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準備、しました

さて、受けるとは言ったが危険な可能性が高い任務である。

予想外の事態に備え、薬や道具、装備も揃えておきたいのは当然であろう。

「さっそくこれに頼ることになるのか……」

道具袋から書状を取り出し、眺める。

しかしこれ、どうやって提示すべきなのだろう。

これを出して安くしてくれと言うのも何か気が引ける。

コボルトの魔石を売った金もあるし、これを使わずとも十分に装備や道具を用立てられるだろう。

よし、そうしよう。俺は一人づくと、書状を袋に戻した。

テムは怪訝そうな顔をしているが、気にしないことにしよう。


「では、このミスリルの剣なんていかがじゃろう?テム様のような華奢な方の手にも馴染む軽量さ、優れた重心バランス、そして何よりこの美しいデザイン!狭い洞窟の壁に当たろうとも、刃こぼれ一つしませんとも!」

たじろぐテムに、老人はまばゆい刀身の剣を手渡す。

明らかにこの街でも指折りの業物だ。

「いえ……こんなにいいものを、その値段でお譲りいただくのは流石に……」

昨日助けた老人が店番をしているのは想定外だった。

どうやら見かけによらず現場主義の人らしい。

店に入った俺達を見るなり嬉しそうに駆け寄り、俺が調査依頼で廃坑に行くから道具と装備を整えに来たと伝えると、高級な道具を異常な安値で用立ててくれようとしている。

テムが汚さないかとビクビクしながら持っているあの業物も、量産品である鋳物の包丁並みの値段が提示されていた。

販売という体をとっているのは帳簿状のものか、あるいはこちらの面子を立てるためのものだろうが、いくらなんでもこれはさすがに申し訳ない。

「せ、正規の値段で買わせていただければと」

「お気持ちは嬉しいですが、お断りさせていただきますじゃ」

テムの勇気を出した発言も却下される。

「恩人が何が出るとも知れぬ魔窟に人助けのために行こうとしておるのに、手助けの一つもせぬのは商人の名折れですじゃ。ここはひとつこの老体の面子を立てると思って」

そんな問答が何回か続いた記憶があるが、店から出る頃には俺もテムも全ての装備がミスリルになり、道具袋には5回死んでもお釣りがくるほどの道具が詰め込まれていた。

狐につままれた気分だ。損得で言えばつまんだのはこっちの方な気もするが。


装備と持ち物を用立て、宿に戻る頃にはとっぷりと日が暮れていた。

テムはなるべく早く、できるなら明日の朝でも調査に行こうと言っていたし俺もそれに異論はない。

報告書を読む限りでは、出てくる魔物はレッサーデビルやデミドラゴンなど所詮中級と呼ばれるものでテムでも十分に対処可能であろうと推察できる。と、言っても油断はできないが。

元廃坑とはいえ実質未踏のダンジョンに調査に行くくらいの人員なら、ある程度腕に覚えはあるはずだ。それこそ中級の魔物なら軽く捻るくらいには。だがそれが2回も帰ってきていないとなると、何か侵入者に害をなす仕掛けなり呪いなりがあるか──シンプルに、中級より強い魔物がいるかだ。

テムは明日に備え、既に眠っている。

彼を守る必要は、本来俺には無いのだろう。

彼は勇者で、俺はただの冒険者。

本来ならその道が交わることもなかった間柄だ。

それでもこうして出会い、彼を捨てた仲間の代わりとして、彼の冒険に同行している。

その奇縁とも言える縁がこの先どのようになるかはわからないが、それでも今はこの日々を守っていきたかった。

保護者、というわけでもない。

これまでの人生、子息どころか伴侶にさえ恵まれなかった俺がそんなものを気取れようはずもない。

兄弟もいなかった。

ならなんのつもりだと言われると……なんなのだろう。考えるだけ無駄か。

明日も早いし、寝よう。

部屋の燭台を消し、ベッドに横たわる。

静かに夜はふけていき、俺の意識も夜の帳に覆われてフェードアウトしていった。

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