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「あのさ、シキ。あの女王さんはどうなるんだ?」
「フウキか? 一応は『騎士団』に保護してもらってはいるが」
あの戦いから一週間が経過していた。
ミオの家を直してそこを拠点にこの世界の情勢、知識を教えると共に、傷を癒していた。
「保護って、王がいなくなたら国はまずいんだろ?」
「ふふ、その辺は心配するな。『騎士団』の中に『姿写し』と呼ばれる魔法使いが居るのでな。そいつに頼めば、偽物の女王の出来上がりだ」
人の姿を他人に移す魔法使いだ。
潜入などに重宝していたが、こういう時に便利だな。
ただ、偽物がばれるまでの期間は半年と言った所か。
「騎士団っていろんなのがいるんだな」
「なぜ、そんな目で私を見るんだ? 斬るぞ♥火衣!」
「あ、ちょ、すぐ道具出すのやめて――痛いからそれ! あと物まね似てないから!」
こんな生活を続けていた。
家族がいなかった私には少し楽しいとそう思える時間が――嬉しかった。なんでこの男が急に私を助けてくれる気になったのが分からないが、この時間だけは良いと思った。
★
「元の世界に戻るか……、世界の知識、魔法を上手く使えば出来るかも知れないが」
「そっか」
「元の世界に戻りたいのか?」
「そうだね。戻りたい」
「分かった。君も命を賭けて協力してくれるのだ。私も協力は惜しまない」
元の世界が恋しいのか?
向こうの世界での立場は知らないが、やはりミオはこれまでの魔法使いとは違うのかもしれないな。
「あー、お腹減ったな。そうだ、美味しいご飯でも奢ってくださいよ」
「何? ふざるな。まだ旅の先はこれからだぞ・・・・・・と言いたいが、まあ、祝勝会だ。それに君との出会いにも感謝せねばな」
「わーい! 僕ね、お魚が食べたい」
「魚か。悪くないな」
★
その後お互いの協力を誓う為に壮大な会が行われた。
まあ、二人だけだけど。
「残る王は後8人。皆強力な魔法使いばかりだが、気を引き締めず行くぞ!」
「はいっ! え? 引き締めないんですか?」
「馬鹿者が! いちいち引き締めなければ勝てないなら、すぐに負けるぞ!」
「はっ。かっこいいです、シキさん!」
「そうだろう。もっと私を褒めろ!この馬鹿者が!」
「シキさん最高です! 一生ついていきます!」
「気持ち悪いわ!」
火衣で切った。
みねうちなので切れはしないし、そもそもに身体強化の魔法使いのミオにはいらぬ心配なのだが――そこは遊びだと言う事だ。
「いいか、次の王は――Ⅷの王だ。最初のうちに経験した方がミオにはいいと判断した」
「Ⅷの王・・・・・・確か――」
「地獄よりも燃える男」
「そう、それです!」
「私は実際には会った事がないが、何でも山にこもった男らしい。その難しい性格から、王の会合にも中々顔を出さないらしい」
「何か王って皆勝手なんですね」
「その分皆、優秀な部下を持っておるよ」
確かに今思うと部下たちの会合みたいなのが多かったな。
王が来たとしても勝手に何かやってたからしょうがないとはいえしょうがないか。
「噂では何でも拳法の使い手だとか。同じく徒手空拳の君も学ぶついでに倒してしまえ、と言う算段です」
「簡単に言わないでよ」
「なーに大丈夫だ私が付いている」
そしてこの三日後私たちは二の国を後にした。
帰り際に例の門番に説教をしたが、あの門番の事だ。すぐに忘れているだろう。
★
「いやー。まさかフウキを倒すとは驚きですね」
「そこは否定できなくね? そうじゃね?」
例の如く全員が別々な場所を見ながらそれぞれ会話をする。
「ええ。どうやったのかは教えてくれませんでしたが・・・・・・」
「秘密・・・・・・」
「そうですね。秘密なら秘密で――構いません。当面は前線で彼女に『王』の数を減らしてもらいましょう」
「えー、でもフウキは俺がやりたかったぜ。あいつ生意気で嫌いだったんだよね。きもくね?」
「当面は私の『姿写し』でごまかしておきますから。私は戦えないと思ってください」
「大丈夫だ・・・・・・」
「ふ、心強いですね。所でリーダー、最悪の魔女――『歌啼』はどうでしたか?」
『歌啼』
その言葉に他の二人は露骨に嫌な顔をする。
「あの魔女はしばらく傍観するようだ。面倒かな――だが、代わりにシキが動くのならそれでいい」
「あ、待ってくださ・・・・・・い」
リーダーはそれだけ言って姿を消してしまう。
執事風の男は何かを伝え用としたが、それを聞く前に居なくなってしまった。
「何かあったのか?」
「ええ。捕まえている、『騎士団』が保護している風来姫――フウキをどうするのか聞きたかったのですが・・・・・」
「それじゃあさ、俺にやらせろよ! 殺せるんじゃね、やるんじゃね?」
「確かに・・・・・・。王以外は殺すな。つまり王は殺していいのか・・・・・」
「ですが――やられたとは言え、腐っても王」
あなたに殺せるんですかね?
そう聞く執事風に、ヤンキー座りの男はその姿勢のまま後ろ向きに跳躍して、執事風男の前に座る。
「お前が試してみるか?」
「あなたは馬鹿ですか? 私は今戦えないと言ったのですが。まあ、弱っている相手を狙うなんてあなたらしいじゃないですか」
「あ?」
今にも殺し合いが始まりそうな雰囲気。
見かねた大男が立ち上がった。
「あ、いえ、別にこの場で争おうなんてつもりはないですよ、ねえ」
「当然じゃね、そうじゃね。俺らはあくまで『騎士団』の未来を心配してだな」
「ふむ・・・・・・。それならいいが」
大男も姿を消して、その場に残った二人。
「分かりました。フウキは貴方に任せます」
「サンクーじゃね? 39じゃね?」
「では」
執事風の男も姿を消した。
その場に残ったヤンキー男は立ち上がり首を回す。
「うっし、それじゃあ殺しに行きますか、行くんじゃね?」




