二日目12月1日
二日目はとっても静かに始まって、とっても静かに終わろうとしていた。
私達は昨日と同じように一緒にご飯を作り、一緒に食べて、そしてお互いにそれぞれ好きなことをした。
彼は仕事をしなくて良い休日だからと居間で転がり、私は彼に頼まれて彼のローブの前立てに刺繍をしていた。
前日に私が刺繍したせいでシロロの服が呪いの服になったという笑い話を話したのだが、アールはその呪いの服が自分も欲しいと言い出したのだ。
「あなたが考えている以上に、私はとってもセンスが無いと有名よ。」
「ハハハハ。そこがいいのですよ。王様って決まりきった素晴らしいものしか身に付けられないものですからね。愛情のこもった変な刺繍なんて、絶対に手に入れる機会が無いものです。魔王様もかなりお喜びになられたでしょう。」
確かに。
シロロは本気で嬉しいと私に言わなかったか。
私が作ったクッキー入れの巾着だって、どんなにエレノーラの可愛い服に似合わなくても絶対にベルトに結び付けていてくれる。
そこでアールの言う通りにせっせと刺繍してしまったのだが、やっぱり私にはセンスが無いのだという事が身に染みただけだった。
ひと針ひと針、優しいアールの思い出になればいいと大事に縫ったのにも関わらず、私の刺繍の出来上がりはあまり良いものと言えない。
どうしようと、堪らなく不安になってしまった。
ああ、大事な彼を傷つけてしまったらどうしようと、アールに彼のローブを見える様にして持ち上げた。
「ごめんなさい。やっぱり最悪な出来よ、あなた。」
「どれどれ。うわあ、最高だ。これは毎日笑っていられる。これこそ傑作と言うものじゃないかな。」
見直してみて、金色の葉脈が入った葉っぱはそれだけだと見事な美しいものなのだが、葉っぱと蔓と花の連続模様となると、やはり悪魔の象形文字の綴りにも見えてくるから不思議だ。
「私はどうしてセンスが無いのかしら。あなたの服に申し訳ない事をしてしまったわね。」
「いいや。私は愛する君がひと針ひと針と私を思いながら刺繍してくれたことこそ幸せだよ。疲れただろう。さあ、おいで、君の肩を解してあげよう。」
アールは私の返事の前に私を自分に引き寄せた。
「ああ。」
私から吐息が漏れてしまったのは仕方がない。
彼の大きくて温かい手は私の固く冷えてしまった肩を温めてほぐし、その行為によって体中に温かい血をめぐらして体を温めて私に微睡みさえ誘うのだ。
「ああ。」
「ああ、美しいよ、君。今すぐにベッドに連れて行きたいくらいだ。」
アールは私のうなじに口づけた。
私はアルバートルのキスがパッと頭に浮かびあがり、私の目はパッと見開いた。
「うわ!」
「うわ!」
ごちんと私の後頭部がアールの顎か鼻に当たってしまったが、私はそのことを謝るどころかアールに怒りをぶつけていた。
「今私の記憶というか、意識がおかしくなっていた!私はあなたを婚約者だと思い込んでいた。アール、あなたは私に何をしたの!」
鼻を押さえていた男は、あからさまな驚きと怒りの籠った声を上げた。
「うなじのキスは誰にされていた!」
「今の行為と関係あるの?ちょっと教えて欲しいのですけど。教える気がないのなら、ねぇ、カウンターはロックでいいわ。シロちゃんを呼んで聞きます。」
シロロの名に、いくら永遠の命を持つ妖精でもひどく慌てだした。
「待って。済まなかった。私は小技を使った。」
「小技?」
「ああ。呪印を受けている君が私の事を考えながら私のものを作ることで君の意識は私だけに向く。そこで、君が恋人から受けたキスと同じものを与えれば、ええと。」
「与えれば?」
アールは観念したかのように両目を閉じた。
「君は私のものになった。」
「このばかたれが!恥知らず!」
私は一国の王様をクッションで叩いて罵倒してしまっていたが、私の頭の中でガッツポーズを取っているアルバートルも殴ってしまいたい気持ちだった。
どうしてここぞの助けがあなたなのよって。




