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華風皆殺し娘の交渉術  作者: 微睡 虚
第二章 寥国攻略編
35/342

盗賊の巣帰りという意味

やはり罠か……!?

乱世は油断大敵です。


 楽観的な鎧兜(カイドウ)だったが一紗(イーシャ)の懸念は当たってしまった。

店の入り口に着くなり、酔っぱらいは力の限り叫んだのだ。


「兄貴! 外国の客だァ! ぶち殺してくだせぇ!」


 縄張りに戻り仲間の存在を頼もしく感じて強気になったらしい。

想定通りの展開に一紗(イーシャ)は肩を落とした。鎧兜(カイドウ)の方は別に気にした素振りはなく、酔っぱらいを掴むと店の外窓に向けてそのまま放り投げてしまう。随分派手なノックである。

 宣戦布告ともとれる人間インターホンによってか弟分の呼びかけに反応したのか複数のチンピラが顔を出してくる。


「貴様ら! 俺達が(ゾウ)一家と知っての狼藉かぁ!?」


「我らが氣巧術の恐ろしさ! とくと見よ!」


「……だから接近戦では拳のが早いんだって」


 出迎えの小悪党を秒殺した一紗(イーシャ)鎧兜(カイドウ)はそのまま店に入店する。

 その後も仕掛けてくるチンピラを倒していくと、騒ぎを聞きつけた無精髭の男が奥からやってきた。彼の登場により残りのギャング達が調子を取り戻した。


「へへっ! (ゾウ)の兄貴がいればバケツ頭の筋肉野郎もチビも皆殺しだぜ!」


「あ? そんなに強ェのか?」


「おうよ! なんたって(ゾウ)兄貴は盗賊上がり! 全国から集った修羅が蠢く〝盗賊の巣〟に入って生きて帰ってきたんだからな!」


 子分達に持ちあげられた髭の男は自身の強さを見せつけるように筋肉で服を破った。顕わになる彼の身体には無数の傷跡が刻まれていた。


「ここでは誰も俺に逆らえん。俺は盗賊の巣で生き残り、十の修羅を殺したんだぜ?」


「十人殺したぁ? 桁が一つ足りねぇんじゃねェか?」


「そんなのでよく自慢できたな。俺が殺した連中もお前らより多く殺ってたよ」


 身体の大きな兜の男ばかりか小さなローブの人物にまで馬鹿にされた髭男は青筋を浮かべて机をたたき壊してしまった。彼は見せつけるように氣を纏って一紗(イーシャ)に殴り掛かってくる。


「氣巧武術か。少しは心得ているようだな」


「我が躰は鋼より硬い! 妖魔も氣巧術も通用せん!」


「見せてくれ兄貴ィ! ガキ連れた氣巧術士をぶち殺したときみてぇに!」


「呆気なかったよなぁ! 子どもは勘弁してくれ~ってべそかいて」


 一紗(イーシャ)はピクリと眉を動かした。床に目をやると血痕を見つけることができた。

 彼らこそ(ショウ)姉妹の父親を殺した者達だったのだ。血痕の量から推察するにもっと多くの旅人を手にかけているだろう。


「……ガキは何人だった?」


「あん? 二人だったぜ? 外に逃げたみてぇだが俺達の仲間が追ってるしなぁ。必死に逃がした親父は無駄死にだったな! ギャハハハ!!」


 一紗(イーシャ)は男の拳を跳躍して躱すと宙返りして彼の首のつけねに跨った。

 そのまま股で首を挟んで一回転する。反対方向に捻じ曲げられたことで首の骨を折られた男は身体を倒した。氣巧武術を扱っていたからかまだ僅かに息がある。


 彼は不自然に曲がった頭で自分の首を折った相手の姿を見る。

 ひらりと着地した衝撃で一紗(イーシャ)の纏っていたローブが剥がれ落ちた。

 その紺青色の長髪と黄金の瞳を見た(ゾウ)は震える声で呟いた。


「惡姫……!? そんな……どうじ……で?」


「俺を知ってるのか? 盗賊の巣に入ったってのは嘘じゃないらしいな」


 彼は盗賊の巣に入ったとき、遠目で一紗(イーシャ)の姿を見ていた。返り血に塗れながら笑みを携えて百の修羅の首を飛ばしていくその美しい姫に恐怖し、盗賊の巣から逃げだしていたのだ。

 十の修羅を狩り、自分こそが最強の盗賊だと自負していた彼が逃げ帰った理由は一紗(イーシャ)にあったのである。


 絶命する瞬間に恐怖の言伝を残したことで店内は騒然となった。彼らは盗賊の巣帰りの兄貴分がいるから怖い者なしだった。(ゾウ)が酔った際に語る惡姫の恐怖もただの伝承だと思っていたのだ。しかし、その兄貴分は目の前で簡単に殺され、最期に少女を「惡姫」だと称した。

 少女の美しい姿に見惚れている暇もなかった。心にあったのは純粋な恐怖である。

 (ゾウ)一家の男達は土下座のような姿勢で一紗(イーシャ)に頭を下げる。


「「「数々のご無礼! お許しください!」」」


 彼らが自分達の行いを悔い改めた訳ではないことは分かっていた。彼らの心を満たしていたのは良心の呵責でも後悔でもなく、純粋な恐怖である。

 震える男達を冷淡な眼で見下す一紗(イーシャ)は彼らの首を刎ねることを僅かに躊躇った。結局彼らは強い兄貴の権威に隠れていた小心者でしかないのだ。心に響くのは美鳳(メイフォン)の「皆殺しにしてはいけません」という忠告である。


「……お前ら旅人の親父を殺したんだろ?」


「えっとぉ、我々も喰うに困って仕方なく……惡姫様だって殺しくらいしますよね?」


「あの親父が悪いんだ! これ見よがしに良い服でうろつくからつい魔が差して……」


 言い訳じみた弁明の言葉が一紗(イーシャ)の中の修羅を刺激した。

 皆がやっているだから自分だってやってもいい。殺してもいい。彼らが話す命乞いの言葉は全て彼らを断罪する口実になりうることをまるで理解していなかった。


「……殺したんだな?」


 否定できずに押し黙る(ゾウ)一家を一紗(イーシャ)は怒りに任せて一瞬で皆殺しにしてしまった。

 あとに残ったのはバーのカウンターで震える店主だけである。


「か、かかか勘弁してください。わ、私はアイツらの暴力に脅されてただけで……。本当は助けたかったんだ。でも、こ、こここ、こどもを裏口から逃がすのにせいいっぱいで……」


「姉御、どうするよ?」


「貴重な情報源だ。コイツに聴こう。まずは桃の果汁水でももらおうか?」


「あ、生憎桃は……その、きききき、切らしておりまして……」


「テメェ姉御の注文が聞けねぇってか!? 在庫じゃなくて俺の方がキレるぞ!」


「よせ、鎧兜(カイドウ)。店主、果汁ならなんでもいい。それとツレには一番良い酒を頼む」


「は、はい! ただ今お持ちします!」


 命が惜しかったのか店主は驚きの早さで注文品を用意し、サービスにつまみまでつけてくれた。精一杯のもてなしなのだろうが、一紗(イーシャ)が口をつけた果汁は水で薄めてあり、鎧兜(カイドウ)が呷る酒は寝かせ方が雑で風味が死んでいた。


「不味い! 【慶酒】の一番安い酒にも劣るぜ。飲み口も後味も最悪だ」


「言ってやるな。これがこの国の限界なんだろうぜ」


「……はい、おっしゃる通りで。原材料を手に入れるのも一苦労なんです。私はなんとか酒造と料理の腕を買われて(ゾウ)一家に囲われておりましたが、他の店は強盗に襲われて全滅です」


「昔からこうなのか?」


「ええ。(ホン)満喰(マンスン)殿下が領主に就かれてから【寥国(リョウコク)】全体が衰退し続けています。この国は元々大きな町が三つあり、他領から編入した町を合わせれば六町あったのですが、今や町といえる場所はこの【迎梠(ギョウリョ)】と州都【聚款(ジュカン)】だけとなりました」


「……そして、【迎梠(ギョウリョ)】も終わりが近い……か」


 他国を侵略して領地を手に入れてもすぐに興廃させてしまう。それは全て州都が栄えるために物資を搾取しているからなのだという。州都が地方町から搾取し、資源を失くした地方は滅びるか他から奪ってくるしかない。【迎梠(ギョウリョ)】の旅人狩りも元を正せば州都【聚款(ジュカン)】の搾取が原因だった。そして自領から掠奪先を失うことを恐れて他国から町を奪うのである。


「この町の市政長は危機感を抱いてないのか?」


「ええ。満喰(マンスン)殿下の従弟にあたる《叛族》の末裔が市政長です。彼も【迎梠(ギョウリョ)】が消えれば別の町に移動すればいいとしか考えておりません。物も人も無くなるまで使い潰すのが連中です」


「俺ですら都督の頃は政もやってたってのによ。【迎梠(ギョウリョ)】の市政長は普段何してんだよ?」


「城で酒池肉林を貪ってますよ。市民から吸い上げた血税で若い娘を囲って宴の毎日……」


 一紗(イーシャ)は【迎梠(ギョウリョ)】の現状や州都【聚款(ジュカン)】を除いて他の町が崩壊している事実を『転伝識字(てんでんしきじ)』で美鳳(メイフォン)に知らせた。そして店長に間元金貨を一枚投げて寄越して席を立つ。


「こ、こんなにいただけるなんて……! これで私もこの町から出られる!」


「この町を出るのは少し待ったらどうだ? どうせ荷造りしてたら他の奴らに奪われるぜ?」

「姉御、まさか城に行くつもりか?」


「ああ。この町を変える。まずは市政長の首だ」


 店を出た一紗(イーシャ)迎梠(ギョウリョ)城を睨み付けた。


 金貨は店主の口をさらに軽くした。【迎梠(ギョウリョ)】の市政長はあらゆる方法で町人から物を搾取し続けているようだ。

 具体的に言えば法律による徴税、暴力による略奪、そして女による色仕掛けである。

物で釣ったり、攫ったりして手に入れた女達を使って遊郭を経営し、防人やチンピラの兄貴分等のまだ裕福な男達からさらに絞り取っているのである。


「趣味が悪いな……」


 ローブで顔を隠した一紗(イーシャ)が呟くと、遊郭から背が低い油っぽい親父が出てきた。

 身なりから察するに客ではなく経営者の一人のようだ。


「臭う臭う。雌の香りだぁ……」


 そう言って一紗(イーシャ)の羽織るローブに手をつけようとするが、鎧兜(カイドウ)にその手を掴まれた。強く掴まれた腕はポキリと嫌な音を立てて折れ曲がるが彼は動じない。もう片方の手で一紗(イーシャ)のローブを無理やり取っ掃ってしまった。


「おぉ! なんと麗しい! 兄ちゃん! アンタのもんか!? 売ってくれ!」


 よく見れば折られた方の腕は義手だったらしい。道理で気にしない訳だ。彼は一紗(イーシャ)鎧兜(カイドウ)の所持品と判断して譲るように詰め寄ったのである。


(また商品扱いか……。身分の低い女の扱いはどこも似たようなもんだな)


傍盾人になる前は自分が商品と見なされることは何度もあった。昔を思い出した一紗(イーシャ)の心に影がさしてくる。敬愛する姉貴分の心情を察した鎧兜(カイドウ)は兜越しでもわかる程激怒する。


「汚ねェツラ、近づけんな下衆野郎!」


「つれねーこというなよぉ。その娘はウチの誰よりも美しい! なぁ銀貨1枚で売らんか?」


「足りねぇなぁ……」


 鎧兜(カイドウ)は指をポキポキと慣らして拳を温めているが、小さい親父は一紗(イーシャ)に目を奪われて競り落とすのに夢中になっている。


「足りない!? うーん……しかしこんな美しい女は【寥国(リョウコク)】で見たことはない。ええい! 銀貨三、いや五枚でどうだ!?」


 まだ諦めないようだ。鎧兜(カイドウ)は分かりやすく首の運動をして骨をポキポキと慣らした。


「全然足りねぇ……」


 下卑た笑みを浮かべる男の額を指で小突いたが、彼は一紗(イーシャ)を諦めきれずに鎧兜(カイドウ)に縋りついた。


「兄ちゃん、アンタも人が悪い。【寥国(リョウコク)】の財布事情は知ってるだろ? ウチは十分金出してるんだぜ? なんならタダでウチの店来てもいいし……、しょうがねぇ金貨一枚でどぴゃっ!」


 言い終わる前に男の首が弾けとんだ。

 拳をバキバキと慣らす鎧兜(カイドウ)は親父の死体を見下しながら言った。


「この国一つひっくるめても姉御には釣り合わねぇんだよ……」


 一紗(イーシャ)は自分が商品と見なされることに慣れていたが、鎧兜(カイドウ)は違った。自分の敬愛する姉貴分が侮辱されて我慢できなかったようだ。彼の行動で一紗(イーシャ)も少し溜飲が下がる想いだった。


「それじゃあ、俺達はこの町をいただくとするか!」


「手土産に町一つ落とすことになるとは、これ程妹想いの兄貴もいねぇだろうよ」


 二人は迎梠(ギョウリョ)城を登っていった。




女と見るや商品と考えるキモい親父は鎧兜(カイドウ)

殺っていなければ一紗(イーシャ)が惨たらしく殺していたでしょう。


この作品、まだ一紗(イーシャ)以外に盗賊の巣帰りの強キャラが登場していないため、

「盗賊の巣」が本当に凄いかがイマイチ分かり辛かったと思います。

という訳で分かりやすい物差しキャラを用意しました。

盗賊の巣に入って生きて戻ってくるというだけで破落戸から相当評価され、

十人殺せば周囲にマウントとれるレベルです。

そこで城を構えた惡姫が畏れられるわけですね。


こっちの世界で例えるなら(ゾウ)は短期留学で遊んで帰ってきて帰国子女を名乗っている感じです。

対して一紗(イーシャ)は英語が話せないホームレス状態から起業して大企業のCEOに成り上がったレベルです。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかですが、あの大悪党兄が本当に未だマシなのかぁ。
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