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12話 お嬢様、それは犯罪です

 

 休日の昼下がり。

 街中を一人の美少女が、買い物袋を片手に練り歩いていた。


 ショートウェーブの金髪に青い瞳、スカートからスラリと伸びる足に、高貴さを感じさせる整った顔立ち。


 しかしこの少女には、人とは違うある趣味を持っていた。

 それは、


「はぁ、何処かに可愛らしい子はいませんの……出来れば中学生」


 趣味と呼ぶにはあまりにも危険な言葉を公衆の面前で放つ。更に、その美しい瞳から獲物を探す眼光を放つ。


 そして、ターゲットは奇しくも見つかってしまった。


「んん〜、ドーナツ美味しい!!」

 ドーナツをリスのように頬張る、ツインテールの中学生。少しばかり胸が大きいが、そんなことは問題ではない。


 少女はスマートフォンを取り出すと、ニコリと笑う。

「ふふ……もし、車を出してくださる?」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ありがとうございました〜、というやる気のカケラも感じられない店員の声を背に店を出る。

 何の変哲も無い書店で、普通に読みたかったロボットラノベを買った。中々こういうのはショッピングモールに全巻置いていたりしないので、やはり書店で買うのが一番だ。


「後は切れかけてた食材と……あ、洗剤もか」



 ……なんか、おかしい。

 普通の生活を送っている筈なのに、俺の感は何か事件の予感を感じ取っている。


「いや、考えすぎだろ。まさか身内が誘拐されるでも無いし」

 俺は頭を振ると、再び歩き出した。


 少し先に、見慣れたツインテールが揺れていた。

「夏香……? あいつ何しにここへーー」

 しかしその刹那、夏香は黒い高級車にスッと乗り込み、そのまま走り去ってしまった。

 余りに一瞬の出来事で頭が付いてこれなかったが、やがて結論が付いた。


「あいつ、誘拐されたな」


 俺は急ぎバイクに跨り、黒い高級車の後を追うのだった。

 内心、フラグを立てて済まなかったと夏香に謝りながら。



 次々と車を追い抜き、黒い高級車へと迫る。高級車は律儀に制限速度を守って走行している。おそらく俺の存在にはまだ気がついてはいない。

 早く夏香を助けなければ。下手をしたら夏香のふざけた言動に激昂した犯人に殺されてしまうかもしれない。制限速度を守る様な真面目な人間なら尚更だ。


 俺は高級車の横の車線に移り、バイクを幅寄せした。

「おい! 夏香を返せ!」

 すると、ゆっくり車の窓が開き、中から姿を現した。


「やっほ、奏」

 ケーキを頬張る夏香が。


「やっほ、じゃねぇ!! 誘拐犯とお茶会でもしてんのかお前は!?」

「誘拐? あはは、違うよ奏! 私はただ美味しいものあげるからついておいでって言われただけでーー」

「誘拐犯の模範みたいな誘いに乗るなっ!!」

 見た目は中学生で頭は小学生か!!


 と、夏香が突然引っ込む。そして今度は別の人物が顔を出した。

「あらあら、ご機嫌麗しゅうございます」

「麗しくねぇよ。ってかあんた誰だ、誘拐犯か?」

「違いますわ。私はただ、可愛いものを見ると愛でたくなるだけで……」

「だったらヌイグルミでも愛でてろ」

「ヌイグルミを愛でても何も反応が見られない! 私は反応も楽しみたいですの!」

「うるせぇ変態誘拐犯!! 絶対逃がさねえ!」

「貴方こそ、女子中学生を彼女にするなんて汚らわしいですわ!!」

「夏香は大学生だよ!」

 あとどうして恋人だって分かった!? この前冬乃に疑われたってのに!


 こうして俺とその女は、長い長いチェイスを続けることとなった。





「まさか本当にここまで追って来られるとは……」

 目の前の女は呆れたように俺の方を見る。何でお前が呆れてるんだと、俺は睨み返す。


 結局チェイスゲームは、奴の家の前まで続いた。何だってこんな面倒ごとになった。俺はただ買い物してただけなのに。

 夏香はというと、家にいたゴールデンレトリーバーとじゃれあっている。そのまま大人しくしてて欲しい。

「それで、お前は誰なんだ?」

「宇海原綺薇ですわ。して、貴方は?」

「俺は月神奏だ。んであいつはーー」

「あぁ、夏香さんのことは車でお聞きしました」

「……あっそう」


 それにしても、綺薇の口調といい、この家のでかさといい、何処か良家のお嬢様なのだろうか。だとしたら、いや、だとしても誘拐するような人間には見えないが……。


「色々聞きたいが、まず一つ。何で夏香を攫ったんだ?」

「可愛いからに決まってます! 少し愛でたら、きちんとお家まで送るつもりでしたわ」

「今、俺の中のお前のイメージが確信に変わった」

 こいつ、変態を超越した存在だ。多分綺薇は初犯じゃない。被害者のことを思うと胸が痛くなる。


「とにかく二度とこんなことするなよ。……夏香、帰るぞ」

「あはは、ゴロウってば、くすぐったいよ!」

「いつまで犬と遊んでんだよ! ほら、ゴロウも離れろ」

「夏香は凄いですわね! レックスが初対面の人に懐くなんて初めて見ましたわ!」

「ゴロウじゃねえのかよ!!」

 人の家の犬に勝手に名前つけやがって!

 だが、レックスは賢い。初めて会う俺が止めに入ると、大人しくその場に座った。


 ともかく、もうこの事件の幕は閉じた。後は夏香を連れて帰れば……。


「あ、二人とも、よろしければお茶でもいかが?」

「本当!? ご馳走様でーす!」

「さっきあんたらはお茶会してたんじゃないんですかね?」


 とまぁ、そうは行かないわけで。



 なんだかんだ、綺薇の屋敷に邪魔することとなった。

 中は予想通りホテルのように広く、むしろ生活し辛いのではないかと思ってしまうほどだ。

 様々な美術品や絵画が軒を連ね、まるで美術館のようにも見える。


「では、こちらでお待ちくださいませ」

 老年の執事に案内された部屋は客間だろうか。……いや、客間にしても広すぎる。俺の借りてる部屋と同じくらいあるじゃないか。

「はぇ〜、スッゴイ大っきい……」

「綺薇の家って、何やってるんだ?」

「美術館や博物館、動物園や水族館も運営してますわね。宇海原グループ、聞いたことくらいはございません?」

 宇海原グループ、というワードで思い出した。確かにCMで聞いたことあるな。


「そんな大企業のお嬢様の趣味が、誘拐まがいだなんてな……」

「誘拐なんて人聞きの悪い。いわばあれはゲリラ招待ですわ」

「なら招待状送って正式に呼べよ」

 と、扉がノックされる。お茶会のスタートか。

 しかし、一向に部屋に入る気配がない。どうしたのだろうか?

「……あっ! 少々お待ちになって!」

 すると慌てた様子で綺薇がドアに駆け寄る。となると、執事ではないのか。一体誰だ?


 次の瞬間、俺は目を疑った。


「マルコにザック! さぁ、お客様に挨拶なさい」

 ガラパゴスゾウガメと、それに巻きつくアミメニシキヘビだった。


「うぉぉぉうっ!? おま、何でそんなのがいるんだよ!?」

「特別な許可を得て飼育してますの。大丈夫、二匹とも良い子ですわ」

 綺薇はあっけらかんと答える。良い子ですわって、こいつら玄武みたいになってるじゃねえか!

 そうしている間にも、マルコとザックは俺に迫ってくる。


「待て待て、やめろ、ストップだマルコとザック! ってどっちがマルコでどっちがザック!?」

「カメの方がマルコ、ヘビがザックですのよ。あ、ザックは相手を気にいるとハグしてくれますわ」

「よーし分かった! とりあえずストップだザッーー」


 だがザックの反応は早かった。

 巨体に見合わない速度でマルコから離れると、俺の体を一瞬で拘束した。


「凄いですわね奏! ザック、とても貴方のこと気に入ってますわ!」

「奏凄い! アミメニシキヘビに懐かれるなんてムツ○ロウさんか奏くらいだよ!」

「い、いや、た、すけ……グフゥ!!」


 どんどん締め上げる力は強くなり、遂には甘噛みまでし始めたザック。

 意識はどんどん、薄れていった……。




 それから先のことは覚えていない。



 だが俺はそれから数日間、ザックに絞め殺される悪夢にうなされ続けた。


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