アリッサと百戦錬磨の戦いへの火蓋
親友が自分の先をずっと歩いていた事実に打ちのめされた私は、ぶらぶらと広場を歩いていると、同じようにぶらぶらと歩いている神様を発見した。
竜騎士団の団長であるアルバートルだ。
なぜ神様なのかというと、神様を模して造られた石膏像に色付けしたら動き出したに違いない、とダグドが彼を評するからである。
小麦色の肌にプラチナブロンドの髪、そして、海よりも青い瞳の彼は、ここが老しかいない世界でありながら、領内中の老若問わず女性達の憧れの的である。つまり、彼を見て溜息を吐かない女はいない程に、彼の外見はゴージャスなのである。
「口説かれてみようか。」
悪戯っぽい声に横を向くと、目を猛禽類のように煌かせたアリッサがいた。
「口説いてって、彼にお願いするの?」
「まっさか。自然な流れで口説かせるのよ。」
「どうやって。」
「うん。それがちょっと自信喪失中だから思いつかない。」
「え、あなたが自信喪失って、どうして!」
「だって、アールはぜんぜん私に靡かなかったじゃない。ノーラから奪えるかもって、自信はあったんだけどなぁ。」
「……本気であなたはアールが好きなんだ。」
「譲るって言いそう?」
「言うわけ無いわ。人は物じゃないし、私を好いてくれた希少な人よ。私はそんな人には真正直でありたいもの。」
「ふふ、譲るって言わないあなたが好きよ。それに、気にしないで。本気で奪う気なら、ちゃんと奪っている。」
「あら、自信喪失って。」
「お遊びでも私は今までは誰でも落とせていたからね。」
私は十七歳でしかないはずのアリッサに背筋を凍らされており、どうして彼女は八歳のあの幼い頃から賢く大人びているのだろう。
いや、違う。
彼女は度胸と失敗した時の自分を受け入れられる強さがあるのだ。
「あなたは凄いわね。ダグド様にも自分から抱きしめて貰いに行っていた。そうね、私も貴方を見習ってそうしていれば良かった。そうすれば、ダグド様に抱きついて、彼を凍らすことは無かったもの。」
「え、何よ、それ。」
私は台所で泣いたのだ。
彼がエレノーラのものだと諦めていたのに、外見を変えた事で全てがリセットされたような気がして、諦めていた彼への気持ちが再燃して辛くなったと、彼を前に泣いてしまったのである。
そして、私はダグドの背中に、今しかないと抱きついていた。
しかし、私に抱きしめられた彼は、あからさまに身を強張らせた。
「ダグド様の背中に抱きついたらね、彼はカキーンて凍っちゃったの。普段したことないでしょう、私は。凄ーく困ったらしい。」
「あら、男は背中が弱いのよ。うん、いいわね、それでやってみようかな。ノーラ。アルバートルを適当なことを言って引き留めていて。私が男が背中が弱いって事を証明してあげる。」
ええ、証明なんていいよ、と言いたいが、私がアリッサに適うわけもない。




