拷問器具は使ったもの勝ち
アスランは私を庇おうとしたが、自分に向かって来た兵士に対応するだけでいっぱいだった。
元妖精あろうと、現在は七十代ぐらいの体力しかないのだ。
それでも、彼は一瞬で一人の兵士を床に打ち付けた。
腕を掴んでそのままその兵士の勢いを利用して床に打ち付けた体術には感心しかなく、女性の非力さもその体術を学べばカバーできるのではと考え、ここは絶対に生き延びて、生き延びた先でアスランに教えを乞おうと私は目標を立てた。
そう、人生には目標が必要なのだ。
兵士三人のうちの一人は最初から私に向かっており、私はアスランが盾になっている間に壁際へと逃げ、一番つかみやすそうで一番自分でも使えそうだと考えた拷問具を壁から取り上げた。
そして、私を今にも捕まえようと手を伸ばして来た男へと、私はそれを思いっきり振り上げてお見舞いしたのだ。
「ぎゃああ!」
掴み手からタコの脚のように皮の紐がぶら下り、その紐の先には金属でできた棘のある球が付いているという鞭だが、一振りで兵士のヘルメット、それも金属製のものをへこましてしまう威力迄あるとは思わなかった。
「あ、そか。遠心力って奴ね。まぁ、とりあえず。」
もう一振りは、当り前だが男の急所位置だ。
「ぎゃああああ!」
教わった時には半信半疑だったが、以前フェレッカで実践した時にその有効性を知ってしまったのだ。
「嬢ちゃん。」
あれ、アスランの呼びかけが砕けすぎたものになっている。
「嬢ちゃんは凄いなだぎゃ。」
「いえ。アスラン様こそ。二人を一瞬で。」
「爺ちゃんでいいだぎゃよ。そんでな、その目の前の男を出来る限り遠くに行くように蹴るかその武器で振り払いましょか。」
「え?」
「そいつらはもう死んでいる人間だぎゃ。」
確かにアスランの後ろで伸びていたはずの男達はゆらりと立ち上がり、アスランに再び手を伸ばして来た。
アスランは敵に振りむかずに後ろ向きのまま一人の腕を取ると、背負うようにしてその男を放り投げた。
「すごい!」
次の男には足を払ってバランスを崩した所を、そのまま倒れる男の背にのるようにして自分の体重を乗せて床に打ち付けた。
ずどおおおおおんと、石造りの地下の床なのに、大きく揺れた。
「すごい。惚れたわ!アスラン、あ、じ、じいちゃんに。」
「あ、爺ちゃんよりも、呼び捨てが良いだがにゃ。うん。めんこい嬢ちゃんに呼び捨てってすごく素敵だぎゃ。」
「あ、アスランってば。」
こんな時にこの人は何を言っているのか。
ほら、プルーデンスが、うわ、彼女どころではない。
「アスラン!宙に!宙に棘の棺桶が浮かんでいる!魔法はここでは使えないんじゃなかったの?」
それは棘のある部分を下に、つまり、アスランを刺し貫かんと彼の真上にうかんでいるのだ。
「魔法じゃない……嬢ちゃん逃げろ!」
私の真上にも大きな棘のついた鳥籠が浮かんでいた。
それはアスランのものと違って宙に浮いているのではなく、鎖で天井に固定されていたものである。
それが今やぐらぐらと振り子か鐘のように大きく揺れているのだ。
「はははは。殺す前にグールにいたぶらさせようと思ったが、面倒だ。死なない程度に潰してやる。生きたままグールに喰わせてやる!」
鎖がほどける音がジャラジャラとなり、私は足首を倒したはずの男に捕まえられたまま自分に落ちてくる鳥籠を見つめていた。




