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This side and the other side 世界が変わって見えてから  作者: あこべうき
綺麗なゾンビ 【柄牧灯香】
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2

 世界的に流行した新型ウイルス。

 幸いなのは致死性が無い事だが、それでも熱にうなされて一週間。

 扱い的にはインフルエンザと同じでなるべく他の人とは接触しないようにするなど。

 まあ、今住んでいる家には高校二年の俺と中学二年の妹の灯香(ともか)しかいないが。

 両親はどちらとも海外に居る。父は大手日本企業に勤めていて今は海外支社の責任者として働いている。

 その父の生活能力は壊滅しているため、母が付き添いで父と一緒に海外へ渡った。ちなみに行き先はベトナムだ。

 だから妹と俺、二人して新型ウイルスに掛かった時は家事とかどうしようかと思った物だが、インフルエンザ並みの症状の俺と違い、妹は微妙に熱があるかな程度だったため何とかなった。

 同じウイルスに掛かっているはずなのに普通に妹はピンピンしてたし。

 そんな感じで妹に看病されながら病院から処方された薬を飲んで休んでの一週間、目が覚めたらベッドの横で貪り食われている俺の死体があった。

 何が起きているのか理解が出来なくて固まっていると、俺の死体を貪り食っているソレは起きた俺に意識が向いたのか振り向いた。

 それは一週間、俺を看病してくれた妹の灯香だった。

 妹は兄の贔屓目に見ても可愛いと思う。

 同年代と比べて発育は遅めの幼児体型というような物だが、愛嬌があって可愛らしい。

 何でも通っている学校のクラスのマスコット的な存在で、小動物的な可愛さからよく他の女子から餌付けをされていると訊いたことがある。


『アァ…アアァ……』


 そんな妹が、いつも丁寧に手入れしている長い黒髪をボサボサにしたまま口や胸元を真っ赤にしてこちらへ迫ってくる。

 思考が回らず、悪い夢だと現実逃避をしてしまう。

 そうして、ベッドの上に倒れる様に上がり込んだ灯香が俺の体に抱き付こうとしてきて―――


「おはよーおにーちゃーん。ご飯たべれるー?」


 扉を開けて妹が顔を覗かせる。

 灯香が二人いる状況、ベッドの上の灯香は俺の体をすり抜けてベッドにダイブする。

 何が何だか分からないまま、俺は口を開いた。


「ちょっと、無理そう」


「分かったー、とりあえず食べれそうになったら呼んでねー」


 そう言って扉の向こうの妹は顔を引っ込めて扉を閉めると、一階へと階段を下りていく。

 どうやら妹は部屋の惨状が見えていない様だ。

 ついでに部屋の中の妹は、何度も俺に抱き付こうとしては俺の体をすり抜けてベッドの上でダイブを繰り返していた。あっ、落ちた。



      ◇



 人間、慣れる生き物なんだとしみじみと思う。

 個人的に色々と検証した結果、俺は並行世界と半端に繋がったと理解して今は普通に受け入れてしまっている。

 あの日、自分の死体とゾンビ化した妹が部屋の中に居るという強烈なパンチのある目覚めを体験してから二ヶ月。季節は七月の初頭の夏真っ盛り。

 俺は空調の利いた部屋の中、ベッドの上で胡坐をかいて漫画を読みながらマイ箸でポテチを食べる。

 で、おもむろにポテチを箸でつまんで横に向けるとポテチに食いつく人が一人。

 向こうの世界のゾンビ化した妹である。検証した結果、意識をすればこちらの世界の物を向こうに送る事が可能なようだ。

 あと、同じく意識すれば向こうの世界の物に触れる事が出来る。

 だから部屋の中で死んでいた並行世界の俺は家の庭に埋葬した。

 自分で自分を埋葬するという不思議な体験に頭がおかしくなりそうだったし、深く掘った穴の上で自分の死体が浮遊した様には「何で!?」って驚きの大声を上げてしまった。

 冷静に考えると穴を掘ったのはこっちの世界の地面だったから死体が浮くのは当たり前だったけど。

 その後は気を取り直して向こうの世界の地面に穴を掘りなおして普通に埋めた。

 で、それをこっちの世界の妹に見られていて、病み上がりなのにこの年にもなって穴掘り楽しいのって訊かれて心が折れ掛けそうになった。


 あの時の事を思い出すのは止めよう。つらい。


 もう一度ポテチを箸で摘まんで妹に向けると、また食いつく。

 ゾンビ化しても食べる物は普通の人間の物と変わらないらしい。

 肉も食えば野菜も食う、食欲旺盛でモリモリと食べる。まあゾンビだからね、思考が食欲に直結している感じだ。


『アァ、アァ』


「もっと欲しいのか? この食いしん坊め」


 漫画を置いてポテチの袋をパーティー開けにして俺を見つめる灯香の前に置いてやる。

 向こうの世界に送ると意識しながら置いた途端、灯香は顔面からポテチにダイブして食い始めた。

 犬みたいだなと思いながら、その認識で間違いないかなと思う。

 ゾンビ化しても少しは思考があるのか、多分妹は俺の事を何もしなくても餌をくれる人と認識しているのだろう。

 だから、初めの頃の様に俺を襲おうとすることは無くなった。代わりに食べ物を催促するようになったが。

 モリモリと食べる妹を見ながら、俺はふと思う。

 食った物はどこに消えているのだろうか、そう考えて……考える事を止めた。

 何て言うか、その考えは女性に対して失礼な気がする。


 いや、まあ例外はあるけどね。ゲロビームやってくるゾンビとか、食った物が破けた腹から零れていくゾンビとか。

 うん、ゲロビームだけは許さない。授業中にずっと視界をゲロの放物線が描いていくなんて集中できるか!!

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