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14話 レシーブ・ホワイト

 

「あっ!!」

 それは卵焼きを焼き、動画を見ながらテレビを見るという自堕落な休日を過ごしていた時に気がついた。


「バレンタインのお返し渡すの、すっかり忘れてた!」


 俺とした事が迂闊だった。


 毎回バレンタインになると奴らが律儀に贈ってくれるから、こっちもお返ししなきゃならないんだよな。

 女子は中々厳しいから。


「えっと貰ったのは……」

 記憶を辿って出てきたのは、母さん、夏香、冬乃、ヒヨコ先輩、霊詩、綺薇だったか。


 まずは、

「母さんはいいや。今外国だし。問題は……」

 他の5人。好みはおそらくバラバラで、しかもその内3人の好みは不明。

 さて、どうしようか。


「電話で聞くか……」

 ダメだ。面倒臭い。



 こうなったら賭けだ。フィーリングで勝負する!

 取り敢えず適当に菓子を作って、それを配る!!以上!! 解決!!



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 そういうわけで、まずは夏香から。

 バレンタインの時は至って普通のチョコを渡された。入って早々、

「ふなふぇ〜!! わはふぃのふぃもひうへほっへ〜!!(奏〜!! 私の気持ち受け取って〜!!)」

 と口にチョコを咥えて突進してきたことを除けば、普通だった。……ほぼ普通じゃねえな。


 そんな事はさておき、こうして夏香のマンションの部屋の前に来たわけだ。早く渡してしまおう。


 インターホンを鳴らす。十数秒間の沈黙の後、気怠げな声が聞こえてきた。

「ふぁーい、火野里れす……」

「お届け物でーす。玄関開けて下さい干物女ー」

「うぇ〜?」

 何だその心底面倒臭そうな声は。

「今〜、下着なんですよ〜。キャミとパンツなんですよ〜。また日を改めて〜、どうぞ〜」

 ジャージでも着ればいいだろうが。そもそも今春先だぞ。寒くないのか? 馬鹿は風邪引かないのは迷信だぞ。


「俺だよ。奏。遅れたけどホワイトデーのお返しをーー」


 次の瞬間、バタバタという音がインターホンから響き、その僅か数秒後、


「イヤァァッホゥゥゥ!! お姉さん嬉しいゾイ!!さぁさぁ中身は何ぞ?」

 キャミソールの上からパーカーのみを羽織った、いつもの破廉恥スタイルで迎えられた。

「開けてみな」

 そう言うと、夏香は包装紙をビリビリと破いて中身を出した。あぁ、折角綺麗な包装紙に包んだのに……。


「こ、これは……は、花だーー」

「チョコだよ」

 確かに花を模ってはいるけど。

「ふわぁぁぁ、ありがとう奏……」

「おう」

 結構チョコをこの形に成型するのには苦労した。ここまで喜んで貰えたなら苦労した甲斐もあったというものだ。


「お、お礼に夏香お姉さんから、チューをーー」

「じゃ、俺帰るわ。またな」


 はい、夏香、ミッションコンプリート。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 次は冬乃。奴は今バイトをしてるはずだ。


 カフェに入ると、相も変わらない様子でメイちゃんが出迎えてくれた。

「奏、注文はあるか?」

「いや、ちょっと冬乃に用事があってな」

「分かった。マスター、冬乃をご注文だ」

「誤解招くからやめてくれない?」


 まぁ一悶着あったが、休憩中の冬乃の元へ辿り着けた。

「ほい、ホワイトデーな」

「ありがとうございます。開けても?」

「いいぞ」

 夏香と違い、丁寧に包装紙を開く。箱の中身は、


「ハシリウオのチョコ! こ、これもしかして先輩が……?」

「そうだよ」

 いや、きつかった、別の意味で。

 成型する間によく俺の正気度がもったよ。途中で何度も投げ出しそうになったからな。

 その甲斐もあってか、冬乃は喜んでくれた。


 冬乃、ミッションコンプリート。




「はーい、繁盛してる〜? うわ、相変わらず少ないわね……」

 おっと、もう1人のターゲットが来ましたな。

 店の扉を開けるなりこんなデリカシーのかけらもない一言を発するクルクル頭はヒヨコ先輩。別にクルクル頭はダブルミーニングではなく、ヘアスタイルの事な。

「はーい、相変わらずピーピーでございますなヒヨコ先輩」

「うげっ!? あんたいたの!?」

「シフトではないけどな。丁度あんたに用事があったんだ」

 俺は小包をヒヨコ先輩へ放り投げる。

「バレンタインのお返しっす」

「え、マジで? あんな適当なチョコに返してくれるなんて律儀ね」

「市販のチョコにデッカくクリームで義理なんて書かれたからな。お返しに……」


 ヒヨコ先輩が小包を開けると、俺の力作が姿を現した。


 リアルに模った、蜘蛛型のチョコレート。


「ヒィィィッ!!? あ、あんた何よこれ!?」

「アシダカグモ型チョコレートっすよ。ほら、腹の所に義理って書いてるでしょ?」

「義理でも要らないわよ!! ちょ、ちょっと本当にキモいからぁっ!!」


 ふへへ、慌てふためくヒヨコ先輩はやっぱり面白い。平気かなと思っていたが、やはり女の子のほとんどは虫に弱いのだな。


 ヒヨコ先輩、ミッションコンプリート。



 と、客が慌てふためき始める。何事かと入り口の方に目をやる。


「あらあら、奏に鴫原さん。ご機嫌よう」

「……ハロー」

 綺薇に瀬ノ森。残りのターゲット一気に来店……なのだが……


 2人の足元にはマルコ。そして瀬ノ森の首にはマフラーの様にザックが巻きついていた。

「お客様、ペットは持ち込み禁止です」

「ペットじゃありませんわ。マルコとザックは家族です」

 愛犬家みたいな言い方すんな。


「そうだそうだ。2人にも……ほい」

 忘れない内に小包を渡す。


「バレンタインのお返しな」

「まぁ、ありがとう。……あら」

「……ワーオ」

 2人は目を丸くする。

 綺薇にはマルコとザックを模ったチョコ。瀬ノ森には一般的なゴーストを模ったチョコ。


「ありがとうございます。嬉しくてザックが貴方にハグしたそうにしてますわ」

「いやマジで勘弁してください」

「……ムスッ」

「何で妬いてるんだよ瀬ノ森。いいよ、ずっとザック巻いててくれ」

「でも、チョコはありがとう」


 はい、瀬ノ森、綺薇、コンプリート。



 そして、こんなチョコ達を1日で作り上げた俺自身に、拍手。


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