トランペットヴァイン
足を掴まれた私は逃げ場を失ったが、そのまま鳥籠を避ける様にして横たわり、ただし、横になる時にグールらしい兵士を自分の布団のように自分に引っ張り上げた。
逃げる者を引き寄せようとしていた男から逃げるのは困難だろうが、逆の力、逃げないで引き寄せようとするのであれば男の力も相まってスムーズに男は動く。
私はすんでのところで鳥籠の直撃からは逃げ切り、しかし、私の右脚はグールと鳥籠によって潰されてもいるようだ。
「ぎゃああ。」
「嬢ちゃん、大丈夫か!」
「大丈夫です。叫び声をあげたから、もう少しは痛みに我慢できます。」
起き上がれはしないが。
背中がとっても生暖かいし、濡れていて気持ちも悪い。
あぁ、気持ちが悪い。
「嬢ちゃんたら。わしがあと五十年若かったら、わしこそ嬢ちゃんに求婚をしたいだぎゃな。あんなぼんくらなアールにはもったいなさすぎだにゃ。」
「ははは。謹んでお断りします。絶対にあなたと夫婦喧嘩が出来そうも無いもの。」
アスランは自分に落ちて来た棺桶をグールで打ち返したようで、彼の右腕には千切れたグールの腕が握られており、その残りは棺桶と一緒に彼の娘へと直撃していた。
私達に襲いかかっていたプルーデンスは棺桶とグールに押しつぶされて、今や宝石で飾られた小さな靴を履いた足しか見えない。
その状態が、ダグドが昔語ってくれた物語の出だしのようだと、ぼんやりと考えた。
竜巻で飛ばされた少女の家が悪い魔女を押しつぶす、そんな物語の出だしだ。
良い魔女はその魔女の靴を少女に手渡して、オズという魔法の国を目指せと言うのだ。
「あぁ、私もお家に帰りたい。お家が一番だわ。あぁ、気持ちが悪い。くらくらする。目を開けていられない。」
「嬢ちゃん!今は寝ちゃダメじゃ。その状態で寝ちゃだめだぎゃ!」
横になっているせいか、ずずずずんっと、地面が揺れる振動が伝わる。
まるでゆりかごのようだ。
「あぁ、地面が揺れている。アスランが揺らしていたわけでは無いのね。って、ああ、痛い!」
「嬢ちゃん。今止血をしているだぎゃ。大丈夫だぎゃ。死んだりしない。しっかりするのじゃ。あぁ、わしがまだ力を持っていたなら。」
私の頬に水滴がぽたりと落ちて、私は再び目を開けた。
目を開けて目を開けるのではないと後悔した。
私の右足どころか左足も、グールと一緒に壊れた鳥籠によって刺し貫かれて石の床に貼り付けられているのだ。
緑色のドレスはぐっしょりと私の血によって緑色じゃ無いものに変わっている。
「あぁ、吐きそう。血が流れ過ぎての貧血なのね。」
私は死んでしまう。
「あぁ、いや。ダグド様の為に私の存在など無く消してもらうつもりなのに、つもりだったのに、私は忘れないで欲しいと。あぁ、死にたくない。」
「大丈夫だぎゃ。だいじょうぶじゃ。嬢ちゃんは死なない。わしが死なせない。ほら、しっかりするだぎゃ。寝ちゃダメだぎゃ。」
私は私の右手をいつの間にか握っていたアスランを見返し、彼に心の中で謝っていた。
彼の温かい手を、涙のにじんだ温かな眼差しを、私の大好きなカイユーだと思い込もうとしてごめんなさいと、そして、彼を瞼に思い浮かべるために目を瞑ろうとして、大きな振動を背中に受けて私の瞼は閉じれなかった。
閉じれなかったどころか、目がはっきりと開いたばかりに、私は見てはならないものを見た。
大きな大きな漏斗型のピンクとオレンジ色が混ざったような花がアスランの後ろににょっきりと生えているのだ。
「まあ、なんて大きなノウゼンカヅラ。」
私はそこで意識を完全に失った。




