特別編 クリスマス ウィズ オール
メリークリスマス。
全国の皆さん、いかがお過ごしでしょうか。恋人といるもよし、家族と過ごすもよし、一人……いや、一人でいるも良いと思うよ俺は。
俺? 俺には夏香っていう彼女がいるからな。クリスマスは……
『皆さ〜ん、メリークリスマース!!』
バイトだよ。
仕方ない。飲食店は今こそ稼ぎ時なんだから。現にうちのカフェもクリスマスフェアと称して店員が全員クリスマスコスしてるし。
「メリークリスマース! カップルのような熱々コーヒー如何ですか〜? ……はぁ」
「メリークリスマース! 甘〜いクリスマース! ほろ苦クリスマース!」
外で呼子をしているのは夏香と冬乃。いつものメイド服ではなく、サンタの衣装だ。二人ともよく似合ってる。呼び文句はアレだけど。
ちなみに俺もサンタの衣装だ。ちゃんとヒゲもつけてる。さっき子供にプレゼントをせがまれたのでミルクをサービスしたら、舌打ちされた。最近の子供は心の闇が深い。
「みんな、メリークリスマス」
我がカフェのマスコット(らしい)メイちゃんはトナカイ。妙に筋肉質なせいか奈良県のマスコットに見えるが、気のせいだと信じたい。
「メリークリスマース」
棒読みでクリスマスを祝う超人、陽室は……え?
「お前、それなんだ?」
「決まってるだろう、ソリだ」
「得意げに言われても腹立つだけだ。ソリのコスチュームとか不気味なだけだろ。ていうかコスチュームじゃねえよ」
「ソリィ」
「ソリは鳴かねえ!」
まあこんな事態だ。クリスマスなんて祝う余裕もない。
クリスマスは誰かの生誕祭らしいが、こんなアホを爆誕させた世界が恐ろしい。
このメンバーでクリスマスかぁ。
帰りたいです。
「ぷはぁ、お店あったか〜い!」
「奏先輩、コーヒー二つお願いします!」
と、二人が呼子から戻ってきた。寒そうに手を擦り合わせる冬乃と、鼻水を垂らす夏香。
ここで既に品の差が出てしまっていて悲しい。
「アイスコーヒー二つ入りまーす」
「先輩、季節間違ってません?」
「そうだよ奏、乙女二人がこんなに寒い思いして……ヴェッキシ、ズズッ!」
「21歳の鼻水乙女が何か言ってる」
そんな会話をしながら、俺はホットのレギュラーコーヒーを二人に出す。
「しっかし、よくそんな格好で外出れるな」
二人の衣装はサンタといっても、ミニスカートに黒タイツ、そして半袖タイプのもの。
控えめに言って、寒そうだ。
「でもお客さんは沢山呼べてますし、へっちゃらです!」
「二人並べば客入りウナギ上……ヴェッキシ!」
「ウナギ、滝から転げ落ちそうだぞ」
でも美少女二人の呼子は確かに強力だ。主な客層が男のうちのカフェに置いて、最強の兵器かもしれない。
カランカランという音がする。新たなお客の到来か。
見慣れたクルクル頭が覗いた瞬間、誰なのか察したが。
「……げ、今日あんたらのシフトだったの?」
「随分なご挨拶だなヒヨコ先輩。って、あんたも一人か」
「悪かったわね独り身で!」
ヒヨコ先輩は歯をギシリと鳴らすと、冬乃の隣へ腰掛ける。
「あれ、夏香先輩の隣じゃなくていいんですか?」
「あんたの隣にいる方が安全なの」
「酷いなぁ、私はこんなにヒヨコちゃんのことヴェッキシ!!」
「ほらね」
うん、確かにあんたの判断は正しかった。
「あ、私いつものミルクね」
「メイちゃーん、オーダー入ったー」
「ちょちょ、待って! あんたが入れて! お願いだから!」
余程ホットコーラの一件がトラウマになったのか必死に止められる。からかった俺が言うのもなんだが、この人も巻き込まれ体質だよな。
「鴫原先輩はご家族と一緒にクリスマスですか?」
「え、まぁ兄貴がいるから、そうかな?」
「鴫原先輩、お兄さんいるんですか!? 羨ましいな……」
「いやいや、んなことないって。頼りないしさ」
ヒヨコ先輩はそう言いながらも、照れ臭そうに頬を染める。
するとソリの格好をした陽室が話し始める。
「トサカ先輩か、世話になったよな、奏」
「うわソリが喋っ……て、あんた何してんのよ!? ってか兄貴のこと知ってんの!?」
「質問は一つずつだってばさピヨコ先輩」
まぁ、そうなるわな。
「でもヒヨコ先輩の兄さんには世話になってましたよ。鴫原鶏士さん、通称トサカ先輩」
「なにそれ、カッコイイ!」
「あんたら人の兄貴になんてあだ名付けてんのよ!?」
目を輝かせる夏香とは対照的に、ヒヨコ先輩はピヨピヨ怒り始める。
といっても、本当にあの人はトサカ先輩、って感じなんだよなぁ。
「大体、私の名前のイントネーションを変えたのもーー」
カランカラン
おっと、また来客だ。さすがクリスマス。さぁて、一体どんな……
「あれ、月神くん」
出たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
瀬ノ森ぃぃぃぃ!!
お前はやばい! 本当に、お前は色々ベクトルがやばいから! 出来れば関わりたくな……。
「瀬ノ森さん……」
「火野里……先輩」
あ、そうか。この二人、互いに初対面は最悪だったもんな。主に夏香が一方的に因縁つけただけだけど。
面倒がなければいいのだが。
「霊詩ちゃぁぁん!!」
「ん……!」
もっと面倒になっていた。
「待てお前ら! 前はあんなに険悪だったじゃねえか!」
「話してみたらとっても良い娘だったもん!
妖精さんが見えるだけで、普通の良い娘だよ!」
「それが普通じゃねえんだよいろんな意味で!!」
ダメだ。非常識人同士は引かれ合う。意気投合してしまったものは仕方がない。
「瀬ノ森、注文は? 言っとくがメルヘンなメニューはねえからな」
「いいよもう、どうせ月神くん信じてくれないし。カプチーノ一つ」
「何でお前が呆れた顔してんだよ」
やはりこいつ、強者だ。それこそ妖精さんの加護を受けているのではないかと疑ってしまう。
黙ってカプチーノを差し出すと、カウンターの前の四人が好き勝手に話し始める。
「へぇ、あんたそいつとも友達だったのね。ホント年下に好かれるタイプね」
「火野里先輩、変わってる。喧嘩したのに、仲良くなれた」
「そこが夏香先輩の良いところなんですよ」
「えっへん」
夏香を褒めるその流れを聞いていると、話の矛先は俺に向き始める。
「それに比べ、あんたは友達少ないわよね」
「月神くん、教室でも陽室くん以外といることない」
「んなことねぇって」
俺はきちんと否定するものの、そんなこと構わず俺への非難は続く。
「何回も聞いてますけど、夏香先輩と奏先輩って本当に恋人なんですか?」
「ふゆのん、聞き捨てならんぞ! こんなにラブラブだというのに」
「ホントなの~?」
「ホントだよ!」
「月神くんと火野里先輩が……想像出来ない」
「あんたの妄想力で?」
「んで、ホントのところどうなんだ?」
「何が」
ソリの状態の陽室が俺に聞いてくる。何のことかと白を切ろうと思っていたが、陽室の真顔からは確信のようなものが感じられた。
「そうか、やはりな」
「お前、瀬ノ森の親戚か何かか?」
バイトが終わった夜、俺は街の広場にあるベンチでとある人物を待つ。
吐く息は白く染まるし、さっきから目の前をカップルがウロチョロしてるし、良いことなんか一つもない。それでも俺は待たねばならない。たった一人の我がままを叶えるために。
「奏~!!」
道行く人々を潜り抜け、誰かが俺のもとへ走り寄ってくる。
珍しく綺麗な服装に身を包んだ、夏香の姿。
「ごめん、待った?」
「30分くらい?」
「もう、今日は意地悪ナシって約束でしょ!」
「へいへい、じゃ行くか」
「うんうん!」
夏香は俺の腕をしっかり掴む。
周りの誰に言われなくとも、忘れてなんかいないさ。
ま、クリスマスくらいは、ね?
続く




