犯罪者となりました
私とアールは、特にアールはやりすぎかと思う程に私にしなだれて人質役となり、騎士達の妨害に遭うことなく会議室から出ることができた。
「ノーラ!」
「大丈夫ですか!」
戸口から一歩出るとカイユーとエランがすぐに私の方へと飛び出してきて、私は彼らに完全に囲まれて守られたことを実感した。
人間安心すると軽口が出るものだ。
「カイユーが私の名前を呼んでくれるなんて嬉しいわ。」
彼は耳まで真っ赤になった。
「大丈夫よ。さんが付いてなくっても今回は許してあげる。」
「うわぁ、なんて寛大な女性なんだ。私をどこまでも連れて行ってください。あなたの為になら、私はどこまでもお供します。」
私は私に抱きついたままの男を忘れていた。
「あ、あの、アール様。面倒に巻き込んで申し訳ありません。ここまでお付き合いいただいて、あの。」
「アールと。えぇ、どこまでもついていきます。」
私は期待に目を輝かせている王様を見つめ、彼が確信犯的に馬鹿男を演じているのだと理解し、恐らく、彼が飽きるまで私達に付いてくるだろうと受け入れた。
でも、カイユーの小声には我慢できない。
「誰が猫かぶりです。そんなことより、私の逃亡ルートぐらい確保してあるのでしょうね。」
「お任せください、上官殿。連れ込み宿だって、俺はあなたの為に手配して差し上げます。って。」
私はカイユーの背中に拳を入れていた。
「ぶっ。いえ、すいません。大丈夫ですよ、ノーラさん。ここまでは想定済みですから。」
吹き出しを堪えながらの真面目な表情でエランは私に答えたが、エランが想定済みというならば、これはダグドだって想定済みという事だ。
「ダグド様はあなた方になんて伝えていたの?」
「大したことじゃ無いですよ。あなたという娘を誘拐してガルバントリウムに連れ去ろうと画策するかもしれないってだけですね。」
「ダグド様の優しさを逆手に取られたのね。」
「あなたほどの方を欲しがらない男などいませんよ。」
私は私にしがみついたままのアールを付き離すと、カイユーの上着の裾を引っ張った。
真っ黒で、黒竜の騎士らしい制服だ。
真っ黒ならば、真っ黒に振舞ってしまった方がいい。
「何?」
「議長を誘拐しよう。そして、会議室で幹部全員人質にして立てこもる。」
カイユーはにっこりと笑い、それから首を伸ばして私の耳元に口を寄せた。
「さいこう。どこまでもついていくよ、ノーラ。」
「さんはつけなさいよ。」
カイユーはちぃっと舌打ちをすると、私の願いを行動でもって示してくれた。
ぴょんと大きく飛び上がったと思うと、私達を囲んでいる通商の騎士達を一瞬で撃ち払い、その大将として会議室の戸口にまで出てきていた法衣姿の男を人質に取ってしまったのだ。
「はぁい。人質交換!議長さん、おいで!。」
「あの、馬鹿。」
エランこそ私とアールを忘れてカイユーの方へ走って行ったので、私は慌てて彼の背中に叫んでいた。
「ちょっと!私の守りはどうしたのよ!」
「すいません!会議室の中を先に片付けます!」
律義に答えたエランは会議室に消え、戸口からはひょっこりとカイユーが顔を出した。
「さっさと、おいで!姐さん!そこに敵はいないでしょう。」
確かに、カイユーが最初に廊下に出ていた全部の騎士を撃ち払っていたと、私は廊下に転がって怪我の痛みに呻く人たちを横目に見た。
うん、多分死なない、かな。
私は会議室へと駆け出した。
後ろに楽しそうに笑っている男を引き連れながら。




