第一話「禁じられた丘」
丘には、近づいてはいけない。
物心ついた頃から、そう言われてきた。
理由は教えてもらえなかった。「いけないものだから」と大人は言った。「昔からそう決まっているから」と老いた者は言った。誰も、なぜかを言わなかった。
ルカは十四だった。
なぜかを知りたい年頃だった。
トガ族の集落は、山の中腹にあった。
百人ほどの鬼が、石造りの家を肩を寄せ合うように建てて暮らしていた。子供が走り回り、老いた者が軒先で干し肉を作り、若い鬼が山の獣を追って戻ってくる。それがトガ族の日常だった。
集落の北の端に、急な斜面があった。
その上に、丘があった。
丘の上には、古い木が一本立っていた。それだけだった。家もなく、畑もなく、ただ一本の木が、空を向いて立っていた。
しかし、誰も近づかなかった。
「あの丘はサブレ様のものだ」と大人は言った。
サブレ様。
ルカは子供の頃から、その名前を聞いていた。しかし会ったことはなかった。顔を見たこともなかった。ただ、その名前を聞くたびに、大人の顔が変わった。声が低くなった。目が、遠くを見る目になった。
怖れているのか、敬っているのか、ルカには区別がつかなかった。
セナが先に言い出した。
「行ってみたい」とセナは言った。集落の外れの岩の上で、二人が並んで座っていた夕方のことだった。
「禁じられているぞ」とルカは言った。
「禁じられているのは知っている」とセナは言った。「でも、なぜ禁じられているかは知らない。なぜかを知るためには、行くしかない」
「父上に叱られる」
「叱られるかどうかは、戻ってから考える」とセナは言った。
セナは十三だった。ルカより一つ下だったが、決断は早かった。物事を決める速さが、ルカとは違った。ルカが考えている間に、セナは動いていた。
「見るだけでいい」とセナは言った。「上まで行かなくてもいい。近くまで行って、何があるかを見る。それだけだ」
「それだけか」
「それだけ」
ルカは丘の方を見た。
夕暮れの中に、丘の上の木が黒く見えた。枝が広がって、空を切り取っていた。
「明日」とルカは言った。
「明日?」
「明日の朝早く、行こう。父上が起きる前に」
セナは少しの間、ルカを見た。
それから、頷いた。
「明日の朝」と言った。
翌朝、まだ霧が出ている時間に、二人は集落を出た。
誰も起きていなかった。火を起こす煙が一本、遠くの家から上がっていたが、それだけだった。
北の斜面を登り始めた。
草が濡れていた。足元が滑った。ルカが先を行き、セナが後を追った。
「急ぎすぎだ」とセナが言った。
「急がないと誰かに見られる」
「誰も起きていない」
「起きているかもしれない」
「起きていたとしても、見ていないかもしれない」
「見ているかもしれない」
「あなたは心配が多い」とセナは言った。
「お前が少なすぎる」とルカは言った。
二人は斜面を登り続けた。
丘の手前まで来た時、ルカは立ち止まった。
何かがあった。
空気が違った。
集落の空気と、丘の周りの空気が、はっきりと違った。どう違うかを言葉にするのは難しかった。しかし、確かに違った。
重い、という感じではなかった。むしろ逆だった。
軽かった。
古い、静かな軽さだった。長い時間が積み重なって、逆に軽くなったような。
「感じるか」とルカは言った。
「感じる」とセナは言った。「空気が違う」
「どう違うと思う」
「古い」とセナは言った。「とても古い空気だ」
二人は丘の入り口に立った。
木が見えた。近くで見ると、大きかった。幹が太く、枝が複雑に絡み合っていた。何百年も生きているような木だった。
その木の根元に、誰かが座っていた。
人の形をしていた。
しかし人ではなかった。
背が高かった。古い着物を着ていた。布の色は黒でも白でもなく、何十年も日に焼けたような、山と灰のあいだの色だった。
顔は、老人だった。深い皺。白い長い髪。
しかし目が、老人ではなかった。
目が、金色だった。
その金色の目が、ゆっくりとルカとセナの方を向いた。
二人は動けなかった。
逃げようとも思わなかった。ただ、立っていた。
老いた者は、二人をしばらく見ていた。
それから、口を開いた。
「来たか」と言った。
声が、低く、静かだった。川の底から来るような声だった。
「来たか、とは」とルカは言った。声が震えた。
「いつか来ると思っていた」と老いた者は言った。「遅いくらいだ」
「あなたが、サブレ様ですか」とセナが言った。
老いた者は、セナを見た。
「そうだ」と言った。
「なぜ丘に近づいてはいけないと言われているんですか」とセナはすぐに聞いた。
ルカは隣で、セナを見た。
今聞くのか、と思った。
しかしサブレ様は怒らなかった。
「近づいてはいけない、と言ったことはない」とサブレ様は言った。「誰かが勝手にそう決めた。私は何も言っていない」
「では、来てもよかったんですか」
「よかった」とサブレ様は言った。「来たかった者が来ればいい。それだけだ」
ルカはサブレ様を見た。
金色の目が、ルカを見ていた。
まっすぐに、ルカだけを見ていた。
「お前の名は」とサブレ様はルカに言った。
「ルカです」
「クダの子か」
「そうです」
サブレ様は少しの間、ルカを見た。
何かを確かめるように。
「そうか」とやがて言った。「そうか、来たか」
また、来たか、という言葉だった。
「サブレ様」とルカは言った。「『来たか』というのは、どういう意味ですか。私が来ることを、知っていたんですか」
サブレ様は木の根元から立ち上がった。
ゆっくりと。しかし、背が伸びた時、その大きさに、ルカは改めて圧倒された。
「知っていた」とサブレ様は言った。「長い間、待っていた」
「なぜ私を待っていたんですか」
サブレ様は空を見た。霧が晴れ始めていた。朝の光が、木の枝の間から差し込んでいた。
「それは」とサブレ様は言った。「今日話すことではない」
「では、いつ」
「また来い」とサブレ様は言った。「一人でも、二人でも、来たい時に来い。私はここにいる」
それだけ言って、サブレ様は木の根元に戻った。
また座った。
目を閉じた。
まるで、最初からそこで眠っていたかのように。
二人は斜面を下りた。
集落に戻った。まだ誰も気づいていなかった。
「怖かったか」とルカは言った。
「怖かった」とセナは言った。「でも——」
「でも?」
「怖いだけじゃなかった。もっと知りたくなった」
「俺も」
「あの目が」とセナは言った。「金色の目が、ずっと頭にある」
「ああ」とルカは言った。「何百年も生きた目だと思った」
「何百年も生きると、目はあんな色になるのか」
「分からない。でも——」
「でも?」
「あの目は、悲しい目だと思った」とルカは言った。「怖い目じゃなかった。悲しい目だった」
セナはルカを見た。
「そうだ」とセナは言った。「悲しい目だった。ずっとずっと、何かを待ち続けてきた目だった」
朝の霧が、完全に晴れていた。
集落に朝の煙が上がり始めていた。
「また行こう」とルカは言った。
「行く」とセナは言った。
二人は集落へ向かって歩いた。
丘の上では、サブレ様が木の根元に座っていた。
目を閉じていた。
しかしその耳が、かすかに動いた。
二人の足音が遠ざかっていくのを、聞いていた。
(第一話 了)
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