終章 挑戦
この物語はフィクションです。実際の団体、個人などとは一切関係がありません。
また、連載小説という形態をとっていますが、作者は気まぐれなため続くかは未定です。もしも楽しみにしていてくださる方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。
引退から四年が経った。
今までの四年間は野球の解説業をしながら、現役中には取ることが困難だった、家族との時間を優先して過ごしてきた。
「もうそろそろ、シーズンも終わりね」
実から今年も終わるのだ、という懐かしみの籠った声でそう言われた。
「そうだな。でもどうだろうなあ。俺は辞めてから時間たって、シーズン終わりが今年の終わりって感覚は無くなったし」
以前なら、シーズンが終わったら「もう少しで休める」と歓喜していた。
今はシーズン中でも休めるし、シーズン後に仕事がある。
良く言えば、自由に仕事ができるようになったといえるし、悪く言えば曖昧になった気がする。
「なんか、私だけが抜けきってないみたいじゃない」
「体に染みついちゃうと、なかなか抜けないもんだよな」
かくいう自分も、毎日のランニングや素振りは続けている。人の事は言えない。
一つ、大きな欠伸をした。
「今日は何もないのよね。二人が学校に行ってる間に、一緒に外で食べない?」
「ああ…やることはコラム書くぐらいかな。よし、行くか」
実がニッコリ笑いながら部屋に入っていく。出かけるために必要なものを取りに行ったのだろう。
(自分も着替えておくか)
そう思ってクローゼットに手が伸びた瞬間、自分のスマホが鳴り始めた。
「チームの為に、選手の意見を聞きながらコーチングを全うしたいと思います」
パイプ椅子、長机、そして造花。目の前には報道陣が詰めかけている。
「次で最後の質問とさせていただきます」
司会者から、切り上げの言葉が発せられた。手を挙げたのは、真ん中付近に座っているベージュ色の服を着た女性だった。
「今回の一、二軍の首脳陣には同期で育成入団をされた方々がいらっしゃいます。現役時代は”華の育成組”と呼ばれていましたが、何か思い入れはありますか?」
(やっぱり訊かれるよなあ)
というのが正直な感想だ。自分は少し苦笑した。
「まあ、その…なんていうんですかね。無いですね」
笑い含みでそう答えると、記者席からもクスクスと笑う声が漏れ出てきた。
「そ、そうですか。ありがとうございます…」
女性記者は、どこか申し訳なさそうな顔をしていたので
「自分たち、長いんで」
と、補足しておいた。
「おまえ、これさあ…」
高田がスポーツ新聞を広げながら、自分に突き付けてきた。
目の前に迫る「思い入れはないですね」の文字。
(因縁のつけ方がいやらしい)
「お前、これからコーチとして連携していくのに初っ端から冷たいこと言うよな」
「もう思い入れがどうこう言う年じゃないだろ」
「そういうのを薄情っつうんだよ」
「こうやって人の前で言い散らかすのも、どうかと思うぞ」
選手たちが怪訝そうな顔をしてこちらを見てきている。あまり、こういったことで注目を集めたくない。
「宇田川は外野でアップ中、佐藤は投手陣とおしゃべり、辻はベンチでメモを見てて、桑原は…監督だもんな、まだベンチ裏にいるか」
「四人はもう仕事を始めてるし、俺たちも準備するか」
「そうだな。俺は若手に声かけてくるよ。とりあえず顔だけ知ってもらおうかな」
「わかった。俺はブルペンいかないと。キャッチャーはそっち集合だし」
「おっしゃ…去年のバッツって何位だっけ」
「とぼけんなよ。ドベだろ」
「…がんばるか。頼んだぞ、高田」
「言うなよ。萎えるだろ」
「お前なあ…」
どうにも締まらないが、ここから自分たちのシーズンは始まる。
「集合。まず自己紹介から。来年から監督になった桑原です。そっちがチーフコーチの佐藤。その左にいるのがバッティングコーチの斎藤。右にいるのがピッチングコーチの辻と、内野守備走塁コーチの宇田川。そんで、後ろからこっちを見てるのがバッテリーコーチの高田。外野の杉村コーチは、データを総覧しているのであとで来ます。まだ秋だけど、来シーズンはもう始まってるからな。特に今シーズンは悔しい思いしてる分、キャンプでぶつけろ。追い込んでけよ。始めるぞ!」
自分たちの青春は一度終わった。でもこれから、二回目の青春が始まる。
生涯成績
8305打席 7329打数 2209安打
.3014 220本 1170打点
535二塁打 42三塁打 23犠打
48犠飛 72死球 57盗塁
出塁率 .376 長打率 .4759 OPS .8519




