エピローグ
繭国編のエピローグです。
【繭国】の動乱は終わった。蠅蟷螂を本物の金玄蜂蛾だと誤認して指示に従っていた官僚・文官たちはお咎めなしである。彼らが本物の金玄蜂蛾が現れたあとは従順であり、何より彼ら自身が自分達の過ちを悔いている故に厳罰する理由もなかったのだ。
それよりも有能な人物はその力をいかんなく発揮してもらい、蠅蟷螂が滅茶苦茶にした内政や外交を正す方向に動いてもらうことになった。
「「「金玄蜂蛾さま。数々の御無礼お許しください」」」
「よい。元々は余が長らく留守になったが故のこと。その元凶も蠅蟷螂が余の転生卵を喰っていたからだ。そなたらの責任ではない。だが責任を感じるならば実績をもって汚名を払拭して見せよ」
「「「はっ!」」」
当の金玄蜂蛾も蠅蟷螂に騙されていた彼らを責めるつもりはないようだった。
勿論、政治は学や知識のない人間でも納得させるためどこかで折り合いをつけなければならない。失政の責任を取らなければならないのだ。これは亡き本人の意向もあり狡白に汚名を着てもらうこととなった。
「まったく、狡白ってのはとんでもない輩だったな」
「金玄蜂蛾様を騙る偽物野郎に与して政権を奪うなんて!!」
領民達が彼の真意を知ることもない。鱗粉も少し心を痛めてはいたが国民をまとめるためには致しかたなしと自身の心に留めておいた。
【繭国】は蠅蟷螂が仕掛けた周辺国の戦争の清算を行った。代表者は鱗粉、仲裁者として美鳳が間に立った。
戦争を仕掛けてきた【繭国】が捕虜と領土を返還すると言い出した時は敗戦国たちはかなり訝しんでいたが徳の高い美鳳が仲裁してくれると名乗りを上げたために信頼して交渉の席についてくれた。
「此度の戦は【繭国】を牛耳っていた狡白派閥のものが起こしたもの。元来の元首である紅・鱗粉にその意思はなく、周辺国とは和睦したいと申しています」
「美鳳の言う通り、我が国は調和を望んでおります。したがって伯父が勝手に奪った領土と捕虜は返還します。それで水に流してもらえないかしら」
「……他でもない、美鳳殿下がおっしゃるなら」
「領土が戻るならなんでもいい! 願ったりかなったりじゃ!」
敗戦国は犠牲者が出ているために本来反【繭国】の感情が出るはずだが、敗戦して奪われたはずのものを返還してくれるということで為政者達が《蟲族》に対する悪感情排除に舵を切ってくれたのである。急激に反《蟲族》、反【繭国】感情は薄れ、寧ろ簡単に自分達の領土を奪えるのにそれまでそうしなかった鱗粉の評価が上がったのだ。強い国との関係を維持しようと交易が盛んになった。【繭国】を中心にそこらの治安は一気に安定していった。実態は独立国であるが経済的軍事的には【繭国】の影響を色濃く受けた準属国の色彩が強い。それでも彼らとしては乱世を巧みにわたっているのだろう。
【愁国】もこれら政変に関わったことで一定の利益を得た。【繭国】が暴走しないようにある種監視の役目として経済圏に【愁国】を組み入れることを【繭国】の周辺諸国が臨んだのだ。おかげでお零れに預かることができた。勿論それらの詳細をまとめたのは美鳳の信任を受けた胡・洋である。
そして【愁国】と【繭国】の関係性も一気に強化された。政変の仲裁に一躍買ったこと、スタンピードから同胞を守ったことで《蟲族》の一般人や《八星天道》構成員から蕾華たち食客が高く評価されたのだ。対して文官や官僚たちから評価されたのはここ一番で自分達と交渉し周辺諸国との仲裁に協力してくれた美鳳である。蠅蟷螂との最終決戦時点では中立裕子王条約だったものが固い軍事同盟条約が締結されることとなった。【宍国】に次ぐ対等な同盟条約である。
妖蟲を使役する彼らの偵察情報収集力は凄まじいものだった。彼らは【冰国】領土へと蟲を飛ばして一紗の足跡を把握したのだ。枷を嵌められて氣の一部を封じられてはいるが辱めを受けている訳ではない。そればかりか【冰国】の武将たちから信頼されていると聞いたときは驚く者や苦笑する者など多くの人間が多様な反応を見せていた。
「やっぱり囚われの御姫様で終わりませんでしたね」
「さっすが私の一紗さま!」
「ただ敵からも評価されているのなら執着するはず。一紗を取り戻すのは難儀だと思うけど」
「大丈夫! 敵に妖魔王がいてもこっちにも妖魔王がいるゾ!」
血漿巨怪の後継・月には金玄蜂蛾をぶつけるのは当然としてこの奪回作戦は綿密に練られた。【繭国】が謝罪と友好の証として兵を貸して防衛の一部を担ってくれることとなり、いつも守備についている龍宝も前線に出ることになった。
「後は彼の到着を待って綿密な準備をしてから一紗に伝言を出す予定です」
「……彼?」
その時、ちょうど入口に大きな翼が羽ばたく音が聞えた。
心強い同盟国【宍国】の貴公子が姿を現したのだ。
「呼び出してしまってすみません、兄上」
「一紗を取り戻すには協力を惜しまないさ」
いかがでしたでしょうか。
主人公不在なので半ば外伝のような感じですが本筋ではあります。
次章から主人公に視点が戻りますので一紗の活躍にご期待ください。
※私事で恐縮ですが身内を亡くしまして多忙になっております。
次章の更新にはしばらく時間をいただきます。
筆を折るつもりはありませんので今後とも宜しくお願い致します。




