看病という名の口説き
アルバートルの消えた戸口に向かって、私は意味の解らないアルバートルへの愚痴を呟いていた。
「もう。謝るくらいなら意地悪しなければいいのにって、意地悪じゃ無いわね。誰かが言わなきゃいけないことを言っただけよね。はぁ、大変よね。団長とか、兄とか、年長って奴は。」
「あと、王様って奴もですよ。」
戸口からひょいと顔を出したのは、自分で言う通りに王様の筈のアールだ。
「まぁ、アール。あなたはお仕事は?」
「私は王様ですから。」
「まぁ!。」
私用に軽食と紅茶のトレイを持った男は、まるで新婚の夫が妻に見せるような笑顔を私に見せ、いそいそと私の枕元にまで歩いてきた。
それから彼はベッドサイドのテーブルにトレイを置くと、アルバートルと違い、ゆっくりと慎重そうにベッドに腰を下ろした。
「ノーラ。私を罵って下さい。」
「私にはそんな趣味はありません。」
「違います。私にだって、ハハハ、無いですよ。ただね、これから一週間あなたと一緒だって事が嬉しくて。すいません。あなたの怪我を心配するべきなのに、私はあなたがここにいて嬉しいと、ええ、生きているあなたがいると、それだけで、……。」
私は手を伸ばしてアールの手を握った。
「あなたって、泣き上戸なのね。」
「いいえ。あなたのお陰です。長く生きていると、とてもとても、感覚が麻痺してしまうのですよ。私達は人間のように外見も年を取りますが、一定の年齢に達すると再び若返ってのやり直しです。繰り返すたびに、辛いも、嬉しいも、それほど感じなくなってしまう。でも、あなたのお陰で、私はとても楽しい。父のようにこのまま人間として生を全うしたいほどに。」
彼はそこで大きく息をつくと、私に捕まれていない手で私の頬をそっと触れた。
撫でるのではなく、私の頬に手の平が触れるか触れないか、その位の繊細な触れ方だ。
私はその大きな手の平に自分から頬を当てた。
カイユーの手の平はどんなだろうかと考える私は最低だが、でも、アールの手もとても温かく、私は昨夜から今朝のこの時にかけて自分がとっても不安であったのだとようやく認めた。
認めた途端に、私はとても怖かったのだと涙が次から次へと零れ、あぁ、私は嗚咽まであげて泣き出してしまったではないか。
けれど、泣く私を抱きしめるアールは温かく、そして、私が泣き出す前と違ってなんだかリラックスしているようだった。
私の頭を撫でながら、彼は鼻歌までも歌っているではないか。
「あなた。なんだか嬉しそうね。」
「憧れの君が腕の中にいる。」
「もう!いやらしい!」
私は彼を撥ね退けようと彼の胸を押したが彼はびくともせず、それどころか高らかな笑い声を立てて私をもっと強く抱きしめた。
「ははは。それでこそ君だ。あぁ、君である君をもうすこしだけ抱きしめさせてくれ。私に怒ってくれても構わない。あとで殴られてもいい。生きている君を私に感じさせてくれ!」
「アール。心配かけてごめんなさい。」
「いいよ。心配で死にそうになって、私は生きているって感じられたからね。次は幸せで死にそうって思わせてくれ。」
「アールったら。」
アルバートルも冷静過ぎる私を怒らせたかったのかもしれない。
次に会ったら、あなたは私を死ぬほど心配していたのね、と、彼を揶揄おう。
あるいは、あなたって寝顔が可愛いのねって言ってやるのもいいかもしれない。




