銀の弾丸
「テム、後衛で待機!ステラ、光の魔法はいけるか!」
「は、はい!」
「あまり得意ではなくってよ……"Et mundamini ac tenebras"!」
ステラが杖を掲げると、その先端から眩い光がたちのぼる。
「ギャアアアアアアアアッ!!!!!???」
クイックシルバーは顔を覆い、後ずさる。
「効いている……?これなら! "Et mundamini ……」
「ケケケケケケケケケケケケケケ!!!!!」
再び詠唱をはじめたステラに、クイックシルバーは人差し指を向ける。
「まずい……!」
ステラを庇うべく、踏み出す──が、間に合わない。
パアン!と破裂音が洞窟に響き渡り──声も上げずステラが倒れる。
稲光の速度に迫るというクイックシルバーの文字通り隠し球、銀の弾丸だ。
自分の弱点である光の魔法を使うステラを最優先で撃破することにした──その判断を魔物がすると思い至らなかった俺のミスだ。
こちらは向こうに対する決定打を失った。それに治癒魔法も。このままではジリ貧で負ける。
「ケケケケケケケケッ ケケケケケケケケ!!!」
クイックシルバーは笑い、俺を嘲笑うかのようにふわふわと天井付近まで浮遊した。
銀の弾丸は肉体の一部を爆発させて打ち出す、銃という武器に似た機構だと聞く。
が、それと最も異なるのは連射がきくことである。
銃は確かに強力な武器だがその機構の耐久性や取り回し、連射性能が良くないことから長弓に使用率で劣っている。
向こうの銀の弾丸は取り回しも何もないし、2発や3発打つこともある。だがあまり使用したい技ではないらしく、今回2発目は来ない。消耗か、それとも単に温存しているだけか……
様子を伺うようにクイックシルバーはまた両手を広げた。
「ステラさん!」
テムが駆け出そうとする。
「テム!動くな!」
下手に動き、クイックシルバーの優先撃破対象になれば、今度はテムも失うことになる。
俺が何とかしないと……いや、でも……どうやって?
まずい。
なんの打つ手もない。
半霊の上級と戦って勝てるほど、あるいは撃退し生き残るほど、俺は強さも、技もない。
逃げるか……いや、あるいは聖水を……?
「レイノスさん!何してるんですか!ステラさんが!」
「逃げるぞ、テム!」
「置いて行けません!仲間でしょ!」
「そんなあまっちょろいこと言ってたら命が幾つあっても足りない!早く!」
「……なら」
テムはゆっくりと歩き、俺の前に立った。
クイックシルバーは、獲物をいたぶる猫のように首を傾げた。
「逃げてください、レイノスさん。あなた1人だけでも。」
「やめろ。そんなことをしたら、お前も……」
「ごめんなさい。でもやっぱり……仲間を目の前で殺されて、許せる訳が無い。」
突如、テムの纏う雰囲気が変わった。
まだ少年のようなあどけなさを残したそれが、突然静かな怒りを湛えたものに変わり──空気が冷えるような感触。
ぞわ、と背が粟立つのを感じた。
目の前にいるのは確かにテムだ。
だが──あの目は、あの表情は、違う。
テムではない。
俺は知っている。その目をした人間を、もう1人。
突如、テムの体から黄金に輝く光の粒子が溢れ出す。
仄暗い洞窟が、眩いばかりの光に満たされ──テムは剣を構えた。
「ケケケケケケケケケケケケケケケケ!!!」
クイックシルバーは指をテムに向け──その瞬間だった。
「もう、その手は食わない」
テムは、洞窟の天井まで跳んでいた。
テムは空中で姿勢を崩すこともなく剣を振るい──銀に輝く指を持つ右手首が、閃光のような軌跡を描く剣に断ち切られる。
「ケケ……ケ?」
着地したテムと同時に、クイックシルバーの手首が地面に力なく落下し、霧のように消えた。




