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蜂蜜色のリリアナの襲来

 飲食禁止の洗濯室でお菓子を食べ、紅茶を飲みながら笑いあっていた私達の所へ飛び込んできたのは、おっとりさんな筈のリリアナである。


「あなた方は、一体ここで何をなさっていたの?」


「あ、刺繍に夢中になって忘れていた。何時間たっちゃった?」


「あら、ほんとう。こんなに何もしなかった日は初めて。あ、そうでもないか。私は蛙を三匹もちびの裾に縫い付けていた。」


「本当はあなたが蛙が好きなんでしょう。でも、ピンクや赤の蛙って趣味悪い。」


「ノーラこそ。首回りが魔法陣みたいにおどろおどろしくなっているじゃない。」


 私達は自分達の趣味の悪さにようやく気が付いたという風にうーんと唸り、呪いの服となってしまった事態に少しどうしようかなって考え始めた。


「あら、私も参加していいかしら。私はお袖に刺繍をするわね。」


 リリアナは適当な椅子を引っ張ってくるとそこに座り、針箱から刺繍糸のついた針を抜き出した。


「あ、ちょっと、私が通したばかりの針でしょう。」

 リリアナに抗議の声を上げたのはアリッサだ。


「あら。でも私は刺繍糸を通すのが苦手なのよ。」


「私だって嫌いよ。嫌いなのに頑張って通したその針を使うなんて!」


「いいじゃない。あなたの蛙に必要なのは赤じゃないでしょう。今度は違う色になさいな。」


「で、あなたは何を刺繍するつもりよ。」


「うーん。お花かな。」


「お花しかできない、でしょう。で、チューリップなのでしょう。チューリップ。リリアナはチューリップしか刺繍できないんだから。」


 アリッサの揶揄いにぷうと頬を膨らませたリリアナであるが、繊細で一番女性らしい曲線を持つこの絶世の美女は、花は全部チューリップで描き表してしまうおおざっぱな人間だ。

 しかし、音楽に関しては繊細どころではなく、彼女には絶対音感というものがあるらしく、彼女が音を間違えたことは無い。


 けれど、今のリリアナが口ずさむのは調子が外れた適当な鼻歌で、酔っ払いダグドを彷彿とさせる彼女は、適当にしかみえない手つきでシロロの服の袖部分に針をブスリと刺した。

 そして、最初の糸が適当にしか見えなかったにもかかわらず、彼女の手によって子供が描く単純な形の小さな真っ赤なチューリップが一つ出来上がった。


「すごい。あなたが一番単純な刺繍なのに、あなたの刺繍が一番可愛らしいわね。温かい感じがする。」


「ありがとう。ふふ。楽しくなってきちゃった。もっとやっちゃおう。」


「私も蛙をもう一匹増やそう。」


「うーん私も、もう少し手を入れて。」


「いや、もうそれは完成でいいじゃない。もう怖さは充分よ。」


 蛙を無駄に増やそうとしている女に言われてしまった。


「そうよ。それ以上怖くしたらシロちゃんが可哀想よ。いじめになっちゃう。で、あ。いけない。私はあなた方を探していたんだった。」


「いまさら何よ。」

「どうして私達を?」


 リリアナはうーんと小首を傾げ、そして、まあいいか、と呟いた。


「え、いいの?」


「ええ。どうせ死ぬんなら私はいつもと変わらないそのまま死にたいって思うもの。ダグド様が死んじゃうなら、私も一緒に死ぬ。でも、私はダグド様が死んでしまう事も知らないまま、この幸せの中で死にたいなって。あなた方もそう思うでしょう。」


 私とアリッサは驚きのまま立ち上がり、そしていつもと変わらない日常のまま死にたいと言った女は、その言葉通りにシロロの服の袖に刺繍を始めた。


「リリアナ。何が起きているの?」

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