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黒竜の養女となったノーラさんの備忘録  作者: 蔵前
再びのコポポル国!
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なぜあなたがここにいる

 昨夜は王宮に運ばれた後どころか、馬車に乗せられた数分後から先の事は覚えていない。

 私は馬車の中で再び意識を失い、次に目覚めたのは早朝である。

 大きくて清潔で柔らかなベッドにシルクのガウンを羽織った姿で横たわっており、私の隣にはシロロが眠りこけていた。

 真っ白なコポポルの民族衣装を着て横たわっている姿は天使そのもので、なんて可愛いとそれだけで胸が温かくなった。


「ぐぉ。」


 聞きなれないいびきを聞いたとゆっくりと部屋を見回すと、なんと、私の横たわるベッドの脇に一人掛けのソファが置かれていたが、そこにアルバートルが足を投げ出して眠っているのだ。


「ええと。」


 どうしてアルバートル。

 普通だったら、いや、あの状況だったらアールかエランでは無いのか。

 けれど不思議に思っても、ダグドがアルバートルの外見をべた褒めする通り、彼の寝顔は本気で素晴らしい鑑賞物でしかなかった。


 放っておこう。


 私はそう決めて再び可愛らしいシロロを見返して、数秒前と変わらないどころか可愛らしさが増しているようで、ついに彼の頬をつついてしまった。

 彼はぱっと目を開けた。


「ねえさ……ま?ねえさま!ああ姉さま!」


 彼は私にしがみ付き大声で泣き出した。

 その声に釣られたのか次々と私の様子を見に戸口を覗く者が現れ、誰も彼も私の生還を声を上げて喜んでくれた。

 泣き止んだシロロは腹をぐうぐうと鳴らし始め、聞けばシロロのくせに昨夜からご飯を食べていないとのことだ。

 そこで、私を心配していた人達に食事をとって休んで欲しいとお願いし、私と一緒に食べると言い募るシロロはエランに頼んで朝食へ行かせた。

 エランこそ食事が必要なほどに、目元は真っ黒で頬もげっそりと見えるぐらいにやつれてしていたのだから。


「あなたは食事に行かないの?」


「一晩中起きていたんだ。一晩中起きて君に言いたい事があったんだ。言ってから飯にするよ。」


 寝ていなかった振りをしたアルバートルによると、私はとっても危険な危篤状態だったらしい。

 そして、危篤状態だったからこそアルバートルが駆け付けており、彼は私がもしもの際にはダグド領に私を魔法移動させる準備もしていたそうだ。


「どうせ死ぬなら、一瞬でも連れ帰ってやろうかってね。」


 アルバートルはソファの背もたれに背中をどさっと大きく持たれさせ、天井に向かって大きなため息を吐くようにして続けた。


「あぁ、俺は君の吐息が止まるごとに、一々死んでいないか死にかけなのかと、一晩中神経を張らせてもらったよ。」


「ありがとう。あなたが寝ている間に死ななくて良かったわ。」


 彼は身を起こすと、私を睨みつけた。

 私は余裕そうに笑ってみせた。


「カイユーがコカトリスに蹴られて三日三晩、君は鳥籠に潰されて一週間か。次はエランが鳥関係で一か月の重傷になるのかな。」


「あなたの一晩中言いたかった事って、単なる皮肉?」


 アルバートルはふんっと鼻を鳴らすと、この馬鹿と言い切った。


「ばか、ですって?」


「バカだろ。君は。聞いたよ、暴れたんだってね。そうしたら鳥籠がドーンか。あの老獪な爺様一人に任せて背中に隠れていれば、そーんな怪我をしなかったね。いいか、次からは一切動くなよ。俺の隊の連中がボディガードしている時は、特に、絶対に、だ。言う事を聞かなかったらね、俺が君の脚の骨を折るぞ。」


 私は自分を睨むアルバートルを睨み返した。

 すると彼は再びふんと鼻を鳴らすと、どかっと私のベッドに腰を掛けた。

 大柄の彼の体重を受けたベッドは大きく揺れ、私の脚はその揺れによって大きな痛みを受ける事となった。


「痛った!アルバートル!あなたって、って、え?」


 彼はベッドに腰かけたままベッドの揺れを抑えようとでもいうのか、上半身をベッドに伏せる様にしてベッドを押さえつけているという格好をしている。

 顔色までも真っ青だ。

 アルバートルは揺れが収まるや大きく息を吐き出し、今までの居丈高はどこへやら、私を伺うような上目遣いで私を見返して来た。


「だいじょうぶか?」


 とりあえず、私は返事代りに今じゃないと絶対にできないことをした。

 ぱしっとアルバートルの額を叩いたのだ。


「つっ!」


「私も痛かったもの。お返し。」


「いや、違うね。君は俺を叩けるチャンスだって、攻撃してきたんだ。」


「そう。そのとおり。いっつも叩きたいって思っていたから、いいチャンスだなって。タイミングは大事にって、本当よね。」


「いや。それは違う意味というか、違う場所で使う気がする。」


「あら、ではここでは使えない?」


 アルバートルは腕を組んでうーんと考えだし、考えるために重心が移動したからかベッドがきしみ、私の脚に再び痛みを呼び起こした。

 足さえ動くようになったらアルバートルの脛を蹴る、これを目標に頑張ろうと私は足の痛みに誓った。


「おい。」

「なによ。」


「カイユーは怪我の事を知らないし、ここに来させないからな。それから、君の怪我はダグド様にもエレノーラにも取りあえず内緒にしている。」


 アルバートルは不機嫌そうな顔を私に向けており、エレノーラへ向ける顔だと思いながら、いや、エレノーラにももう少し朗らかだと思い直した。

 彼はカイユーの身が心配で、私がカイユーを傷つける可能性ばかりを考えているのに違いない。

 それに、彼こそエレノーラの幸せに心を砕いている。


「いいわよ。構わない。他に何か?」


 彼は乱暴に立ち上がり、私に何か言おうと息を吸い、しかし、そのまま踵を返して部屋を出て行った、って出て行ってない。


「どうしたの?戸口で立ち止まって。」



「――すまない。」


 アルバートルは呟くと、そのまま部屋から今度こそ完全に出て行った。

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