強いバックがないことで、いつまで経ってもオレは理央に遠慮している。情けないと思うが仕方がない。

 相変わらず、理央はオレに指一本触れさせない。どうして心を開かないのか。オレを見初めたというのは嘘だったのかと言いたい。

 そんな、気の晴れない日々が続く中、全く予期しないオレにとっての一大事が起こる。それも良いことではなく人生最悪の出来事が、、、。

 

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