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『中世』風の何がおかしいの? 個人の契約で成立つ王侯貴族の関係

『中世』風の何がおかしいの? 個人の契約で成立つ王侯貴族の関係


 なろうのタグに『中世』というものがありますが、それは必ずしも中世ということではありません。中世風ということなのでしょうが、とても便利であり、なぜかマヨネーズやソースが存在しない時代ですがカットラリーや陶器の皿が普通にある謎の世界です。


 その世界観は『中世』ではなく、『メルヘン』であると言えるのではないでしょうか。『メルヘン』自体が、近代の児童向けの物語を基底にしているので、時代的には十九世紀半ばくらいの世界観を反映しています。


 完全創作のアンデルセン。中世末のころからある民間の伝承を採話し、そのまま掲載した『初版』の内容がエログロであったため、内容を修正し子供が読める内容に変えたグリム童話。


 つまり、その時代の物語の挿絵などは中世風でありながら、その時代の文物を反映させていると思われます。だって、フランス革命前まで、フランスの農村ってほとんど竪穴式住居で全体土間だからね。江戸時代の日本の民家は、板敷、一部畳敷きで布団で寝ている家も沢山あったから。


 家だって、メルヘンな感じの挿絵や漫画が多いと思います。中世じゃないから。メルヘンだから。と考えると、『異世界恋愛』って、ファンタジーではなくメルヘンと表現する方が適切かもしれませんね。




【例えば食器】


 中世、カトラリーはなく、聖職者曰く『食べ物に触れてよいのは人の手だけ』という教えをしていました。つまり、手掴み。


 ということで、ルネッサンス時代までは手掴み、そして大皿から鷲掴み、スープは深皿から回し飲みの世界でした。


 残った食事を使用人に下げ渡す文化もあり、料理は大皿をたくさん並べるというのが『中世』の貴族の食事となります。




 おフランスも、メディチ家から王妃を貰った時代に料理人と共にフィレンツェから食器を持ち込んだことに端を発するので、その前……十五世紀までは『手掴み』の食事が一般的であったと考えても良いかもしれません。


 いや、まさか。金属のカトラリーの他、木製・角製などがありました。角製は耐久性と使い心地の良さから人気があったといいます。日本でも昭和の時代には『象牙の箸』というのが高級品とされていました。今はNGですが。


 最初に普及したのはスプーンであると言われています。


 ナイフは、切り分ける為にはありましたが、今のように個々に用意されてはいませんでした。ローストビーフ的な感じでしょうか。


 フォークは貴族であったとしても十六世紀から、庶民においてはフランス革命期以降といわれています。これは、貴族制度を廃止した際、以前の身分である貴族を示す為に『カトラリー』を持ち歩いたため、庶民もフォークを目にすることになり、便利だと普及したと言います。





 また、欧州製の『陶器』は、十八世紀に入ってからであり、それ以前はアジアからの輸入に頼っている高級品でした。陶器の製造には錬金術師が関わっていました。


 また、素焼き・木製や金属製であったとしても、平皿は使われておらず、皿状に焼いたパン=トランショワールを用いていたといいます。ローマ時代において使われていた皿が使われなくなった理由は、皿が『汚いもの』であるとされたからだと言います。


 確かに、素焼きの器は祭事などで使われる使い捨てのものという印象がありますが、しみ込んで汚れが落ちなくなるのでしょう。それは、木製も漆器のような技術が無ければ汚く感じるようになると思われます。


 釉の技術も漆器の技術も無かったんですね……


 比較的富裕な層は、『真鍮』の食器を使っていたそうです。銀は高いですし、管理が大変です。また、陶磁器は東地中海沿岸で作っている場所もあり、地中海の面した地域では、それを輸入して使用していた記録もあります。オスマントルコ・ペルシャやエジプトが主な産地とされています。


 木製のカップや深皿がせいぜいであり、木製のスプーンを自分で用意し持ち歩くのが基本です。毎日がソロキャンプ。


 因みに、近代においても食器は高級品であり、紋章入りの食器セットを来訪時には持ち込んで料理を振舞ってもらう必要があるような時代です。あれは、盗難予防に名前を書いておくようなものなのですね。


 庶民の行く飯屋でカトラリーが出されるのはどうかと思います。中世なら。


 異世界だから、中世でもその辺り今と変わらないのなら、中世というタグは不要なのでは? と思います。




【そもそも『中世』って何?】


 中世は『封建制』の時代を意味すると言います。ヨーロッパ史の概念です。これを日本史に持ち込んだ場合、鎌倉から室町迄としているようですね。日本の封建制と欧州の封建制は似て非なるものなのでなんともいえませんが。


 貴族がいるのは中世だけでなく、古代にも近代にもいますので、『貴族制度がある』からといって『中世』であると規定することは出来ないのはいうまでもありません。


 では、封建制とは何なのかです。


 領主・地主が、生産者としての農民から『封建地代』を徴収する為に直接的にに及ぼす強制力である『身分的従属』『土地への縛り付け』『領主裁判権』などを有する『農奴制』を有する時代。


 これが一つです。『農奴制』は騎士の成立と表裏の関係であり、十字軍運動の背景に進んだ欧州の都市化と、ペストによる人口の大幅減少により崩壊していきます。十三世紀から十四世紀、ルネッサンス時代がこれに当たるでしょうか。正社員の成り手が減り、求人状況が良くなったみたいなものです。


 中世は時期的にはこの時代に終わりますが、理由は『農奴制』が緩んでいく事に端を発します。騎士の時代が終わり、農奴ではなくある程度自由をえた農民が増えていく為、『近世』として扱うべきという議論になるのでしょう。


 江戸時代の農民も結構自由にしていました。米以外には課税されないので、商品作物を作って儲けたり、一生に一度はお伊勢参りに行くために積み立てしたりですね。室町以前より、平均余命が伸びて四十歳位になります。




 広義には『身分的特権を持つ階層が存在する社会制度すべて』といいますが、貴族制度が未だ残る英国は中世なのでしょうか? 共産党員とそれ以外で扱いに差があるお隣りの国は事実『中世』なのかもしれませんね。


 その上で、独立した権力を有する封建貴族が存在し、貴族個人間の双務的主従関係に基づく封土を媒介とする主従契約を有するとあります。


 これは、以前にも述べた『王と貴族は緩やかな同盟関係』という説明につながります。双務的というのは、権利と義務が双方にある関係ということです。


 一人の騎士が、複数の君主と主従契約を結び、軍役を果たす代わりに庇護を受けていましたが、『主』同士の争いには参戦しないという『特約』を示したうえで契約を結びました。




 では、封建制の終了はいつどのような理由なのでしょうか。


『王権の伸長とともに崩壊した』……つまり、絶対王政の時期に封建制は崩壊しました。中世の終了ですね。


 絶対王政って何? それは、貴族と国王の力関係が完全に国王有利で固定化した状態ですね。これは、国王がある程度有力な第三身分である都市の有力者、封建貴族以外の貴族・宗教界などから支持を集め、少数派となった封建貴族を圧倒するだけの軍事力・それを支える経済力を

手に入れた状態を指し示すと思われます。




【それは『中世』ではなく『メルヘン』】


 何が言いたいかって? 王家に匹敵するような大貴族がいる世界なら、それは封建制真っただ中であり、国王の権威は弱く軍事力・経済力も諸侯の集団には勝てないので、王としての権力はさほどない。 住民のほとんどは『農奴』であり、貨幣の流通も少なく、物々交換の世界が主であり、商店や街道などは整備されていない。


 反対に、国王が絶対的存在である時代ならば、王家の系統以外の大貴族は矮小化しており、高位貴族の数もさほど多くなく、爵位は王の一存でどうとでもなる時代になっている……ということでしょうか。


 フランスで例えるなら、百年戦争以前が封建制、ブルボン朝の時代が絶対王政。その中間の時代が過渡期ということになります。


 王家に匹敵する大貴族がいるのに、王様がふんぞり返ってる世界の政治体制ってどうなってるのでしょうか……


 


 『中世』ではなく『メルヘン』と置き換えれば問題ありません。読みやすいのは会話文が多いからではなく、『メルヘン』だからです。『大人向けの童話』であることがなろう小説の根底にある気がします。




【メルヘンというと】ブリタニカ国際大百科事典 から抜粋


 一般に昔話,童話,おとぎ話と訳されるが,広義には,伝説,神話,寓話,滑稽譚などを含む。空想と現実が一体となった短い話のことで,主として伝承により流布した民衆文学。いくつかの定型 をもち,主人公の誕生から遍歴,目的の達成まで異常な事件が続き,動機や心理の説明を排し,論理的な一貫性を求めずに語られる。美醜,善悪の対立が明確で,民衆の素朴な正義感が満たされる筋立てになっている。


――― なろう……メルヘンそのものだよね……


 魔法,魔術師もメルヘンの世界に欠かせない要素で,空想をほしいままにするが,内容はあくまで人間の現実に裏打ちされ,たくまざる世間知が盛られている。


 神話や伝説と違う点は,それが歴史や儀礼にかかわりなく,単によくできたお話を目指すことにある。


――― なろう……完全にメルヘンそのものだよね……


 因みに、ファンタジーとメルヘンの違いは……


 架空の世界が出てくる点では同じですが、完全架空の世界が『メルヘン』、現実世界に魔法や異世界がクロスオーバーするストーリーが『ファンタジー』と定義されます。


 指輪物語は『メルヘン』、ナルニア物語は『ファンタジー』と言えばいいのでしょうか。ナルニアは、ロンドン空襲の時期に田舎に疎開した兄弟姉妹が衣装ダンスの中に異世界の扉を見つけて移動するところから始まりますからね。


 因みに、『フェリーテイル』は、メルヘンのうち口承文学として伝えられてきた話のみであり、著作として創作された物を含みません。




 ということで、なろうファンタジー……ファンタジーではないのかもしれませんね。


 とは言え、ファンタジー=ファンタジーRPGの世界ですから。いまさらメルヘンだって言いにくいかもしれません!!



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☆レイピア考【音読】☆
― 新着の感想 ―
[良い点] メルヘンの定義があまりにも「なろう」を言い表し過ぎてて草生えるwww 「メルヘン」だと定義してしまえば「所詮なろう」と揶揄されるようなものは全て許容される! 「中世風世界」で、庶民が白い…
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