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第7話 星も性格も丸くなろうぜ

「…………はぁ」

 俺はとある紙を見た後、黙ってそれをカバンのなかへとしまう。


「奏〜、またダメだった?」

 顔を覗き込んでくるのは、いつも通り夏香。さらに今回は、馬鹿にした様なムカつくニヤニヤ顔だ。


 結論を言おう。テストの結果が惨敗だったのだ。

 恥ずかしながら、俺は勉強が出来ない。一応勉強はしているのだが……。


「なんだよ……」

「ありゃりゃ? 奏のピンチじゃなぁい? お姉さんが教えてあげ……」

「こ・と・わ・る」

「んぎぃ〜! 奏の強情屋!!」


「あ、先輩方」

 そんなことを話していると、向こう側から冬乃が近づいてきた。

「あ、ふゆのんだ」

「お二人のラブラブタイムを邪魔してしまってすみませんね」

「冬乃、後で覚えとけよ」

 思わず睨みつけてしまった。


 ふと見てみると冬乃の腕には厚い本がある。

「冬乃、それは?」

「あぁ、これは天体図鑑です」

 意外だ。星に興味があるなんて、実はロマンチストなのか。


「星とか好きなのか?」

「はい。家に望遠鏡があるので、わりと小さい頃から」

 小さい頃からとは凄い。俺の小さい頃なんて、鼻垂らしながらヒーローの真似ばっかやってたぞ。

 すると、夏香は冬乃にこんな質問をした。

「じゃあふゆのんはベガとアルタイルどっちが好き?」

「え? どっち……といわれると、アルタイル、かな?」

「ほほぉ、アルタイルとな。かーなーり良いセンスしてますな」

 おい待て。それ絶対星じゃなくて時の列車的な話だろ。話し方でバレバレだ。



「そんな冬乃に、質問がある」


 何処からともなく響く声。

 と思ったら、普通に冬乃の横にいた。陽室響介という謎多き奴。


「ひゃあっ!? ひ、陽室先輩!?」

「お前いつの間に……」

「それはともかくだ。冬乃、質問がある」


 こいつ、相変わらず人の話を聞かない。


 実はこの男、そこそこ女子に人気らしい。それで良いのか女子達よ。


 それで一体どんな質問なのだろうか。



「なんで惑星って丸いんだろう?」


 ……なんで独り言みたいな切り出し方?


「え? っと……その……」

「そう言えば、なんでだろうね?」

「死ぬほどどうでも良い」


 ナンテコッタ。俺以外は真剣に考え出したぞ。

「ええっと……確か重力が関係していて……」

「そうだ分かった! 四角いと変だからだ!」


 夏香のトンデモ理論に、俺と冬乃は机に思いっきり顔面を打ち付ける。

 四角いと変という定理はいつ誰が作ったんだよ。


「大体な夏香、それだけだと別に丸じゃなくていいだろ? 三角とか、星型とか」

「……はぁ〜、奏さぁ」

「なんだよ」

「分からないならいいよ」

 夏香の溜息に、俺のイライラゲージは天を突き破ろうとしていた。


「なるほど……一理あるな」

「何処が?」

「なら奏、お前の意見はどうなんだ?」

 うわ、俺か……。

 正直詳しいことは全く知らない。なんで惑星が丸いかなんて考えたこと、普通ないはずだ。


 ここはなんか、それっぽいことを言って終わりにしよう。


「そらお前……出来上がるまでに隕石とかがぶつかって、自然と丸くなるんじゃねえかな」

「真面目すぎてつまらない。座布団一枚持って行って」

「お前なぁぁぁっ!!」


 俺は陽室の頭をテーブルに叩きつける。


「人がこんなくだらねえこと真面目に考えてやったのに何だそれは! てかここには座布団なんてねえよ!」

「だ、だが面白さなら火野里先輩の方が……」

「大喜利じゃねえんだよバカ!!」


 やはりダメだ。この男に関わるとろくなことがない。

 こっちは夏香一人で手一杯だというのに。


「あの……次は私ですか?」

 おずおずと手を挙げる冬乃。

「無理しなくていいんだぜ? 身にならねえよ、この議論」

 いや、専門の教授同士とかなら話は別だが。素人の俺らがない知恵を絞ったって意味が無い。


「聞きたい聞きたい! ふゆのん、どうぞ!」

 と思ったら夏香がゴーサインを出してしまった。


 仕方が無い。ここはとびきりセンスのいいやつを期待しようじゃないか。



「えっとですね、惑星が丸い理由ですが、これには重力が関わっています。というのもーー」




 ーー1時間後ーー



「……という感じですね。どうですか?」


 爽やかなスマイルを浮かべる冬乃。


 しかし残念なことに、夏香と陽室は途中から昏睡、俺も辛うじて意識を保っている状態だった。


「あ、あぁ……とりあえず、感想言うぜ……」



 俺はありったけの力を振り絞り、こう言った。



「今、人生を無駄にした後悔に襲われてるわ」



 続く

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