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凱旋の馬鹿ども

 空が白み始めた頃、漁船で迎えに行く必要もなく、彼等は自力で港に意気揚々とした姿で戻って来た。

 私は濡れそぼっている彼らを港の詰所に連れ込んだ。

 そこは簡易の暖炉が赤々と燃えているので、彼等の濡れた服もすぐに乾くだろうというか、私は彼等の着替えは一応用意していた。


 しかし元気いっぱいの様子だった彼らは、すぐに着替えるからというだけで、やはり疲れ切っていたのか暖炉の前に崩れ落ちた。

 だが、一番小さいからかシロロは回復力が高いようだ。

 彼はすぐにぴょこんと立ち上がると、着ていた服を脱ぎ捨て、私の渡した服に袖を通したのである。


「あら、翼は消えちゃったのね。」


「はい。畳みました。邪魔だから。」


「あら、それじゃあ、今度から何時でも出せるのね。」


「いいえ。パワーが無いと羽は生えません。」


「そう。それで、怪我は無いみたいだけど、クラーケンさんに殴られはしなかったの?大丈夫だったの?」


 私は知らなかったが、シロロには絶対防御という魔法があるというのだ。


「え、それじゃあ、力不足どころか、普通に怪我するクラーケンさんの方が立場が弱いじゃ無いの。弱い者いじめだったの?」


 シロロは可愛らしく頬をぷぅっと膨らませた。


「違います。クラーケンと僕では攻撃力が全然違いますもの。僕が疲れ切ったら海にぼちゃんだし。」


「あぁ、そうね、そうだったわね。あなたはこんなに小さいのに頑張ったのね。」


 シロロを抱き上げると、シロロは嬉しそうに両手を上げて喜び、彼の可愛い様にダグドか彼を抱きしめたがる理由が分かった気がした。

 私は彼を簡易テーブルのあるベンチへと連れて行くと、そこに彼を下ろした。

 テーブルの上にはマグカップと小さな籠が乗っているのだ。


「姐さん。俺達にもなんか労いはないのですか。」


 フェールも動けるようになったのか、ノロノロと立ち上がってシロロを座らせたベンチに向かって来た。


「はい。」


 マグカップのスープをフェールに渡した。

 彼らを待っている間にスープを作っていたのである。


「ぼくも!ノーラ姉さま。」


「はい。シロちゃんはケーキもいるかな。」


「いりますいります!」


 私はシロロにスープと籠の中のカップケーキも手渡した。

 フェールはシロロに手渡されたカップケーキにとても不審な物を見る目で見て、それから私を訝し気に見返して来た。


「姐さん。もしかして、城に戻った?ダグド領でこれを作った?」


「当り前でしょう。私は他所の台所は使えない人ですもの。でも、せっかくだからって、ここの貝を使ったスープにしたわ。冷蔵庫に砂抜き済みの貝があってよかったわ。備えあれば憂いなしって本当ね。」


 フェールは私ににこりと微笑んだが、すぐにため息を吐いて片手を額に当てて頭をがっくりと下げた。


「どうしたの?」


「いえ。普通は俺達の無事を祈って港の桟橋に立ってたりするかなって。」


「あら。どこにいたって現場にいないんじゃあ同じことでしょう。私が何もできない状態であなた方の無事を祈っていて欲しかったなら、今度は私を傍に置いておくのね。そうしたら、手に汗を握ってあなた方を応援しているから。」


 フェールの隣にカイユーが座り込んできて、そしてベンチの端っこに座ったカイユーはフェールの肩に自分の肩を打ち付けた。


「フェール。これが姐さんだ。あのエランさえ落とした姐さんの魅力だよ。姐さん、俺にもケーキつけて。」


「うわ、本気で趣味が悪い。」


「ちょっと、フェール。本人の前で何かな、その物言いは。」


 私はカイユーにスープを手渡しながら、フェールの脛を蹴った。


「いった。痛い。なのに、この痛みを求めたくなる。これがノーラ教ってやつですね。新たな信者の俺にもケーキを下さい。」


 私はもう一度フェールの脛を蹴り、だが、彼にもケーキを渡してやった。


「ノーラ姉さま。このカップケーキの中にはキャロブチョコレートも入っているのですね。中でとろけていておいしい。」


「シロちゃんは本当に良い子ね。戻って来たあなた方に食べさせるんだって頑張って作った甲斐があったってものよ。ほ、本当に、食べて貰えて、よ、良かった、わ。」


 私は涙を零しており、私はカイユーによってカイユーの胸に顔を押し付けられていた。


「次は俺にはブランデーケーキにして。」


「ブランデーケーキって、どれだけ長い旅路に出るつもりよ。」


「うそ、ブランデーケーキってすぐに作れないの?」


 私はカイユーの脛も蹴るべきなのに、カイユーを抱きしめ返して、その上、彼の濡れている服をもっと塩辛い私の涙で濡らすばっかりだった。

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