追い詰められたら魔王を召喚
私はカイユーの別れを聞いて彼に縋りつくどころか、もう何度目だろうかと頭のどこかがぶちっと切れた。
カイユーと一緒になるためと、恋もしていない相手に気を使って二日も一緒にいたというのに、カイユーは全くわかってくれなかったのだ。
「わかった。カイユー。あなたの気持ちも考えもよくわかったわ。何度も言うけど、私はあなたと結婚できなければ一生独身でいるつもりなの。呪印が残ってもそんなのかまわない。アルバートルが右腕を切り落としてくれるもの。ダグド領なら片腕でも暮らしていける。だから、大丈夫。一人でも生きていける。」
「この馬鹿が!」
「うるさい!」
言い返されたカイユーは見るからにびくっとなった。
私は物凄く怒っているのだ。
「もう、何度目よ。何度何度同じことを言わせるのよ!私はあなたが嫌と言ってもあなたを愛しているの。あなたも私を愛しているなら黙って愛されていなさいよ!ええ、結婚したくない、別の女性を好きになった。いいわよ、好きになさいよ。でもね、これは私の心なの。私の好きに使っていい心なの。あなたに恋するなって言われても、私が気持ちを変えるはずは無いでしょう!この、馬鹿たれ!」
酸素が無くなるほどにカイユーを怒鳴った私は、くるっと後ろを振り向いて、私と同じ心意気の男にも叫んでやった。
「アール!あなたも私が好きなんだったら好きでいいの。私の心がそっちに行かなくて辛いならやめなさい。辛くないなら好きでいていいわよ!ただし、これはなしよ!」
右手首を持ち上げた。
そして、いちいち二人を交互に見るのは面倒だと、彼等から後退っていき、そして、彼等が二人一緒に視界に入るぐらいの所で止まると私は大声をあげた。
「これは無し!フェアじゃ無いもの!私は今すぐにこの腕を斬り捨てる。いいこと、もう決めたの。もう頭にきた。あなた方は私を影だと思っているんでしょう!何とでもなると思っているんでしょう!なんないわよ!なってたまるか!私は私で好きにする!」
大きく息を吸って、そして、私は黒い天使を呼び寄せた。
「シロちゃん!私の下に来て!」
輪のようになった私達の真ん中に、白いファーコートに身を包んだ可愛らしい魔王がぽんと現れた。
召喚された事が嬉しくて堪らないという顔の、笑顔の魔王は私の望み通りに大きな大きな園芸ばさみを掲げている。
私は素晴らしき魔王にその右腕をぐいっと差し出した。
「さあ、やって頂戴。」
「ちょっと待って、ノーラ!別れないから!だからそれは止めて!」
「やめて下さい!ノーラ、止めるんだ!」
大きなはさみは私の右手首に向けられた。
「ダメだって、シロちゃん!」
カイユーがシロロを抱きかかえたが、勢いが余り過ぎたのか、反動でシロロごと彼は後ろに転んだ。
そして、私を止めたアールは自分の右手に向かって呪文を唱えており、その右手を私に振り払う感じで向けた。
「あ、ッ!」
右手首が千切れ飛ぶような衝撃を受け、私の手首はぼうっとオレンジ色の炎で燃え上がり、けれど、炎がしゅんと消えた後には右手首は綺麗なままだった。
服は燃えていたが、手首は真っ新な手首のままだ。
手を握ったり開いたりと何度もするが違和感もない。
「アール。あなたにお礼を言うべきね。」
「ハハ。お見通しでしたか?私が自分の意志で呪印を消す事が出来ると。」
「いいえ。消せないと思ったから二日の約束を受け入れたのよ。消せると知っていたらその場で消して貰っていた。それで、ちゃんとあなたと話し合いをしていたと思うわ。私のこの性格じゃ、話し合いにはならないかもしれないけれど。」
アールは物凄く楽しそうに笑い声をあげると、私に右腕を差し出した。
二の腕から先が消えた服の袖は下に垂れて揺れている。
「アール。」
「呪印の解放のペナルティです。腕の再生まで二か月か三か月はかかりますが、ちゃんと元通りにはなりますよ。そこはご心配なく。」
私はアールの腕の無くなった腕に自分の腕を巻き付けた。
「約束だわ。私はあなたがコポポルに帰るまで一緒にいます。」
「ベッドも?」
「そこは最初から含まれていないでしょう。」
「ハハハ、確かに。だが君と一緒なのはとても素敵だ。そして、ええ、辛いが楽しい方が大きいのであなたへの恋心は消しません。今度から何時でも直接にあなたに会いに来ます。」
「まあ、うれしいわ。」
「あなたは婚約破棄されてフリーらしいですし。」
「フリーじゃないよ!ノーラ!俺は別れないし、俺は婚約者のままだから!」
シロロを抱っこしたままのカイユーが私に叫んだ。
「え、だって。」
「だって、団長がノーラの腕を切り落とすって言うんだもん。俺はノーラが死ぬのが一番嫌なんだよ!だったらノーラと別れて来いって、団長が。」
私の頭の中でアルバートルがそれ見た事か顔でガッツポーズしており、本物に会った時には絶対に殴ってやろうと心に決めた。




