表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒竜の養女となったノーラさんの備忘録  作者: 蔵前
再びのコポポル国!
57/127

ザワークローゼン王国跡地の片隅で

 目を開けたら太陽の代りに星が輝き、私の横たわるそこはヤシの木が揺れるオアシスのような風景をしたどこかの庭の一角であり、そこで私が生きている事と、私が適当に放って置かれていたことを知ることとなった。


 またさらに言えば、私はグールからも鳥籠からも解放されており、血にまみれていたたために脱がされたのか全裸の身体は、アスランのローブで包まれていた。さらに、ローブがはだけないためなのか私の行動を抑制するためなのか、私はぐるぐる巻きに縛りつけられてもいるのである。

 まるで輸送用の絨毯のように、だ。


 そして、私を介抱したりするはずの男達は薪を囲んで円陣を作っており、私に背を向けたまま何やら一生懸命に話し合っている。

 うわ、ひいふう、一人増えているし。

 それもあからさまなデミヒューマンが。


 ここにカイユーがいれば、私の手を握って……いないか。

 奴だったら新たな冒険話に目を輝かせて彼らの真ん中に身を乗り出し、相棒のフェールに背中を掴まれて引っ張り下げられているだろう。

 ふうと自分の侘しい現状に息を吐き、ズキンと激痛が両足に走って大怪我をしていた自分の現状を知らしめられた。


「いったあ。」


 普段だったらそれ程上げない痛みの声だが、無視をされている可哀想な状態なのだからいいであろう。

 大丈夫?痛くない?ぐらいの声掛けは必要では無いだろうか。


――あっさりしすぎだよ。


 ごめんなさい、カイユー。

 次からは、大丈夫?怪我しないでね、ぐらいは忘れずに言うことにします。

 そして、痛みの声を上げた甲斐もあった。

 紳士なエランが声をかけて来たのだ、私の方も見ずに、だったが。


「ノーラ。動いちゃだめですよ。俺のヒールは弱いですからね。怪我は治っていませんよ。傷口を塞いだだけです。」


「ええ!エランってば銃騎士様でしょう。ヒールが使えたの?」


 後ろ向きだった男はゆっくりと振り返り、うわ、目元が泣いていたかのように腫れて赤い、そんな顔で私を睨みつけた。


「いつものあなたで嬉しいですよ。はい、使えます。俺は騎士になる前は司祭見習いでしたので、ヒールと状態異常解除の魔法は使えます。」


「あ、あと、ゴーレム殺しの魔法もですよ!」

 シロロがエランの代りに嬉しそうに言葉を続けた。


「まあ、凄い。ゴーレムも倒せたの?」


「ふふ。本当は、呪術解除の魔法なの。普通は司祭見習いでは使えないはずですが、エランのお父さんから引き継げたので使えます。凄いのです。僕の召喚魔法で消せなくなった玩具でも、エランだったら消せるんです。って、あ。」


 シロロはエランに乱暴に引き寄せられていた。


「シロロ様。俺をいつも召喚獣の中に放り込むのは、俺に玩具の後片付けをさせるつもりだっただけですか?それでもって、俺の魔法であなたの召喚獣を消せたのですね。知りませんでしたよ。ええ、ええ、知りませんでした。今まで、死にそうになりながら、これが消えれば解放されるんだって、消えることを祈りながら化け物にしがみ付いていた俺は無意味で、全くの間抜け野郎だったということなのですね。」


 エランに両肩をがしっと掴まれてガクガク揺さぶられているシロロは、完全にしまったという顔でエランから目を背けていた。

 いつもと違う赤らんだ瞼や、シロロに完全に切れているエランの様子に、今のエランはきっとシロロに召喚獣に乗せ上げられたばかりという、物凄く乗り物酔いしている状態なんだ、と憐れを感じた。


「シロロ様!」


「ふふ!許してあげて。シロちゃんは少しでも長くあなたと遊びたいだけなんだから。消してお終いじゃあ、それでお終いじゃない。」


 エランはシロロからパッと手を離し、それから、私をぎろりと睨んだ。


「そこまでシロロ様の気持ちが分かるなら、俺の気持ちだってわかって下さい!あなたがほとんど死んだようになっている姿を目にする事になった、俺の気持ちをわかって下さい!」


 エランは言い切ると再び私に背を向け、しかし、その代わりにシロロが私の元へとテテテとやって来た。

 そして、私の頭の方に両膝を折って座り込み、首の骨が折れる程に頭を下げた。


「シロちゃん。顔を上げて。私の大好きなあなたのお顔が見えない。」


「あの、ごめんなさい。」


「どうして謝るの?」


「だって、僕だけ逃げたもの?」


「逃げたの?」


「はい。行き先が違うって気が付いて、でも、姉さまとアスランは固定されているから動かせなくて、取りあえず、エランだけ連れて逃げたの。」


 私はシロロの頭を撫でようと腕を、あら、しっかり縛り付けられている状態で身動き一つできない。

 そこで、彼に向かってちゅっと唇を鳴らした。


「姉さま?」


「よくできましたのチュウよ。あそこは魔法封じの拷問部屋だったもの。一緒にいたら私は助かっていなかった。あのキレイなお花。ノウゼンカヅラはあなたが呼んだ花でしょう。」


 シロロは嬉しそうにうんうんと頭を上下させ、エランとアスランは今までの話し合いを投げ捨てたかのようにして、綺麗だったぎゃ?キレイでしたっけと言いあい始めて私に喧嘩を売っているのかと私はイラっとした。


「やっぱり姉さまは姉さまです。あの花はヴァインって名前。姉さま思い浮かべて呼び出したら生き物の生気を吸わない良い子でした。でね、ヴァインは呼び出したら姉さま目掛けて凄い勢いで地下を潜っていったの。僕とエランはヴァインの蔓に絡まって地中を移動したんだよ。でね、途中で穴掘り現場の天井も壊しちゃって、死にそうな人がいたから連れて来たの。で、それがあの人。」


 シロロはエランが本気で可哀想だった武勇伝を私に語ると、あれと言う風に確かに怪我塗れのデミヒューマンを指さした。


「ねえさま。彼はね、仲間にリンチにあったんだって。それでね、帰せないよねって、悩んでいるの。あと、ここにいるのはアールの馬車待ちです。姉さまを乱暴に動かせないから。」


 指さされた彼は、どうも、と私に頭を下げた。

 仲間からリンチを受けたからなのか、そのデミヒューマンの瞳は暗かった。叔父に殺されかけた私を思い出すぐらいに。

 私は連れて帰ればいいじゃない、と反射的に答えていた。


「ダグドの城門があなたを受け入れればあなたはダグドの民です。受け入れなければ私の客人として一週間の滞在を認めます。その間に身の振り方を考えればいい。一週間が過ぎたら、次はエランのお客として、その次はシロロ、そして最後はアスランね。」


「かっかっか。本当に嬢ちゃんは素晴らしいだぎゃ。最初はわしの客だ。デレクという息子に頼りなさい。わしが君の身代わりで君の故郷に戻ることにするぎゃ。プラタナス鉱石が見つからないんじゃろ。一つ二つ大きな石が見つかれば君の仲間は奴隷奉公が終わるのじゃろ。よしよし、全部わしに任せるぎゃ。」


 薪の火に照らされたアスランの目元はエランと同じく泣いていたように赤く、私は彼らが私を無視していたのではなく、ただ、囲んで泣いていたのかもしれないと気が付いた。


「ありがとう。私はあなた方がいる限り死なないわ。」


 すると、ぜんぜん泣いていなかったらしいシロロが、私の言葉を聞くやうわーんと泣き出した。


「シロちゃん?」


「泣いても、よしよししてくれる人がいないと泣けません。ノーラ姉さまがいつもいてくれるなら、僕はいつだって悲しいって泣けます。」


「シロちゃん、抱きしめられなくてごめんね。よしよしはあとでいっぱいしてあげるから、うん、私の胸に顔を埋めて泣きなさい。胸はいくらだって貸すわよ!」


 シロロは私の言葉通りに私の胸の辺りに顔を埋め、ただし、彼はすぐに泣き止んだどころか不穏当な事を言い出した。


「エレノーラよりもダグド様って感じがします。」


「悪かったな。胸が無くて。」


 シロロは幼いながらも藪に手を突っ込んだと気が付いたか、私の胸に顔を埋めたままポリューシュカポーレを歌い出した。

 私もそれ以上追及もしたくないのでシロロを許してもいたが、ここには真面目で融通の利かない男がいたことを忘れていた。


「いえ、スタイルの良いきれいな体でしたよ!」


「エラン!そこは黙っていても良し!っていうか、見たってばらすな!私がこれからいたたまれないでしょう。」


「卑下するような体じゃありませんでしたって!」


「もう!わかったわよ!ありがとう!最高の身体だって言ってくれて!」


「いえ、最高の体では無いです。キレイでしたが謙虚さは必要ですよ。」


 私は体が動いたらまず最初にエランを殴りに行こうと考え、そして、腕が動かせるようになったら、私の胸に顔を埋めてくすくす笑い出している魔王の頭をよしよしと撫でてやろうと自分に誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ