第1話
いつもお読みいただきありがとうございます。
先輩からのアドバイスを受けて、長くなっていた第1話を2話に分け、公開し直しました。あわせて、一部の展開も修正しています。
第3話以降は現在執筆中です。更新まで、もうしばらくお待ちいただけると嬉しいです。
湿った空気の中に、腐った植物と機械油が混ざり合った臭いが漂っていた。廃鉄同然の大型機械が一度轟音を響かせ、それから沈黙した。無数の擦り傷がついたハッチがゆっくりと開き、一人の少年が這い出てきた。彼は油まみれの手袋を叩いて汚れを払い、外すと、工具箱と一緒に脇の作業台へ置いた。
「うん、『オモニア』、起動成功だ」
「おー、ヤハド! だから言ったでしょ、ヤハドならできるって!」
同い年くらいの少女が跳ねるように駆けてきて、『オモニア』の周りを一周すると、作業台の縁に跳び乗って腰を下ろし、彼の肩をぐいと抱き寄せた。
「ねえ、機体を操縦するにも通信オペレーターが必要でしょ? あたしが手伝ってあげようか?」
ヤハドは少し首を傾け、肩に掛かったオレンジ色の髪をそっと払った。
「じゃあ、頼むよ。ほかのみんなはいつ戻るんだ? それと、髪そろそろ切ったほうがいいよ、タリア」
タリアは口をへの字に曲げ、壁の写真に目をやった。その視線はヤハドのところで少し長く止まった。
「まあ、特に問題がなければ明日の夜かな。せっかくの休暇だし……きっと家族とゆっくり過ごすんだろうね」
ヤハドも彼女の視線を追って、写真を見た。
壁の写真の縁には灰色のカビが生えていた。五人が並び、全員が同じ制服を着ていた。タリアはヤハドの隣で少し身を乗り出し、笑みを浮かべたまま、右手で頬の横にピースサインをしていた。写真の反対側では、もう一人の少女が怯えた様子でレンズを見つめ、口元に少し笑みを浮かべかけたが、うまく笑えていない。両手を胸の前で軽く握り、指の関節が少しこわばっていた。背の高い男がヤハドの隣に立ち、片手をしっかりと彼の肩に置いていた。まっすぐレンズを見据えるその表情には、迷いがなかった。男の前に立つ少年は、それで余計に小柄に見えた。両腕でネット端末を抱え、画面の冷たい光が、こわばった腕を照らしていた。
雨が上がって間もなく、彼らは『オモニア』を外の空き地へ動かした。機体は一歩ごとにぬかるみへ沈み、深い足跡を残していく。足跡の縁から、水がゆっくりと滲み戻ってきた。
起動、歩行、旋回。基礎テストはどれも問題なく終わり、タリアはノートをめくっていくつかの測定値を書き留めると、鉛筆を軽く揺らしながら項目の横に次々とチェックを入れていった。
「次は推進テスト?」
彼女は咥えていた鉛筆を離し、少し首を傾けて無線機に問いかけた。
水たまりに映った建物の影が砕けた。推進器の炎が水煙を貫き、流れるような線を描いた。水たまりは気流に切り裂かれ、二筋の白い波がコンテナに叩きつけられ、水の壁になった。
水煙が押し寄せ、世界が白く霞んだ。
タリアは「ひゃっ」と声を上げ、レインコートを引っつかんでコンテナの陰に縮こまった。それからひょこっと顔を出すと、『オモニア』はもう遠くに停まっていた。空中に漂う水煙がゆっくりと崩れ落ち、暗橙色の光が点滅していた。霧が晴れると、装甲に薄く水気が付いて光っているだけだった。
彼女はフードをむしり取ると、身軽にコンテナへよじ登り、飛び跳ねて彼に手を振った。
「0.85秒!」
その声が終わるか終わらないうちに、足元が滑り、彼女はコンテナの上から転げ落ちた。
「まあ、平気平気」
タリアはノートについた水を振り払い、尻をさすりながら無線機に向かって言った。
「あとは最後の武器テストだけ。発煙装置は前に試したから、残るはあいつだけよね!」
HX-MPB-03E/P5「グングニル」。武器と言うより、もはや杭打ち機だった。前世紀、機甲部隊が生まれたばかりの頃の旧型製品だ。この新興分野で、当時は誰もが一儲けしようとしていた。傭兵たちも例外ではない。彼らには良い機体も良い武器も買えなかった。そこに目を付けた企業が、工農業用の生産ラインを一時的に改造して、安全設計をろくにしていない武器を大量に作り、傭兵たちに売った。グングニルもその一つで、今の『オモニア』に搭載されている唯一の武器だった。
ヤハドは短く応じ、操縦桿の弾薬装填ボタンを押した。グングニル尾部の油圧ロッドが動き、弾薬が一発押し込まれる。回転弾倉が「カチッ」と一コマ回り、空の薬室が現れた。
「装填システムは問題なし」
彼は計器盤を確認した。
「弾薬は全部で六発。三回に分けて装填して、多発装填の威力を試したい」
「オッケー。でも気をつけてね。何か壊しちゃダメよ」
ヤハドは画面を一瞥し、右下の巨大な岩に照準を合わせた。
パイル先端を岩面に押し当てた。低く張り詰めた唸りがグングニルの内部から漏れた。パイルが打ち込まれる音は、湿った土に鉄槌を叩き込んだように鈍かった。
油圧アームがパイル本体を引き戻すと、岩面には深い穴ができ、放射状の亀裂が走った。
弾倉が二度回転し、二発の弾薬が装填された。
もう一度打ち込むと、鈍い響きは短い爆裂音に変わった。巨岩は亀裂に沿って砕け、四方へ飛び散り、大量の濁水を跳ね上げた。石屑と水煙が混ざり合い、機体の前方に灰色の塵が幕のように炸裂した。
左腕がぐっと後ろへ押し返された。ヤハドは思わず操縦桿を握りしめた。
「威力は予想より大きいな。タリア、怪我はないか?」
「安心して、あたしは遠くにいるから。でも、三回目もやるの? もう撃つものなんてないわよ。コンテナを壊したら、次の任務の報酬が消えちゃうんだから」
ヘルメットの無線越しに、興奮を隠せない少女の声が届いた。
最後の三発の弾薬が装填され、機体の左腕が水平に上がり、パイル本体が何もない空間を指した。ヤハドの視界には、雨上がりの空気と遠くの都市があるだけだった。
「うん、空に向かって撃ってみたい」
皿ばね群が限界まで圧縮され、唸りが張り詰めた。
引き金を引くと、パイル本体が勢いよく飛び出したが、ストローク端で力ずくで引き止められた。残った反動が肩の関節に強くかかり、左腕全体が後方へ激しく振り回された。肘関節の接続部から、短く乾いた音がした。脆い鉄片をへし折ったような音だった。
『オモニア』はよろめいてからようやく体勢を立て直した。右脚を二メートルほど後ろへ引いて、浅い溝を穿った。左腕はだらりと体側に垂れ、装甲板がずれて隙間が開き、その下から油の滲む油圧継手が露出していた。油が一滴、また一滴と泥の地面に落ち、小さな油膜を作っていった。ヤハドは機体の左腕を動かそうとしたが、まるで機体に接続されていないかのようだった。
「三倍以上の反動には耐えられないのか」
ヤハドはシートベルトを外し、揺れで床に落ちた写真立てを拾い上げ、改めて座り直した。ヘルメットから焦った声が響いた。
「ヤハド?! 大丈夫?! 頭を打ったりしてない……」
「平気だ。コックピットが少し揺れただけだ。前にタリアの提案どおりに改良したはずなんだが……ん?」
背後のケーブルに赤い電流が走った。理由もなく苛立ちが込み上げ、ヤハドはタリアの言葉を遮った。それから勢いよく振り返った。誰もいない。だが、誰かに見られているような気がした。
「悪い、タリア。最近少し疲れているんだ。言い方がきつくなった。明日、あのピザ屋に連れて行くよ」
「もう、ばか……」
ヤハドは小さく笑い、写真立ての汚れを手で拭った。写真の中では四人が並んでいて、あの背の高い男の位置だけが空いていた。
空が暗くなり始め、夕日が『オモニア』の銀灰色の装甲を淡く染めた。機体は再び動き出し、先ほど踏み抜いた深い足跡に沿って、左腕を引きずりながら格納庫へ戻っていった。タリアはため息をつき、その後を追った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
本作が初めての小説執筆となります。至らない点や拙い表現もあるかと思いますが、温かく見守っていただけると幸いです。
更新は不定期になります。気長にお付き合いいただけますと嬉しいです。
もしよろしければ、ブックマークや感想などで応援していただけると、とても励みになります。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。




