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異能者代理戦争・後編

 アルザス王国は苦境に立たされていた。アルザス王国の王位には、先の国王が若くして亡くなって以来、王女と呼んだ方がふさわしい年齢の妹、エレオノーレが女王に就いていた。

 当然、周辺諸国の圧力や、この機に勢力を伸ばそうと画策する貴族達の蠢動(しゅんどう)に悩まされる事となった。

 そこに来てレーン大公国との国境争いである。戦争に踏み切れるような状況ではなく、かと言って戦わずして屈すれば、女王の立場はさらに危うくなる。

 故に十人の代表者を選抜しての代理戦争と言うのは、一筋の光にも思える提案であった。それがどんなにか細く、頼りない光でも、希望の光である事には変わりなかった。

 十人の異能力者またはそれに匹敵する実力者を集めるのは、決して楽な事ではなかった。しかしそれでも九人までを選抜にこぎつけた。


 強い異能力者としてまず選び出されたのが、牢獄に収監されていたゲラーと言う男だった。

 牢獄の深部に、目隠しをされた状態で収監されている彼は、発火能力者(パイロキネシス)だった。

 彼を厳密には犯罪者と呼べるかは怪しい。彼はその能力をもって、巧みに法の網の目を逃れて捕まらない犯罪者を焼き殺していたと言う男だった。

 そのため民衆からの人気は高く、王国としても証拠を掴めず歯ぎしりしていた犯罪者を始末できて良かったと思っている面もある。

 しかし理由はどうあれ殺人者を野放しにしていては、国家の威信に関わる。それで彼はついに逮捕される事になったのだが、逮捕の際も全く抵抗せず、一言の弁明もせずに獄に就いた男だった。

 役人がゲラーの独房を訪れ、彼に事情を説明して代理戦争への参加を要請したとき、彼は黙って役人の話を最後まで聞き、それからこう答えた。


「それで、国のために命がけで戦えと言うのなら、見返り位はあるのだろう?」

「見返りは、お前の全ての罪を免除して、釈放する事だ」

「罪? 私に何の罪があると?」

「人殺しの罪に決まっているだろう」

「確かに私は人を殺したが、私が焼き殺したのは皆、死刑は確実な程の罪を重ねていながら、お前達が裁く事ができなかった者だ。

 殺された方にも確実に罪があるし、それを野放しにしていたあんたたちにも罪はあるだろう。それなのに私の罪だけを責めて、今になって許してやると?」

「それは……」


 役人が渋面を作る。もちろん目隠しをされているゲラーには見えないが、ゲラーはニヤリと顔を歪めた。


「まあいいさ。私もここを出られるチャンスがあると言うなら、出たいところだ。その要求は受けよう。国のために、この力を使って戦ってやる。

ただし、全てが終わって私が生きていたら、その時私はもう自由の身だ。どこで何をしようと、好きにさせてもらう」

「いいだろう。出ろ」


 こうして、稀代の超能力者にして知能犯・ゲラーがまずこの戦いに参加した。


 王国中に触れを出して能力者を募集した。その中で、最初に代表者に選ばれたのは、ジェロニモと言う砂漠の民の呪術師だった。

 砂漠の民はアルザス王国の国民ではあるが少数民族で、国土の開発が進むにつれ、先祖代々住んでいる土地を追われつつあった。

 当然、土地を追われる彼らの反発は激しく、何度か小競り合いが勃発していた。それだけに砂漠の民から能力者が志願してくると言うのは、意外であった。

 面会した役人に、どうして志願するのか理由を聞かれると、彼はこう答えた。


「私が部族の代表としてこの代理戦争に参加する見返りに、勝利した暁には我ら砂漠の民の地位向上を約束してほしい」


 彼らの立場にしてみれば、一か八かでアルザス王国相手に戦うよりも、王国が無視できない功績を立てて、自らの存在を認めさせる方が良い。戦うのは、それに失敗した後でもできる。という事だろう。

 王国側もその意思は買った。しかし、実力が伴わない事にはどうしようもない。そこで王国軍兵士の中から、腕に自信の有る者数人を選び出し対戦させた。

 驚くべき事に、全ての兵士がジェロニモに一発殴られただけで降参してしまった。決して凄まじい一撃だった訳ではない。鍛えてはいるが、ごく普通のパンチだった。

 兵士たちが降参したのは、ジェロニモの能力の恐ろしさを、その一発で思い知ったからだった。

 ジェロニモへの攻撃が、全て自分の身にも返ってくるのである。彼を一発殴れば、自分も同じ様に痛い。それでいてジェロニモからの攻撃は、普通に食らうのである。

 これではどうあがいても勝ち目は無い。兵士たちは彼に一発殴られた時点でこの能力を理解し、勝ち目が無いと感じて降参してしまったのだ。

 こうして二人目の代表に、砂漠の民の呪術師・ジェロニモが選ばれた。


 三人目の代表は、特に波乱なく決まった。募集した異能力者の中から、傭兵として各地を流れ歩いていた男、ヴァン・ストーカーが実力を示して代表に選ばれた。

 彼は剣術と魔法を共に操る魔法剣士だった。さらに傭兵として、投擲(スローイング)ナイフの様な特殊戦闘技能も見せ、他の異能力者とは一線を画す戦闘力を示した。

 彼の要求も解りやすく、勝利の暁には、傭兵料として多額の金を求めていた。一生遊んで暮らせる額ではあったが、全面戦争をするのに比べれば安いものであった。


 四人目の代表者は、少女と言っていい年齢の魔女だった。

 ティアと言う名の魔女は、何も無い空間から剣を射出して攻撃する魔法の使い手だった。ただ射出するだけではなく、炎の魔法を付与して威力を増幅させたり、直接左右の手に剣を取って戦う事もあった。

 単純ではあったが、その破壊力は十分で、彼女の戦闘を見ていたヴァン・ストーカーに、「純粋な攻撃力ならば彼女の方が上」と言わしめた。

なにより、戦い慣れていた。多くの異能者を破って勝ち残った彼女は、純粋に高い戦闘能力の持ち主だった。


 剣の創造と操作の異能力者がもう一人、代表者として勝ち残っていた。しかも彼女もまた、ティアと同じくらいの歳の少女だった。

 ゾフィーと言う名の彼女は、代々軍人を輩出してきた家の娘で、彼女も王国の女性軍人部隊・ヴァルキュリア隊の若きエースである生粋の軍人だった。

 軍人である以上、戦争には率先して望まなくてはならないと言う信念の下に選抜に参加した彼女は、剣の創造と操作の異能力を持ち、さらに双剣の使い手であった。

 ほぼ同じ能力の持ち主であるティアがこの選考に参加し、勝ち残って代表に選ばれた事に、対抗心と幾ばくかの親しみを覚えながら、彼女もまた五人目の代表者として勝ち上がった。


 六人目と七人目の代表者は、師弟だった。

 武僧のチョウは、王国内では名高い武術家であり、同時に魔法に関しても造詣が深く、優れた人格者でもあった。

 その弟子のノーマンは純粋な魔法使いで、師の教えを基に開発した独自の魔道具を使用した、破壊力抜群の大魔法を得意としていた。

 その威力は、選考会場で大破壊を起こして参加者を唖然とさせ、しばらくの間、選考を一時中止に追い込む事態となった程である。

 なおその際に、やり過ぎだと師匠からきついお叱りを受けた事は言うまでもない。


 八人目の代表者は、王国貴族の中からダスプルモンと言う男が選び出された。

 ダスプルモン家は、代々異能力を持つ家系だった。『魔眼の一族』、それがこの家の呼び名だった。

 その名の通り、見ただけで相手に一種の呪いを与える魔眼を、この一族は皆例外無く持っている。

その効果は様々だが、一世代に一人必ず、見ただけで相手を殺す最強の魔眼の持ち主、『兇眼者(きょうがんしゃ)』が生まれる。

 またダスプルモン家は、代々アルザス王国の諜報や暗殺、その他表沙汰にできない影の仕事を担ってきた家でもある。

 ダスプルモン家当代の兇眼者が八人目の代表者として選ばれるのは、当然の結果と言って良かった。


 九人目は、実力者を募り、選抜する中から、一人の少女が選び出された。

 驚くべき事に彼女は、一切の異能力を持たず、二刀流の剣術をもって並み居る実力者を下し、その座を勝ち取った。

 河西(かさい)と名乗った可憐な剣士に、いやがうえにも注目は集まった。代表者の中にもチョウの様な、己の肉体を主として戦う者も居るが、完全に異能を持たぬ代表者は、この時点では彼女ただ一人だった。

 すでに代表者に選ばれていたティア、ゾフィーの二人の少女とは、歳も近く、技巧も似通っている事から、初対面からかなり打ち解けた様子を見せた。

 代表者の中の三人の少女は、一種のアイドルとしてアルザス国民から高い人気と期待を込められる事になった。


 エレオノーレ女王は悩んでいた。代表者を九人までは選抜したが、あと一人、これと言う人材が見つからないのだ。

 有望な候補者はいる。しかしどれも実力が拮抗していて、決定打に欠けるのだ。ましてやこれは代理とは付くものの、国家間の戦争なのだ。できれば信頼して送り出せる人物であってほしい。


「エレオノーレ様、少しお休みになられては? お茶をお入れしますわ」

「ありがとう、ナタリア」


 エレオノーレの疲れを見越した様に、ナタリアが休憩を勧める。実際見越しているのだろう、彼女はエレオノーレが王位に就くなど考えもしなかった頃から、世話をしてくれているメイド長だ。

 ナタリアの入れたお茶を飲んで、少しだけ気分が静まったところで、もう一度代表者の名簿を見る。

 最後の一人、必要なのは、実力者よりもむしろ、他の代表者をまとめ上げる指導力を持ち、それでいて信頼できる、チームリダーではないかと思った。しかし、そんな人物が都合良く居るだろうか。


「エレオノーレ様は、最後の一人にどのような人物を求めますか?」

「もちろん、私達を勝利に導ける人材。そのためには、集まった代表者を個人ではなく、チームとしてまとめられる人物が必要ではないかと思っているわ。

 そしてなにより、信頼できる事」

「ならば、ふさわしい人物に心当たりがあります」

「本当? ならばぜひ、会ってみたいわ」

「すでに、エレオノーレ様の目の前にいらっしゃいますわ」

 ナタリアがほほ笑む。

「あなたが、代表者として出ると言うの?」

「私がただのメイドでは無い事は、御存じでしょう? それに、城の使用人達をまとめるのには慣れています。それとも、私では信用なりませんか?」

「まさか、あなたほど信用、いえ信頼できる人は居ないわ。でも、本当にいいの?」

「私の役目は、身の回りのお世話に留まらず、エレオノーレ様のためにできるあらゆる事を為す事です」


 エレオノーレは考え込んだ。ナタリアが自分の事を知ってくれている様に、自分もナタリアの事は良く知っている。確かに、望みうる最高の人材だ。

 しかし、自分にとってかけがえのない存在でもある。彼女に万が一の事が有ったら、自分は最も信頼できる相手を失ってしまう。

 だがそれを全て承知の上で、ナタリアは自分が行くと言ってくれたのだ。ならば、彼女を信じよう。そう決意した。


「ナタリア、あなたを十人目の代表者、そしてアルザス王国代表メンバーのリーダーに任命するわ。必ず勝利をもたらしなさい。そして、生きて帰って来てね」

「仰せのままに。エレオノーレ様」


 かくしてレーン大公国、アルザス王国の代表メンバーがそろい、係争の地ゼルフカント全域を舞台として、十対十の異能力者及びそれに匹敵する実力者同士の戦いが始まる事となった。

 戦いは三十日間とされ、その間に相手チームを全滅させるか、三十日が経過した時点での生き残りが多い方が勝利と定められた。

 三十日が経過した時点での生き残りが等しい場合は、同じルールで十日間の延長戦を行い、決着が着くまでこれを繰り返すとも決まった。

 以上の事を両国共に承認し、両国君主による批准書と、代表メンバー名簿の交換が行われた。


レーン大公国代表者

忍者・霧隠

剣客・半次郎

変身ヒロイン・カレン

大公国諸侯・和田

猟師・二瓶

科学者・シュプリンガー

錬金術師・グロック大佐

魔銃士・イワン

武闘家・リュウ

術師・日向


アルザス王国代表者

メイド長・ナタリア

超能力者・ゲラー

呪術師・ジェロニモ

魔法剣士・ヴァン

魔女・ティア

ヴァルキュリア隊士・ゾフィー

武僧・チョウ

魔法使い・ノーマン

兇眼者・ダスプルモン

剣士・河西

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