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シロロ様の深い考え

 私の腕の中の魔王は、ノーラはとても賢いと呟いて、私にうっとりした表情を見せた。


「あら、私があなたを感心させるようなことをしたのかしら。」

「しましたよ。対話が不能ならば、攻撃。僕は目から鱗です!」


 どうしよう。

 私が間違っていましたと、素直に彼に謝るべきだろうか。


「にろにろたちをどうやってお父様に返そうかと思っていましたが、直接に当たって来ればいいのですよね。」

「え、何のこと?」


 えっへんという風に私に胸を張った彼は、生け簀の中の姉妹達がダグドを父親と認識してしまっているので、彼女達の本当の父親に引き合わせる必要があると私に説明をしたのだ。


「すごい。あなたって優しいのね。そうね。本当のお父様に返してあげるのが一番よね。ダグド様があなたを可愛いと可愛がるわけだわ。本当にお利口さん。」


 私は感激さえもしていた。

 シロロはあの意思の疎通も出来ない小さな女の子達を面倒と思うどころか、彼女達の幸せを考えて色々と悩んであげていたらしいのだ。


「でも、どうするの?お父様は海の底なんでしょう。」


 彼はにこっと微笑んだ。


「大丈夫です。彼を呼び寄せる方法はあります。」


「え、どうするの?」


「シロロ様、それは危険はないのですか?」


 いつの間にか私達はエランとフェールに囲まれており、あ、フェールの少しだけ後ろにカイユーもいた。

 そして彼らは、特にフェールが興味津々に瞳を輝かせている。

 エランは興味というよりは、コカトリスの悪夢で、次に自分がやらされるだろう危険性を先に知りたい、という感じだ。


 彼はシロロによって蛾の化け物の背中に乗せられて体を壊した事があり、二度とそんな目に遭わないように馬でトレンバーチに行ったのに、コカトリスという化け物と戦うためにまたもやシロロの呼び出した別の怪獣に乗せられたのだとダグドから聞いている。

 カイユーが寝込んでいた時、彼も酷い乗り物酔いで自室で死んでいたのだ。


「エラン。目のクマが酷いわね。今回は話を聞かなくて良いようにここから離れていた方が良いのでは無くて?」


「はは。ありがとうございます。ですが、シロロ様を守るということは、俺は父を亡くした時に自分で決めた事ですから。シロロ様は、俺の父を助けるために身を挺して下さりました。」


「石化してカキーンってだけじゃない。」


 意味がわからないが、シロロが私の腕から飛び出して、フェールの後ろのカイユーを突き飛ばして転がせたので、どうやらカイユーが指摘したその事実はシロロには黒歴史のようだ。


「あら。ほら、シロちゃん、戻ってきて。私達はあなたのお話こそ聞きたいの。」


「はい!」


 彼はテテテと輪の中に戻ってくると、クラーケンを釣ります、と腰に両手を当てて威張るようにして言い切った。


「まぁ、でもどうやって。」


「ですから、呼び出すのです!召喚して、フェレッカの海でクラーケン一本釣りです!」


「行く!クラーケン釣り行く!俺行きます!絶対行きます!」


 フェールの後ろにいたカイユーが右手を大きく上げながら身を乗り出した。

 フェールは飛び出して来たカイユーの背中を引っ張って自分よりも後ろに戻すと、自分の右手を上げてシロロを見返した。


「もちろん、俺も行きますよ。魔王さま。」


 エランは物凄く嫌そうな顔をしたが、大きく溜息を吐き出すと諦めと追従する意思表示に右手を軽く上げた。

 シロロは男達を満足そうに見回し、それからなんと私に期待する視線を向けた。


「男の子遊びはパス。夜は寝たい人だし。シロちゃんも夜は寝ようよ。」


「うわ、水差し女現るって奴だね。」


 …………フェールめ。


「わかったわよ。行くわよ。行けばいいんでしょう。」


「よし、決まりです!」


 シロロは嬉しそうに宣言をすると、彼という姿からは想像のつかない、まるで、バスタブに頭まで潜った時に聞こえるもーんとした音を発生し始めた。

 フングル?イアイア?ルルイエ?

 ダグドが適当な嘘語でポリューシュカポーレを歌っているのを初めて聞いた時みたいだ。

 全く理解できない言葉で、全く聞いた事が無いメロディで、シロロは恐らく歌い始めているのであり、体がその音に合わせてリズムも合わせている。

 不気味だが、私はこの巫女のような状態のシロロを美しいと思ってしまった。


「ぽーぽぽぽ、ぽぽーぽぽぽ。」


 シロロと同じメロディを歌いながら現れたのは、ダグドの近くでにろにろしていたはずの姉妹だった。

 彼女達もシロロと同じようなリズムで、彼の左右で踊り出した。


「すごいな、仲良しさんだな。」


 頭上の聞き覚えのある声に顔を仰向ければ、勿論ダグドであり、彼は子供達が仲が良くて嬉しいと、この人は黒竜だったはずだよねと首を傾げたくなる感想を述べるだけだった。

 まぁ、一緒に踊り出されても困るが。


「これから夜釣りに行くんですよ。」


「君は病み上がりなのに。大丈夫か?」


「病み上がりだからこそ、ですよ。シロロ様もいるし。」


「シロロは駄目だよ。カイユー、シロロを連れて行くのは無しだ。」


「どうしてですか?」


「夜釣りなんて危ないもの、子供は駄目。夜更かしは子供に毒だしね。」




 ダグドって、どうしてこんなに常識的なんだろう。

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