事の次第、そして見守るという事
ダグドは死なず、カイユー達は無事に領土に戻って来た。
シロロの当初の目的通り、クラーケン様は彼の娘であるにろにろ姉妹と再会できたのだが、にろにろ姉妹はダグドを選んだのだそうだ。
シロロ達にボコられた上に無理矢理連れて来られ、さらには歓待されるどころか一人寂しく深海に帰る羽目になったと聞くに、哀れなクラーケン様が良い人すぎやしないかと同情心すら湧き上がる。
また、そうだ、や、聞く、といった伝聞言葉なのは、私が洗濯室に籠って刺繍をしていたからであり、結局宴会となったその準備にも追われてカイユー達に会う暇など無かったからである。
そして、私が全貌を知る事ができたのは、兵士として最高の男に宴会所の隅に追い立てられ、その男から出来事を聞かせられているからだ。
影となった場所に引き込まれた私は、傍目には男性と逢引きをしているようにも見えるだろうが、事実は全く違う。
私を逃がさないようにして聳え立つ大柄な男は最高の笑顔をしたアルバートルであり、彼は私に今日の出来事を聞かせながらも私に釘も刺しているのだ。
まるいち。
余計なことは言うんじゃないよ。
せっかくダグドがエレノーラを妻だと宣言したのだから、これが私達の企みだとダグドに知らせてはいけないという事だ。
「あら、企みだったのはバレたのでしょう。」
「前半部分はね。後半部分は確かに西の森は想定外で俺も苦戦したが、カイユー達がクラーケンと一緒に帰還するのは知っていたからね。」
「リリアナはあなたが必死で領民を避難所に誘導させようとしていたって言っていたわ。本当は後半部分をあなたも知らなかったのでは無くて?クラーケンの反乱があってあの三人が食べられたのかもって、私だって考えたもの。」
アルバートルは私に向けた笑顔を殆ど崩さなかったが、右の口角をぴくりと引き攣らせはした。
さすが、どんな戦況も好転させる男。
全てを掌握していた男を演じているな。
「は、はは。そんな風に突っ込みを入れてくるとは、本当に君はあくどい人だな。俺は君が黒幕だって事は隠してあげていたのに。」
今度は私が顔のどこかを引き攣らせる番だ。
勿論、顔がヒクっと痙攣を私にもたらしたワードは、彼に庇って貰った点ではなく、アルバートルにあくどいと言われたところだ。
「庇ってくれなくても、私は覚悟していたって言ったでしょう。」
笑顔を消した男は、なんだか妹であるエレノーラに対しているような、ただの男の顔つきで私に言い返して来た。
「うるさいな。今は物事がうまく運んでいるんだよ。君は余計な茶々入れない。という事で、余計なことは言わない。それから、カイユーの気持ちに気付いていない振りもする。これが君が守らねばならない、まる二。わかったね。」
「わからないわ。まぁ、でも、まる二に関してはカイユーにどう答えていいのか私もわからないから、気づかないでもいいけど。でも、不誠実じゃない?」
「全然。」
彼は言い切り、けれど、彼は胸の前で指を絡めて両手を組むと、頭の悪そうな女言葉でその続きを喋り出した。
「まぁ、私の事好きなの?でも、私はあなたの事弟としか思っていないから、ごめんねー。でもぉ、私を大事にして思い続けてくれてよくってよ。そのうちにぃ、あなたの事を恋人みたく思うかもしれないしぃ。って俺の大事な兵隊に言われるよりも全然いい。」
「言わないし、何よその口調。ぜったい絶対、私はそんな言い方なんてしません。あなたは私を物凄く馬鹿にしているでしょう。」
アルバートルは私の後ろの壁を叩いた。
私はびくっとし、そのためにアルバートルに捕まってしまった。
つまり、彼が右手を壁に打ち付けたがために、私は壁と彼の体によって捕らわれてしまったのである。
私を自分の虜囚にした男は、囚われの私の耳に囁いた。
「俺は弟同然の部下の命を守りたいだけだよ。」
「わ、私だって、カイユーには絶対に死んでほしくなんて無いわ!」
「だったら守ってくれ。あいつはね、なんにも無いんだよ。空っぽなの。兵隊としての生き方しか知らないの。あいつは君を見守りたいって言ってんだろ。あいつはそれを守って死なないように頑張るさ。だけどね、君に傷つけられたら、君への思いを断ち切った時は、あいつは特攻するんだよ。お終い、になるの。」
俺は兵士でしか無いんだ。
結婚したって俺は戦場に出るだろう。
俺の心が死んじゃうから。
私はアルバートルの言いつけを守るって約束するしかなかった。
だけど、カイユーが私を見守り続けるというのならば、私だって彼をずっと見守り続けてやる。
これでは自分は一生独身だなと自分を情けなく思い、でもそこで、私はカイユーに恋をしていたんだとようやく気が付いた。




